『どこまでも下る階段』
『どこまでも下る階段』
下っても、下っても、どこまでも続く非常階段を降りていた。
階段は次第に霧に包まれ、降りて行くほどに視界が失われつつあった。
明けを待つ街の色が変わっていた。
例えば、鮮やかなネオンから、点々と残る航空障害灯に。あるいは、強いブルーの誘導灯から、黄緑に色の褪せた街灯へ。
霧は、そんな街の色を吸い込んで、階段の色を変えていった。
最下段は、まだずっと先のようだった。が、途中に扉を一つ見かけた。
開けようか、それともさらに下ろうか迷った。
街明かりは、この階よりもまだずっと低い位置にまで見えた。
一方、夜空に星はなかった。
欄干を抜ける風が、声のように周囲を抜けていった。
中途半端な階層の、扉のノブに掛けた手を、回すのか、回さないのか、人の声ではない何かが囁き掛けている。