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この世のすべてのカメラは2つに分けられる。Foveonか、Foveon以外か。
スマートフォンのカメラもドラレコも、監視カメラも、一眼レフも、この世の99.9%は「Foveonじゃない」。世界中のカメラのほとんどはベイヤーセンサーと呼ばれる撮像素子が搭載されている。
残る0.1%のFoveonセンサーの知名度は高くない。「フォビオン」と読めるだけで、あなたは0.1%の世界に踏み込むことになる(いらっしゃいませ)。Foveonを知れば世界の解像度が上がる。くもったメガネを磨くときがきたのです。
あの日の手触りと空気感
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by SIGMA dp3Quattro
7月上旬、初めて"ゲストハウス"に泊まった朝。前夜に会ったばかりの人達と「いい朝やねぇ」と言葉を交わしつつ、縁側に座りコーヒーをいただく。知らない同士だからこその気楽さか。小谷村の朝はまだ肌寒く、ホットコーヒーがちょうどよかった。カップのぬくもりが気持ちよくて、何度か手のひらの中で回転させる。
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by SIGMA dp3Quattro
山、家、草がしっとりと霧雨に濡れた姿をぼんやり眺め、誰かがもにゃもにゃとコーヒーの感想を呟く。曖昧に相槌をうちながら、カップをくるり。
なんにも起こらないけれど、ちょっとずつ非日常が重なり、印象的な時間。
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by SIGMA dp3Quattro
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by SIGMA dp3Quattro
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by SIGMA dp3Quattro
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写真を見れば蘇る、あのときの気温やにおい、風あたり。これがFoveonセンサーの最大の特徴であり、魅力だ。
Foveonセンサーとは何か
①FoveonはSIGMAのカメラにのみ搭載
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Foveonセンサーとは、現在SIGMAだけが開発し、同社の一部のカメラに搭載されている撮像素子[*1]です。
*1 撮像素子 デジカメのレンズから入ってきた光を電気信号に変換する電子部品のこと。「イメージセンサー」とも呼ばれる。撮像素子の性能が撮影画像の良し悪しに直結する。
最新のFoveonセンサー搭載機は、dp Quattroシリーズ(2014年販売開始)や、sd Quattroシリーズ(2016年発売開始)になりますが、両シリーズともに2022年に生産終了となり、以降、Foveonの新機種はでておりません。dp1 Quattroが登場してから、もう9年…。 ※SIGMAはFoveonの開発を継続しています。
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(いわゆる高級コンデジ)
基本的には新しいカメラほど性能がよいのですが、Foveonのもつ唯一無二の魅力ゆえ、9年も昔のカメラにも関わらず、現在も一部のコアなカメラマンたちによって最前線で使われています。
そう、私もその一人。終売を目前に新品在庫をかき集め、現在はdp0、dp1、dp3、sd Quattroの4台を所有しています。
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②Foveonセンサーの特徴
さて、そのFoveonセンサーの何が優れているか説明したいのですが、その前に、光と撮像素子の仕組みを解説します。(読み飛ばし可)
光の色は、3原色(R:赤、G:緑、B:青)の合計値で説明できます。R,G,B(255,0,0)なら、真っ赤、など。
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(出典:各種資料より作成)
カラー写真を撮影するには、光の強弱と、RGBそれぞれの強さを撮像素子で検出する必要があります。人間の目の網膜でも同じようなことをしている。では各色の強弱をどうやって計測するのか。その方法が今回の主題、Foveonか、Foveonじゃない(ベイヤー方式)か、の2種に大別されるのです。
まずは主流派のベイヤー方式センサーについて。RGBを1画素[*2]ごとに担当し、ざっくり表現すると4画素分で色(RGBの合計値)を推測する。
*2 画素とは、撮像素子の最小単位。画素数が多いほど、細かく表現できます。ただし美しい写真を撮るには画素の数だけでなく、大きさも重要だったりしますが、長くなるので割愛。
ところがFoveonセンサーは、B(青)を検出する層、G(緑)層、R(赤)層と垂直方向3層で受光する。つまり、1画素で3色の強さを検出可能。図をみてもらうと分かるように、ベイヤーよりも4倍の細かさ(高解像)で記録できそうです。実際はここまでシンプルでないので、単純に4倍ではないですが、それでも同じ画素数のセンサーだと、Foveonセンサーのほうがより細かく表現できます。
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(出典:各種資料より作成)
わたしの歪んだFoveon愛と光学への知見不足から、あまり正確な説明になっていません。ここら辺のお話しが好きな方は、ぜひもう少し詳しく書かれた記事などを読んでほしい。
ここまでの説明では、Foveonの圧勝に見えます(大好きなので..)。ただし世の中のカメラメーカーがベイヤー方式を採用しているのには合理的な理由あり。ベイヤー方式のほうが画像処理の効率が良かったり、高感度ノイズが出にくかったり、バッテリーもちがよかったり、様々な環境で撮影しやすかったり。
一方、Foveonは特定の状況でなければ能力を最大限発揮できない。例えば、明るい曇り空で、順光・無風、iso感度は100縛り。これらの条件が揃うと、驚くほど精緻で超リアルな写真が撮れることがあります。天与呪縛と割り切るしかない。
世界の美しさを教えてくれた
2年前にFoveonのカメラを使うようになり、カメラライフは一変しました。絶景を探すのではなく、日常に潜む美にうっとりとする日々。雨が降れば公園にいき、崩れたコンクリートがあれば喜んで駆けつけ、小さなハムシをみつけたら小躍りして。
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by SIGMA dp3Quattro
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by SIGMA dp3Quattro
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by SIGMA sd Quattro+ 70mmf2.8macro
これまでは、旅先やイベントで写真を撮ってSNSに投稿していただけでしたが、Foveonに出会ってから写真展に参加するようになりました。たぶん、被写体を探し、画角にこだわり、何度も撮影しなおすので、「(自分なりの)渾身の一枚」が生まれるようになったから。
もっとFoveonを見てほしい
Foveonが好きな人には「Foveonを語ることが好き」な人が多い。そんなFoveonを熱狂的に愛する人達で、去年、写真展を開催。私も参加しておりました。
そして、今年は大阪で開催します。(追記:2023/10/5-9に開催しました!)
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会期:10/5(木)~9(月祝) 会場:イロリムラ89画廊
展示協力:株式会社シグマ
「Foveon」の真価はプリントして初めて分かる。もっとFoveonを知りたい、と思った方はぜひお越しください。去年は700人が押し寄せる、異様な熱気の写真展となりました。たぶん、今回も熱い会場になる。
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中央に立つのは、主宰の藪崎次郎さん
「スマホで十分じゃない?」と言われて返せる言葉は少ない。けれども、毎日手元に大量の写真が流れ込むこのご時世、はっと目をひく写真はカメラで撮られたものが多い。そしてきっとその中に、Foveonの写真も紛れ込んでいる。あなたも気づかぬうちに、なんでもない葉っぱやコンクリートの写真に目を留めていたかもしれない。できればそうであってほしいと祈りながら、この記事を書いております。
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