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ゲームとフロー

 以前,『ゲーム研究の手引きⅡ』について紹介しました。今回は,この手引きで私が解説したキーワードのうち,「フロー」を取り上げ,その一部について補足的な説明を加えていきたいと思います(『ゲーム研究の手引きⅡ』の紹介記事はこちらです)。


フローとは

 フローは心理学者のチクセントミハイによって提唱された有名な概念です。フローとは,ある活動に深く没入している状態で,その活動で挑戦と能力のバランスがとれているときに経験されるものです。

 フローを誘発しやすい活動の例として,主にゲーム,スポーツ,仕事などが挙げられます。私たちはゲーム以外にも様々な活動によってフローに至ることができます。

 チクセントミハイの本はたくさんの翻訳書が出版されています。フローについては,翻訳書の紹介記事でも扱っているので,よろしければそちらもご参照ください。


ゲームプレイ時のフローを説明するモデル

 明確な目標と進行中のことがらについての即座のフィードバックがあるということが,フローを生じさせる条件のひとつです。ビデオゲームにはプレイヤーに明確なルールと目標,および即時的なフィードバックを与えるという特徴があります。ゲームプレイとフローとの間には密接な関係があります。
 下に示した図のように,フローのモデルは,挑戦と能力の水準(レベル)を軸としています。図中のPは,異なる時点でのプレイヤーを表します。ここでは「少しずつ難度が上がっていく連続したステージが設定されているビデオゲームをプレイする」という場合を思い浮かべてください。

フロー図

(Csikszentmihalyi, 1990, p. 74より改変)

 P1はこのゲームを初めてプレイするときを表しています。このとき,プレイヤーの能力は低い状態にあります。たいていのゲームの最初のステージは,簡単な課題をクリアするだけでよく,プレイヤーの能力が挑戦する課題と適合しています。このときのプレイヤーは,挑戦と能力のバランスがとれているためにフロー状態になります(フローチャンネルに入っています)。

 プレイヤーはP1にとどまり続けるわけではありません。プレイし続けることで上達した場合,能力が上がってP2の状態になります。このとき,同じ挑戦水準のステージに退屈することになります。

 別の場合も考えてみます。ステージの難度だけが上がった場合,P3の状態に移行することになります。このときは同じ能力水準で課題(ステージ)をクリアすることが難しく,プレイヤーは不安を感じます。

 退屈も不安もポジティブな状態ではありません。プレイヤーはフロー状態に戻るように動機づけられます。P2ではより難度の高いステージで難しい課題に直面することによって,P3ではプレイヤーが自分の能力を高めることによって,それぞれフロー状態であるP4に至ることができます。

 P4もP1と同様に,つねに同じ状態で安定しているわけではありません。すなわち,プレイを継続することで,退屈または不安のいずれかの状態に移行することになります。そのとき,プレイヤーは再びゲームプレイを楽しむために、P4よりもさらに高い水準のフローチャンネルに戻ろうとします。このように,フローのモデルはゲームプレイの動的な特徴を説明することができます。

 私たちは活動を終えたあとに「楽しかった」と感じます。フローは深い没入状態で,活動中はほとんど楽しいということを意識しません。


 フロー理論は,ゲームの面白さを説明するためによく用いられます。前回に解説した「内発的動機づけ」とともに,ゲームのポジティブな側面を説明する理論だといえます。

 もう少し詳しい話は,『ゲーム研究の手引きⅡ』の「ゲーム心理学のキーワード」に書いています。ご興味をもたれた方は,ご参照ください。


引用文献
Csikszentmihalyi, M. (1990). Flow: The psychology of optimal experience. New York: Harper and Row.(チクセントミハイ, M. 今村 浩明 (訳) (1996). フロー体験―喜びの現象学―  世界思想社)

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