故障禍…奥川恭伸の現在地
星稜高では押しも押されぬエースとして、またヤクルトでは久しぶりの本格派投手として将来を嘱望されていた奥川が肘痛に苦しんでいる。今回は、彼の現状や世論に対して思うことを書くこととした。
トミー・ジョン手術?
奥川の痛々しい投球フォームを見て、多くの方々が「トミー・ジョン手術をしてはどうか」という意見を発信していたが、部外者である我々がそのように簡単な発想で手術を薦めてはならないだろう。
この治療法が確立されてから40年が経とうとしており、球界内外で身近なものとなった。そのパイオニアは昨年失意の中亡くなった村田兆治氏であり、当時のビデオを見ると滝行をしたりしており、精神的な部分でかなり追い詰められての「一か八かの挑戦」であったことが伺える。その後、桑田真澄現巨人コーチや吉見一起氏が現役の後半で施術を受けているが、彼らは引退まで術前の状態に戻ることはなかったのだ。
しかしながら近年では、数年単位の長いスパンで術前の状態まで持っていくというプログラムがあるようだ。これによってオリックスの山崎颯一郎が侍ジャパンに選ばれるまでに回復した事でトミー・ジョン手術を受けると必ず前の状態に戻るという机上の空論といっても過言ではない無責任なことを言い出す人もチラホラと見られるようになったのだ。前述の山崎が前の状態に戻ったどころか、進化したというのは本人の不屈の努力があってこその素晴らしいものだとは思うが、古今東西の万人が同じルートを辿る訳では無いのだ。
投手にとって、肩肘は命のようなものだ。肺や心臓を患っている人に対して、簡単に「手術すれば?」と言い放つことができるだろうか。このことに関しては奥川の選手生命を蔑ろにしていると言ってもいいと思うのだが、皆さんはどう思われるだろうか。
スライダー投手からの脱却は必須
先日、中日の髙橋宏斗を掘り下げた時に、フォークボールは肘に負担がかかるという投稿をしたが、実はこのスライダーも多投厳禁の変化球と言えるだろう。
実は、スライダーという球種は変化球でも珍しい肘の使い方をするのだ。投げ終わった際に親指が上を向くようになるので、直球とは逆のチョップをする時のような肘の使い方をするのだ。従って、じん帯が最初から最後まで身体の内側にあるので、負担がかかるところでロックされてしまうこととなるのだ。
こうしたことがあるので、奥川には復帰後、シュートやチェンジアップといった直球に近い肘の使い方で投げられる球種を会得して欲しいものだ。よく言われている「故障しやすいフォームなのではないか」という問題は、近年流行りの敢えて沈みこまない投球フォームを採り入れているから手投げのように見えるだけであって、かなり計算された下半身の使い方をしているのでその心配はないと見ている。あくまで個人的な意見ではあるが。