「育成のソフトバンク」の終焉
眠れる鷹が来期の覇権を奪還すべく大補強を敢行した。希薄だった甲斐拓也の2番手捕手として嶺井博希をまず横浜から獲得。その後も近藤健介を日ハムから、オスナ、ガンケルをロッテ、阪神から、そしてテキサス・レンジャーズから有原航平を…と全日本チームを作ることができそうな面子が集まった。今回は、そんなソフトバンクの大補強について思ったことを書いていくこととする。
若手選手のモチベーションは?
僕個人のソフトバンクの印象といえば、「原石のダイヤを磨くのが上手い」というものである。千賀滉大、甲斐拓也、周東右京らを無名の育成選手から全日本に選出される選手、そして大リーガーへと育成したことはもはや野球ファンなら誰しもが知っていることだろう。
ただ、今回の補強でその強みが音を立てて崩れ去ってしまうのではないかと感じている。昨季、ソフトバンクでは野村勇という新人の選手が台頭した。長らくレギュラーを務めていた松田宣浩から三塁手のポジションを奪い、スタイリッシュでスピード感に溢れる守備でこれまでの三塁手像を見事に変えて見せた。恐らく、彼の活躍はソフトバンクの若手陣たちの中では大いに励みとなったことだ。ただ、今回の大補強によって折角上がった士気が下がってしまうのではないかと感じる。近藤は来季で30歳になる。ベテランの域へと入っていく選手ではあるものの、恐らく向こう5年は必ず働く選手だ。従って、9つしかないレギュラーのポジションな1つ蓋がされた状態になってしまったという訳である。
生え抜きの現有戦力を大切に
この流れで来季、さらなる補強に臨むとなれば戦力が肥大化した現在の巨人の二の舞となってしまうことだろう。ちょうど10年ほど前、巨人には正二塁手候補の寺内崇幸という選手がいたが、全く同じタイプの井端弘和と片岡易之の2人を獲得してしまい、結局寺内は引退まで控えの選手として野球人生を全うすることとなってしまった。今回のソフトバンクも近藤の同じタイプに柳町達が、嶺井と同じタイプには海野隆司がいるではないか。補強はあくまで「補う」という字を書く。ソフトバンクはぜひ、他球団から獲得する選手は現有の戦力では補う目処が立たないタイプの選手のみとして欲しいものだ。
ただ、対照的に日ハムの若手陣たちにとってはこの上ないチャンスなのだ。来季は戦力差から到底ソフトバンクに叶うとは思えないが、数年ほどたって今回の近藤や有原が衰えた頃には両軍の力関係が逆転しているかもしれない。そう考えると、日ハムにとっての近藤の穴は短期的なものなのだ。
最後に
素晴らしい育成環境の整ったチームだけに、今回の「乱獲」は悲しい気持ちになった。他の5球団はぜひ、このソフトバンクを打破して欲しいと感じる。