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【詩】母と私と青い麦:Birthday Song

長雨の合間、
晴れた窓の向こうには青い麦が輝いていた。
それは私が生まれた日の話。

光があふれていた。
風が揺れていた。
見渡す限りの青が、
視界を埋め尽くしてきらめいた。

街中の病院から
そんな広大な景色が見えるはずもない。

かすかなそよぎが
わずかな色が
そっと窓辺に届いたくらいか。

けれど母の中でその日の青は
どこまでも広がる世界だったのだろう。

微笑む母に、
思春期の私は返事をしなかった。
でもこの人の娘で良かったと、
心の中でそう思った。

胎内の記憶とか
お空からママを見つけたとか、
巷を騒がせるような、
そんなことは何一つないけれど、
この世界の美しさを描いた母の言葉は今、
私の物語の根っこ。

自分の紡ぐ物語の中で、
どこまでも広がっていく。


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