【基礎教養部】「生きのびるための流域思考」岸由二著
JLAB基礎教養部の活動で作成しました。
今月は私が書評の担当でした。imadonさんチクシュルーブ隕石さんのnote記事も参照されたし。
選んだ本は岸由二さんの「生きのびるための流域思考」です。
選んだ理由は、流域思考という言葉に惹かれたからです。この本を紀伊國屋書店でたまたま見つけた時、「流域思考、なんじゃそりゃ!?」と思わずマガジンマークが出てしまいました。ビジネス書には論理的思考や、批判的思考、デザイン思考などたくさんの〇〇思考がありますが、流域思考など聞いたことがありません。手にとってざっと読んでみると、ビジネスの香りは一切しない。流域治水の入門のような内容。私はビジネスパーソンではありませんので、思考の拡張に興味をそそられ、流域思考を習得すべく、この本を手に取りました。
以下私がこの本を読んで考えたことです。
なんでも思考法にできる。
正直、私にとって流域思考に目新しさみたいなものは感じられなかった。流域思考とは、河川などのスポットとしての場所だけではなく、雨の水を河川・水系の流れに変換する大地の地形に着目して、水土砂災害のリスクを検討するという考え方である。ざっくりいうと、地球は繋がっているから全体的に見ろよ。ということである。もちろん、都市デザインや、自然保護との関わりなど、流域思考特有の考えは存在するが、このような物事を巨視的に見るという考え方は水土砂災害対策にだけで無く、あらゆるリスク回避を考えることにおいて当然のことで、わざわざ言うまでもないことではないか。
そこで私の中で、「〇〇思考」とは何かと言う疑問が読後にふつふつと湧き始めた。
こんな考え方でこんなことをします。と言うことを書けば思考法になるのではないか。例えば、人間関係の中で無理をしてしまったり、我慢をすることは誰にでもある。けれど、自分を押し殺しているとストレスにが大きくなってしまう。だから、少しずつでも自分が良いと思える選択をすること、自分の判断を信じてみる「我流思考」はどうだろうか。また、頑張り過ぎると体調を崩してしまうことがある。だから、無理せず気分転換や休息を意識して取るようにする「無理しない思考」などどうだろう。
様々な検討を重ねて判断することで本質を把握し問題解決がしやすくなるため、物事をすぐ鵜呑みにせず疑いを持って取り掛かる「批判的思考」
抽象度や実践適応範囲に違いはあれど、「我流思考」も「無理しない思考」も「批判的思考」のように言葉としてそこまでおかしくないように思える。「〇〇思考」の○には様々な言葉を当てはめることができそうだ。これから私にビジネス書を書く機会がもしあればこのテクニックは使えそうだ。
地図が私たちに与える影響
筆者は地球での持続可能な暮らしを実現する鍵として流域地図を提案する。流域地図とは、行政的な単位で地図を区切るのではなく、流域という地形、生態系を単位とする地図のことである。行政区ごとに作成されたハザードマップだけでは、対策が不十分である。ある規模の豪雨が降った時、自宅が何メートル水没するか地図で明示されても、二階に逃げるか、学校に逃げるか、事前準備ができる程度で、そもそもの治水に備える広域活動も、行政の連携も、ハザードマップには示唆されていない。
豪雨に対応して発生する氾濫は、行政区で起こるのでは無く、豪雨を洪水に変換する流域という大地の気候が引き起こす現象である。行政地図をいくら詳細に見つめても、豪雨氾濫のメカニズムはわからない。
地図は生活に連動する。人類の歴史の中で、採取狩猟時代であれば、その時の地図は大地の凹凸や、水循環の様相や、森や草原や川や海などの配置を記録し、仲間と共有できる地図であっただろう。農業が栄えた時代ならば、日々の農耕・牧畜の都合に沿った土地の区画、人工的な水系の配置、さらには収穫物を貯蔵する区画の創出や管理や、交通路など、採取狩猟時代の大地の凹凸地図をどんどん離れ、幾何学的・人為的に区切られる地図になっていっただろう。このように地図は人々のニーズによって最適化されてゆくと筆者は語る。
私は地図は人々のニーズによって個別化、最適化されるものであるという人が地図を作るという方向の考えしか持ち合わせていなかったが、筆者は流域地図によって地図から人を作ろうとしている。このアプローチに私は目から鱗が落ちた。
リスク回避というのは必要性が見えにくいからニーズを形成しずらい。だから、流域地図が普及するのはきっと難しいだろう。だが、これからの災害対策でその必要性が認識されてゆくはずだ。私は本書に見られる流域地図の萌芽に水をやりたい。
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