なぜ、ブランディングは失敗するのか?
解答1:戦力が欠如しているか、明確でなく、戦略に基づいた活動をしていないから。
=ブランド戦略は行動指針あり、ブランディングは活動体である
1.1「行動指針」としての戦略
ブランドは、しばしば人に例えられます。人がその行動や価値観に基づいて信頼を得るように、ブランドもまた、どのような行動を取り、どのような価値観に基づいて活動するかが、そのブランドの評価を左右します。
そして、その行動の指針こそが「ブランド戦略」であり、ブランドの存在意義や市場での振る舞い方を決定する重要な要素です。
デービッド・A・アーカーは、ブランドを単なる「記号」ではなく、ブランドの価値や信頼性を消費者に伝えるための強力な手段であると定義しました【アーカー, 1991】。
彼の理論において、ブランドは「認知」「ロイヤルティ」「知覚品質」「ブランド連想」という四つの要素から成り立っており、これらの要素がブランドの戦略的な行動に結びついて初めて、ブランドの強さが発揮されます。
ブランド戦略は、単なるビジョンやスローガンを超えた、「行動指針」であり、ブランドが市場でどのように振る舞うべきかを具体的に示すものです。この行動指針は、すべての企業活動の土台となり、その方向性を決定します。
例えば、ブランド戦略に「持続可能性」を掲げた企業は、すべての活動において環境への配慮を実践するべきです。この戦略がなければ、ブランドの活動は無秩序になり、消費者に一貫したメッセージを伝えることができません。
1.2 ブランド戦略とブランド戦術の違い
ブランド戦略は、ブランドの行動指針を定めるものですが、それが具体的にどのような活動に変換されるかを決定するのが「ブランド戦術」です。ブランド戦術は、戦略に基づき、具体的な施策や活動を計画・実行するための手段です。
たとえば、戦略が「孫の代まで顧客に責任を持つ」だった場合、「消費者との長期的な信頼関係を築く」ことが目的となり、戦術はそのための具体的なアプローチ、例えば「優れた顧客サポートの提供」や「信頼できる製品ラインの維持」などになります。
ここで重要なのは、戦略が「何を目指すか」を決め、戦術が「どうやってそれを達成するか」を具体化するという役割分担です。ブランディングは、戦略を策定した後、それに基づいて具体的な戦術をデザインし、その戦術が適切に実行されることで、戦略が実現されるという流れです。
これは、ブランドが単なる概念ではなく、具体的な活動を通じて消費者に示され、評価される存在であることを示しています【アーカー, 1996】。
たとえば、ナイキの「Just Do It」というブランド戦略は、単なるキャッチフレーズにとどまらず、スポーツやチャレンジ精神を奨励する企業としての姿勢を示しています。
そのため、ナイキは製品開発から広告キャンペーンに至るまで、すべての戦術がこの戦略を支えるように設計されていると考えられます。これは、戦略と戦術の連携がどれほど重要かを示す好例です。
1.3 ブランド戦略が行動指針である理由
ブランド戦略が「行動指針」として機能する理由は、それが根本的な価値観と活動の方向性を定義するからです。
消費者は、単なる商品やサービスを選ぶだけでなく、ブランドがどう行動しているかを重視します。ブランドの行動は、そのブランドがどのように見られ、評価されるかを直接的に左右します。
たとえば、あるブランドが「社会的責任」を強調している場合、どのように社会に貢献し、どのようにそのメッセージを行動で示すかが重要です。もしも、ブランドが宣伝ではサステナビリティを訴えているのに、実際の行動がそれに矛盾していれば、消費者の信頼は大きく損なわれます【ケラー, 2008】。
ブランド戦略は、単なる外向きのメッセージではなく、内部行動にも影響を与えます。例えば、ブランドが「顧客第一主義」を掲げるのであれば、その理念に基づいてすべての社員が行動し、顧客との接点でその方針を反映させる必要があります。ブランド戦略は、ブランド全体を統一し、一貫した行動を取らせるための基盤となります。
1.4 ブランディングは活動体である
ブランディングは、ブランド戦略を具体的な行動に変換する「活動」そのものです。ブランド戦略がブランドの行動指針を示すものであるならば、ブランディングはその指針に従って市場での活動を展開するプロセスです。
ブランディングは、製品の品質や顧客サービス、さらには広告キャンペーンまで、あらゆる活動に反映されます。ブランドが行うすべての活動は、ブランド戦略に基づいている必要があります。戦略と異なる行動を取れば、消費者はそのブランドに対して混乱し、信頼を失うかもしれません。
たとえば、アップルは「ユーザーフェースのシンプルさ」と「革新」をブランド戦略の中心に据えていると見れますが、その戦略は製品開発からマーケティング、さらには販売方法に至るまで、すべての活動に反映されています。
このように、ブランディングは戦略を市場での具体的な活動に落とし込み、消費者に対してその価値を実際に体験させるプロセスと言えます【ケラー, 2003】。
1.5 ブランドを人に例える
ブランドは、しばしば人に例えられます。人が自らの信念や価値観に基づいて行動し、その結果として信頼を得るように、ブランドもまた、その行動と価値観によって評価されます。ブランドが約束を守り、一貫した行動を取り続けることで、消費者に信頼される存在となります。
たとえば、スターバックスは「地域社会との関わり」と「持続可能なコーヒー調達」をブランド戦略の中心に据え、その戦略に基づいた具体的な行動を取っています。スターバックスは、ただコーヒーを売るだけではなく、その行動を通じて消費者に「信頼できるブランド」というイメージを築いているのです。
人が言葉だけで信頼を得ることができないように、ブランドもただのメッセージや広告だけで消費者の信頼を得ることはできません。
ブランドの行動が、その戦略に忠実であり、消費者の期待に応えるものであるとき、ブランドは成長し、消費者との長期的な信頼関係を築くことができるのです【アーカー, 1996】。
1.6 ブランドの一貫性と信頼の構築
ブランドが成功するためには、すべての行動が一貫していなければなりません。ブランド戦略は、そのブランドがどのような価値を提供し、どのように消費者に対して約束を果たすかを明確に示すものです。しかし、これが単なるスローガンやビジョンに留まってしまっては、ブランドは消費者からの信頼を失いかねません。
たとえば、あるブランドが「環境に配慮した製品」を売り出しているにもかかわらず、その製品が実際には持続可能な方法で製造されていないとすれば、消費者はその矛盾をすぐに感じ取るでしょう。
このような場合、ブランドはすぐに信頼を失い、ダメージを受けることになります。これを避けるためには、ブランド戦略が設定された段階で、戦術がその戦略と完全に一致するように設計されなければなりません。ブランドのあらゆる活動が、その戦略に基づいて行われるべきなのです【アーカー, 1996】。
一貫性を持って行動することで、ブランドは消費者との長期的な信頼関係を築くことができます。一貫した行動は、消費者に対して「このブランドは信頼できる」というメッセージを強く送るのです。
そして、この信頼が、ブランドの持続的な価値を支える重要な要素となります。ブランドの成功は、単発的なキャンペーンや商品に依存するのではなく、戦略に基づいて一貫した行動を取り続けることで築かれます。
1.7 ブランド戦略を企業全体に浸透させる
ブランディングを成功させるためには、その戦略が企業のすべてのレベルで浸透し、実行されなければなりません。
これは、トップマネジメントから従業員一人ひとりに至るまで、関係者全員が同じ戦略に基づいて行動することを意味します。戦略は、ブランドの「顔」を決めるだけでなく、「心」と「魂」を形作るものです。
戦略がスタッフに浸透し、全体で共有されることで、すべての部門がそのブランドの価値観に基づいて動くことができます。
たとえば、顧客サポート部門は「顧客第一主義」という戦略であれば、それを理解し、その理念に基づいて顧客対応を行う必要があります。
また、製品開発部門もその戦略を理解し、顧客が求める製品を提供することが重要です。このように、ブランド関連部門の全体で戦略が共有されて初めて、ブランドは強固なものとなるのです【ケラー, 2003】。
ブランド戦略の成功は、一貫性だけでなく、全員がその戦略に基づいて行動できるかどうかにかかっています。
これを実現するためには、戦略を社内で明確に伝え、戦術として具体的な行動に落とし込む必要があります。戦略が曖昧であったり、関係者がその戦略に対して無理解であれば、ブランドの行動は統一性を失い、悪影響を及ぼすことになります。
1.8 ブランド戦略の進化とフィードバックループ
ブランド戦略は、固定的なものではなく、常に進化し続けるものである必要があります。市場は常に変化しており、消費者のニーズも日々変化しています。
そのため、ブランドは定期的に戦略を見直し、必要に応じて調整を行うべきです。このプロセスにおいて重要なのは、消費者からのフィードバックです。
フィードバックループを構築することで、ブランドは消費者の反応を迅速に取り入れ、戦略を調整することができます。
例えば、製品に対する評価やサービスの改善点について消費者の意見を集めることで、ブランドはその戦略をアップデートし、次の行動指針を策定することが可能です。
これにより、ブランドは常に消費者のニーズに対応し、競争力を維持できるのです【ケラー, 2008】。
このフィードバックプロセスは、ブランド戦略の持続的な成功に不可欠です。消費者とのコミュニケーションを大切にし、その意見を尊重することで、ブランドは成長し続けます。
そして、消費者の期待に応えるだけでなく、その期待を超える行動を取ることで、強力なブランドを構築していくことができるのです。
1.9 まとめ:ブランド戦略は行動指針、ブランディングは活動
ブランド戦略は、単なる表面的なメッセージや広告ではありません。
それは、ブランドが市場でどのように行動し、消費者に対してどのような価値を提供するかを決定する「行動指針」です。そして、ブランディングは、その戦略を基にした具体的な活動です。ブランドのすべての行動が、この戦略に従って統一され、一貫したメッセージを消費者に届けることが求められます。
ブランド戦略が全体に浸透し、すべての部門がその戦略に基づいて行動することで、ブランドは成長し、消費者からの信頼を得ることができます。また、消費者のフィードバックを基に戦略を進化させることで、企業は変化する市場に対応し続け、ブランドの価値を高めていくことができるのです。
ブランドは、消費者との信頼関係を築くための「行動」であり、その行動が一貫している限り、ブランドは力強く成長し続けます。
ブランド戦略が明確であり、それに基づく活動が的確である限り、消費者の心に深く刻まれるブランドを持ち続けることができるのです。
出典
アーカー, D. A. (1991). Managing Brand Equity. Free Press.
アーカー, D. A. (1996). Building Strong Brands. Free Press.
ケラー, K. L. (2003). Strategic Brand Management. Pearson.
ケラー, K. L. (2008). Best Practice Cases in Branding. Prentice Hall.