『インディアナ、インディアナ』 レアード・ハント
不思議な読み心地の小説だ。
人物の相関関係や物語の流れがなかなか掴めず、中盤までは読み進めるのがややしんどい。
何人かの人物が登場するのだが、彼らが何者なのか、どういう関係なのか、いまいちはっきりしないまま、幻覚や回想や手紙で構成されていく。読む者はそれらに書かれる断片的な情報から、彼らが何者なのかを想像しなければならない。
その作業がやっかいで挫折しないともかぎらないので、読む方がいたら手助けになるように、一部の登場人物と相関関係をここで紹介しておこう。
ノア・・・老人
ヴァージル・・・ノアの父
ルービー・・・ノアの母
この3人の他に、オーパルという女性とマックスという若者が主要な登場人物だが、オーパルとマックスが何者であるかに関しては、読み進める楽しみとして明かさないでおく。
分かってくるのは、ノアが、やや精神薄弱の気があり、そして見えないものが見えるという特殊能力を持っているということ。
そして、オーパルはノアと特別な結びつきで繋がっている相手で、こちらは重度の精神疾患を抱えて、どこかの療養施設からノアに手紙を書き送り続けていたらしいということ。
特殊能力を持つノアはかなり変わった性格であり、彼に関する記述だけで小説はエキセントリックな味を持つのだが、それを更に美しく彩るのが、幻想的なオーパルの手紙である。
回想される父ヴァージルや母ルービーの言葉もまた魅力に満ちており、この本は小説であると同時にひとつの長い詩のようにも感じる。
ヴァージル、ルービー、オーパルの言葉から一つずつ紹介しよう。
ヴァージル↓
ルービー↓
オーパル↓
特にオーパルの手紙は、どれもとても美しく、光と多幸感(への憧れ)に満ち、暗く救いの見えない現実との対比を思わせて悲しい。
静かに生まれて消えていった小さな人間たちの、切なく美しい幻の叙事詩。
小説というより、そんな感じである。