【まいにち小説】儚い命が降る夜に
一人で星を眺めていた。白く瞬いているものが幾つか、黒い空に浮かんでいる。空気は綺麗に澄んでいて、心地よい風が吹く。
周りは紺碧の海に囲まれていて、穏やかな波がわずかな陸地に押し寄せる。陸の大きさは半径一メートルほど。わたしはその上に座り、最期の瞬間をただ待っている。
この地球の陸はすべて沈没してしまった。唯一残るのはここだけで、そしてわたしも唯一生きている人間なのだろう。お母さんやお父さん、妹などの家族はみんな、恐ろしい波にのまれて死んでしまった。
ふと、一つの星がわたしのいる陸地へと降ってきた。振り返ると、そこには白く光る破片のようなものが落ちていた。興味本位で手に取ってみると、突然その破片に謎の映像が映し出された。
──家の中で楽しそうに食事をする三人の中年くらいの男たち。しかしそこへ勢いよく波が押し寄せて、男たちの姿はどす黒い波の中に消えてしまった。
「変なの......」
この映像はそこで途切れていた。なんだったのだろうと不思議に思っていると、白く光る星の破片が今度は次々と空から降ってきた。その一つを手に取り、またその映像を見てみる。
──どこかへ向かって歩いている幼い女の子。彼女の手元には、母親らしき人物の写真がある。彼女はそれを見つめながら、目をキラキラと輝かせていた。そんな少女が辿り着いた先は大きな大学病院だった。しかし、目的地を目の当たりにした瞬間、あのどす黒い波が彼女に襲いかかる。波にのまれた彼女は一瞬にして映像から消えてしまった。
「一体なんなの......」
残酷だ。人が消えていく瞬間なんて、見ているだけで苦しいよ。しかしこれが何なのかを突き止めるためには、もう一つの破片を手に取るしかなかった。
──病室のベッドの上で眠る女性。彼女の腕には点滴が繋がれていて、鼻には酸素カニューレがつけられている。静止画のような時間が過ぎていく中、あの波が病院の窓ガラスを破壊し、病室の中に水が溜まっていく。その直後、女性がどす黒い波にのまれてしまった。
これは人々の最期の瞬間なのだろうか。ふと、そう思ったとき遠くから一つの声が聞こえた。
「おーい、お姉ちゃん!」
顔を上げると、そこは雲の上だった。
目の前に広がっていた海や夜空はどこにもなかった。
「家族の顔を見ることができてよかったわね。まあ、わたしたちはここにいるけれど(笑)」
「最期の一瞬だけお前の頭から記憶を奪ったのは、お前に命の儚さを教えるためだったんだ」
わたしは家族の腕の中で、思考を巡らせた。そういえば、わたしはいつもダラダラと生きていてよくお父さんに怒られていた。学校にも行かず、ずっと家に引きこもってゲームをしていたのだ。どれだけお父さんの口から「後悔」という単語を聞いたことだろう。
「人生はいつ何があるのか分からない。ほらたった今、お前の人生は終わってしまったんだよ」
その言葉が胸にぐさりと突き刺さった。
そのとき、わたしはものすごい重罪を犯してしまったのだと気付いた。