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スガコ先生に捧ぐ

スガコが逝ってしまった。

95歳と言うから大往生も大往生。親戚でも身内でもなく,ましてや弟子でもないのに,わたしはなんか茫洋とした気分がした。

アットホームではなく常に口喧嘩の応酬が延々と続く,ベタなホームドラマを書き続けた大脚本家の死は,寂しさがあるのだ。

スガコという脚本家をきちんと知ったのは,1990年に始まった「渡る世間は鬼ばかり」(渡鬼)というTBSのホームドラマだった。

スガコの描くホームドラマは,思春期の心の琴線に響くのか,学校でもこのドラマがよく話題に上っていた。

他にも,「大相撲ダイジェスト」「ニュース23」なども話題に上っていたから,親世代が見ているテレビ番組を子世代はなんとなしに見ているかんじだった。

だから,スガコには,遠くの親戚くらいの近さを勝手に感じていた。

スガコの歯に衣を着せぬ発言がとても心地よかった。

高校生の時わたしはスガコに救われた

スガコが「国語はトップクラスなのに数学はとにかくできなくて,数学受験がある国立大受験は捨てて数学のない私大受験を選んだ」という世渡り術を新聞で披露していたのを読んだ。

そして,すぐさま,「コレだ!」と,高校生のわたしは,思った。

わたしも国語はかなりできるのだが,なんせ数学は赤点スレスレの低空飛行で,全くやる気がでない。

大学受験予備校の模試では国語の成績が異常によく,東大クラスへ変更をすすめられたが,まんべんなく点を取らねばならない平均主義の国立を捨てて,私大受験で楽に生きることを決めた。

スガコは,第二次大戦後の学制改革の時代に(それまで男女別学だった),大学を出ても就職先がなくて,早稲田の大学院を受験して,修了している才媛だ。

さすが,スガコは大学院を出ておられる!

わたしも小学生の頃から,大学院生になることに憧れていたので,大いに感銘を受けた。そして,スガコをロールモデル(生き方のモデル)の1人にした。

わたしにとってスガコは,希望の星。

スガコがいなかったら,数学ができないからという理由で,大学院進学をあきらめていたかもしれない。

スガコは,自伝を「春よ来い」という朝ドラで描いていたが(主役が交代したからよく覚えている),けっこうな辛酸をジョブキャリアで味わっていたことを知った。

「女性だから」と言う理由で,脚本を書かせてもらえなかったり,散々だ。

スガコは,渡鬼よりずっと前,第二次世界大戦後の日本のテレビの創成期から活躍している大御所だけど,遅咲きの人。

50代で,脚本を書いた朝ドラ「おしん」が世界で大ブレイクしたと記憶している。

スガコは,日本の家族観を細々としたというか,普通の日常のエピソードをホームドラマという形で,脚本にしていた。

スガコとタッグを組んだのは,大プロデューサーフクコで,この双頭が女性から観た視点の日本のホームドラマを創ったと思っている。

ホームドラマって

だけども,この「ホームドラマ観」っていうのが曲者(くせもの)だ。

渡鬼では,幸楽という「町のラーメン屋」(この物語に出てくる店主の母は,「うちは町のラーメン屋ですよ」というセリフをよく言っていた)を舞台に,嫁姑,介護問題など,日本の家庭によくあるテーマを扱っていた。

家出してきたピン子が幸楽に「拾ってもらって」,やがて,先代の店主の長男と結婚して,「長男の嫁」として,滅私奉公しちゃう話だ。

極端なくらいのディフォルメで,お姑さんには文句も言えないという,長幼の序(年上を尊敬する儒教の教え)があったり,男女共同参画社会が掲げられた平成の世でも,とにかく古臭かった。

親近感を視聴者に抱かせるための演出だとは思うけれど,ヒロインのピン子は,白い三角巾に割烹着のラーメン屋の衣装だった。

その衣装を見て,お隣のおばさんが「この人,こんな格好をしているけれど,いつもはシャネルを着ているらしいけれど,品がないわねぇ」と,いつも言っていた。

現実はシャネルなのだ。※1

そして,この幸楽。どこぞの田舎の話なのかと思えば,幸楽は東京のテレビ局のすぐ近くにある,都会のラーメン屋という設定。

だから,幸楽の店主の子どもらが引き起こす事件も,風俗系の仕事にフラフラ走ったり,リストラされたり,えなりかずき演じるピン子の子ども(店主の子どもで「真」,真の姉は「愛」。誰も知らないと思うけど,「愛と真(まこと)」という古い昭和のドラマから来ていると思う)が突然東大を目指したり。

えなりかずきがのジジクサイファッションに言葉遣いが女子校生には,ビックリだった。

だって,「母さん,お腹空いたから,なんかこさえてよ」

なんて,平成の子どもが言うか?

「こさえて」なんて言葉遣い,この世代はきっと知らないよ。

脚本家と見ている世代のギャップがとにかく面白かったし,あえてそういうズレを「世間一般の認識」って,こんなもんですよ~と,言っているのかもしれないと思っていた。

ベタなホームドラマなのだけど,現代の家族事情をドンずばでぶっ混んでいて,その匙加減が絶妙なのだ。

「家族観」というベタベタでガチガチな見方は,一見,普通の家庭にこそ,根強くしつこく染みついているからだ。

そもそも,封建制度なんて,鎌倉時代に終わったと思ってたもん。徒弟制度なんて,江戸時代で終わったと思っていたもん。

「家長(かちょう)」や「家(いえ)制度」なんて,平成前に終わっていたと思ってたもん。

でも,そうじゃなかったのだ。

家長制度なんて,社会学をやってなければ知らない人がほとんどだろう。

フェミニズム,女性学なんて,さらに知らないと思う。

だけど,だけどね,わたしたち,女性が家と言う囲いから出て,あれこれできているのは,そんなに昔からではない。

だって,女性参政権といって,女性が政治に関わることすら,第二次大戦後にやっと勝ち取ったものなのだ。

未だに,女性議員の割合は,日本は9・9%(166位)で,ルワンダ(61・3%),キューバ(53・5%),アラブ首長国連邦(50・0%)に大きく水をあけられているのだ。

もー!もー!なんずら?

わたしはワナワナしてしまう。

でも,ふと思った。

こんなにスガコ,スガコ言っている自分は,なんなのだ?

ピン子と同様に,わたしにとって,スガコは女性のキャリアのロールモデルの先生として,今も輝いてる。

スガコよ,ありがとう!

※ロールモデルは成長と共に変化します。自分のスキルアップを狙うなら,まずはスキルをチェックしてメンテナンスすることをおススメします。詳しくは,こちらをごらんください。

1現実はシャネルなのだ
※2女性議員の割合



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K夫人/発達∪心理学のオバさん
論文や所見書き、心理面接にまみれているカシ丸の言葉の力で、読んだ人をほっとエンパワメントできたら嬉しく思います。

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