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軽田 紋
2024年6月23日 14:52
端山茂山奇譚(拾漆)よう、いるか?さっき、山道でこんなのを見つけたよ。 突っ立て泣いてたんだ。ああ、人間の子だ。 迷ったのか…ちがうな、置き去りにされたんだ。 まあ、可愛そうだがな。これも山の掟だと、他の動物どもと同じように放っておいても良かったんだが、おいら、なんか気になってな。 こいつ、おいらを見て、泣き止んだんだよ。で、おいらに付いてきたんだ。 なあお前、弟子
2024年6月14日 21:25
端山茂山奇譚(拾参)この連なる山々の一番端にある、小さな山。あそこに住む天狗どもの話を聞いたか?なんでも、江戸から小僧を一人連れてきてたそうな。そいつは、天狗になりたいと言っていたから、連れてきたとか。どうやって連れてきたんだ?そこはそれ。天狗は遠くまでひとっ飛びで移動できるからな。天狗どもは、年中、江戸にいくのか?江戸だけじゃないな、もの覚えの良い奴の噂を聞きつけては、
2024年6月5日 20:06
端山茂山奇譚(拾弐)さっき、北から飛んできたやつらが言ってたんだけど、北の空では、翠の龍が飛ぶそうだ。緑の光の帯のようだと言っていた。ほう、おれが昔、ばあさんから聞いた話だと、翠の大きな幕が夜空にはためくというが、龍なのか。あそこの木で休んでいるあいつらから聞いたんだ。おい、そこのおまえら。北の空では緑の色の龍が飛ぶと言ってたな。ああ、いつもではないが、時々、夜になると見える
2024年5月21日 18:30
端山茂山奇譚(拾壱)ちびちゃんたち、面白い話を聞かせてあげましょう。 わたしが おばあさんから聞いた話よ。おばあさんは、遠い北から渡ってきた鳥から聞いたそう。 その鳥が言うには、北の空には、空全体を透明な幕がはためく夜があるそうよ。 それはそれはきれいな翠色の光の幕だそう。 何の音もなく、しんとして、ゆらりゆらりと形を変えてはためくんだって。 そして時々、激しく動いて、そうい
2023年7月29日 06:16
端山茂山奇譚(拾)なんだあれは。薄暗くぼうっとした霧みたいなものが、こちらに来る。流れてくるような、もつれて転がるような・・・。鳥たちが叫びながら逃げておる、禍々しい気に満ちているな。生臭い匂いだ。唸り声も聞こえる。…ああ、生きておったものたちの、うらみつらみの念の塊か。なんで、ここまで上がってきたのか。…昨日からあの庵から聞こえてくる、音と声のせいか。何かを
2023年7月13日 20:26
端山茂山奇譚(玖)ずっとあの遠くの山を見ているな。白い頂の美しい形の山。どの山よりも高くそびえている。昔、天の神が、あの山に宿を求めたが、祭りの晩で、断られたそうだ。そこで今度は、天の神は、この宿に宿を求めたら、同じく祭りの晩だったが、丁寧にもてなしたそうだ。そこで、天の神は、宿を断ったあの高い山は人が近づかない呪いをかけ、あのように一年の多くを雪が閉ざし、草木も生えぬ山
2023年6月8日 19:51
端山茂山奇譚(捌)この季節はいい。風が気持ち良い。お前は何をみているのだ?ああ、眼下に広がる、あの鏡のように光る広い田を見ているのか。まだ若い稲の葉が揺れておるようだ。そして山の中では、かぐわしい花の香り。時じく香具の実の花の香り。まさしく天上の天女の香り。秋になると実る 時じく香具の実。実は、花とは違う香りだが、これまた良い香りがする。実は甘酸っぱく、皮
2023年4月18日 21:46
端山茂山奇譚(漆)おお、来た来た。わたしの新しい衣を神輿に載せて、麓から人間たちが登ってきた。春から夏への装いに変えて、わたしは山の麓に降りよう。草木がよく茂り、地の恵みがよく育つように、私は麓に降りよう。大地の気が 恵みに繋がるように。代わりにわたしの子らが、山に行く。秋も深まる頃、また新しい衣を持って、人間たちが山に上がってくる。私も一緒に山の社に行く。そして
2023年4月13日 21:06
端山茂山奇譚(陸)ああ、よく寝た。花の香りがここまで漂ってくる。外に出てみるか。風は冷たいな。体がまだよく動かん。日の光に少し温まろうか。身体半分でも、温まるだろう。・・・なんだ、騒がしくなってきたな。・・・ああ、人間どもが来ておる。花を見に来たのか。逃げたいが、身体が動かん・・・。うわ、わしを触ろうとするやつがおる。人間の子どもか。かなわんな。なんだと
2023年3月30日 22:21
端山茂山奇譚 (伍)山の頂に近いがな、ここにはいつも水が湧く。湧いてここの岩の洞に溜まる。昔、偉い坊さんがこの洞の水を見つけて、名付けた。この水を飲むといいぞ。生きる者は、どんな病気も癒える。死して餓鬼道に落ちたものも、この水で極楽に行ける。誰がそう言ったって?その偉い坊さんが言ったんだ…とおれは聞いた。とにかく信じる者は救われるんだ…これは、別の偉い坊さんが言ってた
2023年3月19日 23:12
端山茂山奇譚 (肆)へえ、この川の匂いがわかるか。酒の香りがするって。この匂いがわかるんなら、教えてやるよ。この川の上流で、酒を醸し続けている岩があるって話だぜ。行ってみるかい?おいらは一緒にいけないな。テリトリーが違うんだ。行ったことないのに、どうして知ってるんだって?そりゃあ、川の水から聞いたのよ。その岩のことを。このあいだも、同じようなやつがいたから、同じ
2023年3月11日 11:31
端山茂山奇譚 (参)ここでなにをやっておる。夜のとばりが下りてきたのに、なぜまだここにおる。夜は、ここは神々のしとねの場だ。おまえら人間がいられる場でない。…ああ、黒雲が湧いてきた。そこの岩の孔から湧くのだ。しとねを覆うためにな。雷鳴が鳴り始めたな。ふうん、まだ帰らぬか。閃光が始まった。早くここから立去れ。早く!立去らぬと…。ほら、言わぬことでは
2023年3月2日 21:25
端山茂山奇譚 (弐)ああ、またあの海がぼうっと青く光る時が来たか。山の端の向こうに続く海が。水無月の塑月の夜がまた巡ってきた。水無月の塑月の夜にだけ、あの海が青く光る。晴れた、穏やかな、月のない塑月の夜にだけ、この山から見ることが出来る。この修行の山で、運の良い行者しか見ることは出来ないが、あの光を見た修行者が代々、語り継いでいる。今年も見ることが出来た。この光、あ
2023年2月26日 21:16
端山茂山奇譚(壱) 1人かい? こんなところで何やってるんだ?ふうん、修行?なんの? 神通力を持つための?なんで? 人の病気を治したい…殊勝な心掛けだな。おいらかい? おいらは人間じゃないよ。わかってるって? だろうな。遠い昔は、人間だったかもしれないが、忘れた。人間じゃない時もあったかもしれない。忘れた。へえ、お前はおいらを怖がらないのかい。そうかい、気に入