【 Care’s World case 08 失敗したっていいじゃないか!笑いに変えていこうぜ!〜荒金由紀子さん・村尾由美子さん 〜 / -後編- 】
前編では、アルツハイマー型認知症(以下:認知症)のお母さんと向き合う上での葛藤等について伺いました。
後編では、その変遷を経た今の心境等ついて深掘りしていきます。
前編はこちら。
Care’s Worldについてはこちらから。
認知症であることを表向きに
由紀子:診断を受けてから、最初は母が認知症になったことを周りに話すことができませんでした。そして、私が心の中で抱えていることも吐き出すこともできませんでした。だから「ちいさな場所でもいいから、そんなことを吐き出せる場所があればよかった…」と思っています。
何とか今は心の調整ができるようになりましたが、振り返ると、ずっと一人で抱え、誰にも救いを求めず、一つひとつの壁を乗り越えてきたんだと思います。苦しみをいっぱい経験し受容ができた頃に「私の経験を誰かに話したい・伝えたい」と思うようになって、そのタイミングでせり奈さん(※1 今回のインタビュアー)と出会いました。
出会うことによって、人が集まる場所に連れて行けるし、イベントにも参加できたし、素敵な思い出が増えてきています。インスタグラムも開設して、母のこと、認知症のこと、今までのことをさらけだして発信するようにもなりました。「母は認知症です」と、表向きに出したほうが私は救われると感じたのも一つの理由です。
由紀子:認知症を表向きに出す手段の一つとして、ヘルプマークを常に持たせています。昨年末のことなのですが、地元の道の駅に買い物に行くと、母が急に歌い出したんです。すると、近くにいた女の子が「え?何?」と驚いて振り向いたんです。それは、別に悪いことでもないですし、当然のリアクションですよね。
私が「ごめんね、急に大きな声を出して、不安にさせちゃったね」と言うと、その子はヘルプマークに気づき、ニコっと笑顔で返してくれました。この子は何かしら、病気があるのかもしれない。そう感じてくれたからこそ、母を見る目が変わったのかなと思いました。
だから、私は認知症を表向きにしたほうが楽なんです。ただ、ヘルプマークは母が認知症になってから本人の意志を確認できないまま持たせてしまっています。5人に1人が認知症になると言われる時代の中で、将来私も同じような症状になってしまう可能性はあります。そんな時のために、家族や身近な人と対策を考えておく必要はあるかもしれません。
私のお母さんに変わりはない
由紀子:インスタグラムで発信していると、よくリアクションをいただくのは認知症の診断を受けてから3年以上経過した方々だったり、私と同世代やそれより上の世代の方々だったりします。
「母に強く当たってしまいましたが、あなたの投稿を見て、私も視点を変えて母に触れてみたいと思います」「そうすることによって、自分自身が救われますよね」といった声をいただきます。
逆に、診断を受けて、まだ日が浅いご家族の方々からの連絡は少ないです。そういう状況の方々に「失敗しても、それが認知症なので、笑ってあげてください」なんて言えません。何でも失敗に対して悲しまないと、そこを笑いに変えていけませんし、体感しないとわからないと思うんです。
認知症と、ご本人と向き合う日々を重ね、ある程度受容ができてからじゃないと伝わりづらいので、アドバイスする人たちの状況を確認しながらお伝えしています。
由紀子:山あり谷ありの連続であるけど、ずっと私のお母さんであることは変わりない。そう思っています。
例えば、二人でテレビを観ているとき。母が夢中になっている時間を見計らって、携帯でメールの返信をするのですが、その時に私を見ながら「大丈夫?」と声をかけてくれるんです。携帯を触っている様子が、母にとっては、私が下を向いて泣いていると捉えたのかもしれません。それって、母が母親に戻る瞬間なんです。
他にも「お母さん、今日お腹が痛いんだよね」と言うと「大丈夫?病院に行く?」と声をかけてくれるし、みんなでおやつを食べる時にも「(先に食べて)いいの?」と確認してくれたり。
「大丈夫?」と気遣ってくれるから、根底には優しい母の性格がしっかりとベースにあるんだなと感じています。(お母さんを見つめながら)お母さん、ゆっこさんのこと好き?
由美子:(ニコッとした表情で)好き〜。
由紀子:もうね、可愛い。本当に認知症って奥が深いし、面白い。
ひとりじゃないよ
由紀子:ひとりじゃない。それはどんなことだって言えます。ただ、当事者になると、それを意識できないほど追い詰められてしまうと思うんです。
「誰にでも話して!」とは言いません。「この人なら話せる」と自分で判断し、選別していく中で出会い、吐き出していく必要があると感じています。特に何かをしてほしいわけじゃないんです。
でも、吐き出すことで、心の中をギューっと柔らかくして、フカフカにしてもらった感覚になるんです。心が弾むというか…。だからこそ「大変な日々だけど、私、頑張れる!」と思えるし「ひとりじゃないよ」と伝えていきたい。
助けてくれる人は絶対います。それはまだ出会ったことがない人かもしれません。私はインスタグラムでつながった方々からの言葉からも優しさと心強さも感じました。私自身も誰かにとって、そのように感じてもらえるような人でありたいです。
由紀子:認知症がもっと身近になったら、認知症の発見も早まるし、自ずとご家族の受容も早くなります。辛いことに変わりはないかもしれません。それでも、そういう人たちの輪が広がれば「それ、わかる!」「そういうことあるよね!」と話ができる人と出会えるし、絶望が幸せに変えられると私自身経験してきました。
その中で特に大事にしているのは何事も認知症と結びつけないこと。そのために、ケアする私のケアを大事にして、笑顔でいること。お金じゃなくても、時間としての投資は必要かなと思うので、リフレッシュすることで、また母に会うのが楽しみになります。
いつも寝る前に「今日もありがとう」「明日も仲良くしようね」と話しながら母をギュッとするのですが、そんな幸せな瞬間を積み重ねられるように、“お母さん”という一人の人間と、今この瞬間瞬間に向き合っていこうと思います。
(終わり)
(前編はこちら)