【 Care’s World case 08 失敗したっていいじゃないか!笑いに変えていこうぜ!〜荒金由紀子さん・村尾由美子さん 〜 / -前編- 】
“ケアすることは、生きること”
そんなテーマでお送りしているCare’s World。
今回の主人公は、荒金由紀子さん。
アルツハイマー型認知症の症状をもつお母さん(村尾由美子さん)と向き合い、
その日々をインスタグラムで発信されています。
インタビューにはお母さんにも同席していただきました。
Care’s Worldについてはこちらから。
怒りと絶望が続く中で
由紀子:今から9年前のことです。旅行先のホテルで、お風呂に先に入った母がシャンプーを流さずに部屋に戻ってきて、その前後も「おかしいな…」と思う出来事があったので病院に行くことにしました。そこで“アルツハイマー型認知症”(以下:認知症)の診断を受けたんです。
信じられない気持ちでいっぱいでした。「え…認知症…?」って。既に症状が進行していたためか、隣に座っていた母はショックを受ける様子もなく、何気ない横顔を浮かべていたのを今でも忘れられません。
その後、仕事が手につかない、ミスをしてしまう。そんなことが起きてしまって…。「人と関わる仕事だから、常に笑顔でいないといけない」と言い聞かせても、辛い気持ちは変わりませんでした。
母の介護のため、実家へ戻って、その時は笑顔でいても、帰りの車やベッドの中で号泣してしまう。そんな日々が3年程続きました。今みたいに気持ちの余裕を持てなかった私にとって、母のことを忘れられる時間は接客と睡眠の時間だけだったと思います。
由紀子:診断を受けて最初の1~2年は妄想をするとか、物を無くす・隠すといったことが続きました。でも、トイレの場所はまだわかっていたので、お漏らしをすることはなく、少し拭き忘れがあって匂いが残るぐらいでした。同じ認知症でも人によって進行具合も違うので、母は比較的ゆるやかだったのかもしれません。
でも、2年前から急激に進行して…。日常生活の中で“できていた”ことが“できなくなる”ことがどんどん増えていって、その現実を認められませんでした。「何で、できないの?」って。その怒りは少しずつ私の心をぐちゃぐちゃにしていきました。一番苦しい時期でした…。
診断後、年数が経つと、できないことが急激に増え出し、それが続いたからこそ、心の調整がうまくできなかったのかもしれません。心が落ち着いたと思えば、また急にできないことが増えて、怒りや絶望が襲う。これは認知症がある限り、永遠の続くものだと思っています。
失敗を笑いに変える
由紀子:母と向き合ったこの9年で一番大事だなと感じたのは認知症の家族と向き合う人の心の調整です。やり方はいくらでもあって、それ次第で新しい舵きりができると思うんです。
例えば、まっすぐ運転していたとして、その時の母の状況に合わせて「右折かな…」とか。その先はデコボコ道で遠まわりかもしれないけど、道は続くのかなと感じています。私は自分のことが大好きです。だから、自分を苦しめたくない。そんな気持ちがあります。
もちろん、介護をしていれば、苦しい瞬間も悲しい瞬間もあるけれど、そこは心の調整しかないかもしれません。実は、最初の数年は父が一人で母の面倒を看てくれていたんです。
でも、無理が祟ったのか、介護鬱になってしまって…。それで私とバトンタッチする流れになりました。子供たちに絶対迷惑をかけたくない。その優しさとプライドが、結果、辛いことを誰にも話さなかった父自身を追い込んでしまったんだと思っています。
私自身、父に対して何もできませんでした。だから、同じような状況にある方から相談があったら「まずはケアする人のケアが大事だから」「ケアする人が趣味や休息をとれる時間を作ってみては?」と伝えています。
由紀子:マイナスな言葉や思考は、そのままマイナスな連鎖を生んでしまいます。以前の私だったら、母が何かおかしなことをすると「ダメ!ダメ!これじゃないってば!」と注意していました。
でも、それを「私にとっては失敗なのかもしれないけど、母にとっては失敗じゃない」と捉えるようになってから、介護が楽しくなってきたんです。例えば、トイレに行って便器の中で手を洗おうとした瞬間、私たちにとっては失敗なのかもしれない。でも、母にとっては桶に手を入れるだったり、水がある場所で手を洗うことにつながるから失敗じゃない。
その領域に辿り着いたのは、いっぱいいっぱい苦しんだからなんです。単に当事者からアドバイスを受けたところで、それって絶対にうまくいかないと思います。大変だけど、一度は苦しみや悲しみを経験しないとわからない。失敗があって苦しんだから、その失敗をどうプラスに変えていこうか。そういうふうに考えるようになるんです。
だから、私は「失敗したっていいじゃないか!笑いに変えていこうぜ!」というフレーズを大事にしています。おかしな行動に見えても「いいんだよ、いいんだよ、お母さん」が口癖になってきました。
認知症の世界をつないでいく
由紀子:(お母さんの笑顔を見ながら)私の幸せは、この笑顔を見れる瞬間なんだと思います。人との関わりの中で生まれる周りの人の笑顔が母の笑顔を作るきっかけになるんです。
(お母さんと見つめ合いながら)
由美子:(ニコっと笑う)。
由紀子:うんうん、お母さん、いい顔してる…いい顔しているよ!でも、元々親子関係にあったので、今のようなスキンシップをとることはありませんでした。それこそ、認知症になって母と向き合うようになってからです。介護を始めた当初は私の決めつけを押しつけることが多かったけど…。次第に、母の表情を観察し、それでなんとなく「今はこうなのかな?」とわかってきた気がします。さらにいうと、よく手に触れるようにしていて、私の気持ちを温もりに変えて伝えられるようにしています。お母さん、ねえ、私の手は温かい?
由美子:…うん。
由紀子:そうか、ありがとうね。
由美子:ポンポンポン〜♫ポンポンポン〜♫
由紀子:このリズムの中に周りの人の言葉が入って曲になるんです。例えば、会話の中で「線路があってね…」と言うと「線路にいたらダメですよ〜ポンポンポン〜♫」と歌い出したり(笑)。いつもどんな言葉を拾ってくれるか、それが楽しみで。
認知症の世界があると世間ではよく言われていますが、私もそう思っています。その中で突拍子もない言葉や行動をとったら、それに合わせることを意識しています。母の感じる世界をつなげることで、母はとても穏やかになれるから。
もし、しかめっ面になったら「あ、もしかしたら、認知症の世界では大雨に打たれているのかな」「だったら、傘をさしてあげないと…」「はい!お母さん、傘持ってきたよ!」と言葉に出さなくても、心の中で妄想するようにしています。
笑顔には笑顔で返してくれるから、その瞬間が喜びや幸せに変わるし、それはきっと連鎖します。そんな花畑を作りたいんです、私。花畑でキラキラにしていきたい…。
(後編へ)
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