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「適所適材」と「適材適所」のバランスを 〜"タレントレビュー"の勧め〜

「適所適材」と「適材適所」は相反する考え方ではない?
ジョブ型人事制度の進展で「"ポジション(要件)"から考える"適所適材"」の重要性が強調され、「"人"から考える"適材適所"」と相反するもの/二者択一なものとして扱われることが多くあります。

しかし、この「"ポジション(要件)"から考える"適所適材"」と「"人"から考える"適材適所"」のアプローチは対立するものではなく、組み合わせて両立させるべきものと実感しています。

「適所適材」と「適材適所」の組み合わせ
具体的には、異動・配置を考える場面では「"ポジション(要件)"から考える"適所適材"」で考え、異動候補者の人材プールについては普段から「"人"から考える"適材適所"」で考え準備しておくという組み合わせです。

この「"人"から考える"適材適所"」を組織的に議論・検討する機会(徹底的に"人"起点で考える機会)が「タレントレビュー」です。
管理職が集まって、(自分の部下だけに限らず)社員のポテンシャルやキャリア、組織としての育成方法について徹底的に議論・検討を行う機会です。
多くの外資系企業では、重要なHRイベントの1つとして、定期的(例:年1回)に全社的に「タレントレビュー」を実施しています (外資系企業は「適所適材」のみと思われがちですが、実際にはタレントレビューを通じて社員一人ひとりの理解と将来について徹底的な議論も行なっています)

タレントレビューのもう1つの効果
また、タレントレビューの効果には人材プールの準備だけでなく、ラーニングカルチャー醸成への貢献も非常に大きいと感じています。
それは、管理職がタレントレビューを通じて部下を始め社員一人ひとりの成長・キャリア開発を考える習慣が身に付き、他管理職の「人」に対する考え方を吸収できるからになります。実際、新任管理職がタレントレビューへの参加後に大きく成長した場面を何度も見てきました。

タレントレビューとは何か?
今回は「タレントレビュー」について、どのようなアジェンダで何が議論されているのか?等について紹介したいと思います。(タレントレビューの詳細の進め方は各社で異なるため、あくまで1つのケースとして読んで下さい。)



1. タレントレビューの目的(例)

タレントレビューには、各社員の能力 (タレント) をどのように発揮・活用してもらうか、と将来の重要ポジションの後継者 (タレント人材) をどのように発掘・育成加速するか、の2つの目的があります。 

「タレントレビュー」の2つの目的
1.  社員1人ひとりの育成・能力活用やキャリア開発の促進
2. 重要ポジションの後継者候補の選定・育成加速  (サクセションプランニングの一部として位置付け)


2. タレントレビューのアジェンダ(例)

下記の様なアジェンダで進行します。例えば部門毎に開催する場合、その時間は1-2時間から半日等と様々ですが、いずれの場合でも部門社員全員の検討時間を確保することは難しいため、重点検討対象社員の設定や優先順位をつけるなど工夫します。
(1) オープニング (目的・進め方・参加者の役割・注意点など) 
(2) 社員一人ひとりの育成・将来の異動(経験デザイン)・キャリア開発支援の検討
(3) 重要ポジションの後継者候補の選定・育成方法の検討
(4) (重点テーマ例) 女性タレントの人材パイプラインの強化策の検討
(5) クロージング (異動等の直近のアクション確認など)


3. タレントレビューの開催形態・参加者(例)

開催形態・参加者は会社によって異なりますが、部署毎に細かく開催する全管理職参加型の例を以下に紹介します。尚、外資系企業の場合、ミーティングのオーナーは各部署のトップでありファシリテーションも行います(というのが理想ですが、実際にはファシリテーションはHRBPがかなりサポートすることが多くあります)。

開催形態:部署ごとに開催 (トーナメント方式)
ミーティングオーナー:部署トップ

参加者:管理職

例えば、ある「部」でタレントレビューを実施する場合は、部長がオーナーとなり、配下の全課長が集まって、課長より下の社員についてディスカッションを行います。
次に、その上の「統括部」で開催しますが、オーナーは統括部長となり、配下の全部長が集まって、課長についてディスカッションすると共に、課長より下の社員についても情報共有含めてディスカッションします。
その次には、さらのその上の事業部で開催し、、、とボトムアップで続いていきます。


4. タレントレビューのディスカッション内容(例)

上記2.アジェンダの「(2) 社員一人ひとりの育成・将来の異動(経験デザイン)・キャリア開発支援の検討」で実際にディスカッションされている内容を整理してみました。
尚、検討の中では、アジェンダ(4)の重要ポジション等の後継者候補となりうるかもテーマとなりますが、下記には含めていません(これについては別の機会でサクセションプランニングについて紹介したいと思います)。

Step1: 直属上司が部下について紹介
・その部下はどのようなスキルを持っているか?強みや育成課題は何か?
・その部下をどのように今後育成しようと考えているか?/ すでに何に取り組んでいるか?その効果や継続課題は?
・次のステップとして、何を経験してもらおうと考えているか(アサインや異動案)?
・本人は、どのようなキャリア目標・志向を持っているか?/上司としてどのようにサポートしているか? 等

Step2: 他の管理職が当該社員について情報共有(質問含む)
・当該社員について業務等で接点がある場合、その際に見られた強みや育成課題は何か?(具体行動をベースに)
・同様の育成課題への取組みを経験した場合、取組みの考え方や方法例
・当該社員の次の経験先として有効な機会が自部署内にある場合、当該機会の提案
・その他、当該上司へのアドバイス
・上記に当たって不足している情報があれば、当該上司に質問(オーナーやHRBPは、当該上司に気付きや思考を促す目的での質問も織り交ぜる) 等

Step3: 当該社員について全員でのディスカッション
・直属上司だけでなく業務等で接点のある管理職も含めて、組織としての育成方針/キャリア開発支援方針は何か?
・効果的な次の経験機会や育成方法は何か?
・組織の中でどのような育成機会を創出できるか?
・当該社員本人への有効なアドバイスやフィードバックは何か?
・直属上司以外の管理職は、当該社員の育成・キャリア開発支援にどのように関わっていくか?役割は?
・次の1on1で、直属上司は当該社員本人とどのような対話を行うとよいか?
・近い将来、当該社員を異動させる場合、どこが適しているか、また後任の人材は誰がよいか? 等

5. タレントレビュー準備のポイント

効果的・効率的なタレントレビューのためには、HR (HRBP / タレントマネジメント担当) による下記のような準備が不可欠となります。
1) 各管理職による部下について記載するテンプレートの準備
2) スキルアセスメントの実施 / 社員のスキルデータの収集
3) 各種社員データの準備 / タレントマネジメントシステム等の準備
4) 重点ディスカッション対象とする社員の事前選定・優先順位案の準備 / 論点の事前整理
5) ミーティングオーナーとの論点や進め方の事前すり合わせ
6) ディスカッション結果 (育成プラン等) の継続的なフォローアップ

6.補足: オーガニゼーション&タレントレビューへの発展

タレント(人材)のレビューだけでなく、OTR (Organization & Talent Review) または TOR (Talent & Organization Review) という一般名称でオーガニゼーションのレビューも行うケースもあります。
例えば、現組織の構造上や文化風土上の課題・解決検討や、キーポジションの選定、戦略性の高い新規ポジションの共有、そして各 (キー) ポジションの現職者の評価等を行います。
特に現職者の評価については、もし現職者がそのポジションに適任ではないと評価された場合にはポジションから外れ、後継者の登用のためにポジションを"空ける"こととなります (ポジションが"空くまで待って"登用するのではなく、ポジションを"空けて"登用する)。

関連:  適所適材のための「ポジション」と「人材」のマッチング (note)
関連:
サクセションプランニングの設計 (note)
関連:
サクセションプランニングの運用(KPI・HR体制・HRBPの役割) (note)





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