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バレエ感想「石川県復興支援バレエ公演 ロミオ&ジュリエット」株式会社L’ART GROUP
はじめに
元Kバレエプリンシパルの髙橋裕哉さん率いる株式会社L’ART GROUP主催の「石川県復興支援バレエ公演 ロミオ&ジュリエット」公演に行ってきました!
今回の公演は2024年1月1日に石川県能登地方で発生した能登半島地震を芸術を通して復興支援するというチャリティー公演で、なんと収益は全額石川県に寄付という驚きの企画です。ちなみに石川県庁も後援についています。
私は人生で一度見てみたかったオランダ国立バレエ団プリンシパルのマイア・マッカテリの回を購入しましたが、本当に美しかったです。髙橋裕哉さんの踊りも一度見てみたかったですし、もちろんチケット代も全て石川県に寄付されるとのことで、いいお金の使い方ができたと思います。
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株式会社L’ART GROUPについて
Kバレエカンパニー(現K-BALLET TOKYO)でプリンシパルとして活躍された髙橋裕哉さんは、今回の公演の主催元である株式会社L’ART GROUP初め複数の会社を経営し現在世界各国で実業家として活躍されています。
サラリーマンの私は主催元の株式会社L’ART GROUPって何ぞやと気になったので調べてみましたが、L’ART GROUPは会社名にARTという文字があるように文化芸術をベースに多方面に事業を展開している会社とのことです。公式サイトを見るとサウジアラビアの企業進出支援サポートのWHYT GROUP、デジタルメディア事業を手がけるDBC Media、そして美容事業やバレエ教室経営など、かなり手広く展開されているのが分かります。
凄すぎて思考が追いつかないですが、個人的には親友が先日中東関連の職場に転職したということもあり、サウジアラビア関連のビジネスが非常に興味深いです。どんなふうにビジネス展開してるんだろう…。気になりますね🥰
出演者と配役について
公演は1/8,9,10と3日間続けて行われ、ロミオは全日髙橋さん、ジュリエットは初日と千秋楽はオランダ国立バレエ団プリンシパルのマイア・マッカテリが、9日は中国の遼寧バレエ団元プリンシパルの長崎真湖さんが踊られました。
髙橋裕哉さんや以外にも、東京バレエ団プリンシパルの池本祥真さんや牧阿佐美バレヱ団プリンシパルの清瀧千晴さんなど、通常の公演ではあり得ないような超大物ダンサー達が参加しており、バレエファン達の間ではチケット発売前から結構話題になっていました。
具体的な配役は下記に記載しますが、これだけの出演者がどんな感じの役を踊られていたか気になる方もいらっしゃると思うので少し解説します。
まず、基本的に役名がある人はそのままの役です。ただし今回は結構カットされた役もあって、例えばキャピュレット卿がいなかったり、モンタギュー夫妻が出てこなかったりなどだいぶ簡素化されています。
役名がある人で言うと塩谷瞬さん演じる神父様は、戦いの仲介に立つヴェローナ大公の役割も兼ねています。バレエ版では基本出てこないピーターという役柄はシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」に出てくるジュリエットの乳母の召使ですが、今回かなり重要なキーパーソンとなっていました。ちなみに乳母役の鷹栖千香さんとピーター役の小笠原征論は今回コメディエンヌ的な要素も強く、最初は塩谷さんみたく俳優枠で出てきたのかと思ったくらいです😂
池本祥真さんと清瀧千晴さん演じるティボルトの友人はティボルトの家来的な感じでしたが3人組とすることで、ロミオ、マキューシオ、ベンヴォーリオと3人組に対するバランスをとったのかなと思います。
そして役名があるダンサー以外は全員コールドで、プログラムにも「コールド」とあってびっくり仰天!ホンマかいなと思って舞台を見たら本当にみんなコールドでさらに驚愕😲
とは言えコールドの中にも序列があり、女性達の中でやたら見せ場が多い2人組だった織山万梨子さんと渡辺恭子さんはリーダ格というのか、衣装の色も他と違ってピンク系で若干見せ場もあるような役でした。ペアの男性は忘れました。すみません。
他の女性達は例えば私の大好きな平木菜子さんや、先日新国立劇場バレエ団を退団した渡辺与布さん、牧阿佐美バレヱ団元ファースト・ソリストの阿部裕恵さんなど、本当に全員コールドでした。ハンス・ファン・マネンのアダージオみたいな衣装が可愛かったです。
男性もスターダンサーズバレエ団プリンシパルの林田翔平さんや東京バレエ団ファーストソリストの生方隆之介さんなどがいましたが、本当に全員コールドで街の人々を演じていてビックリ仰天!1人身長が高くてめっちゃ格好いい人がいると思ったら生方さんで、コールドにいても目立つ人だなぁとしみじみ。東京バレエ団からは池本さんや生方さんだけでなく、平木菜子さんとペアを組んでいた鳥海創さんも参加されていました。
コールドは街の人だけでなく、最後のお墓のシーンではケープを被って遺体を持ち上げる役で出てきたりなど、少ない人数の中でかなり工夫して回している印象でした。
ーーーーーーーーーーー配役ーーーーーーーーーーーー
【ロミオ】高橋裕哉(元K-BALLET COMPANY/プリンシパル)
【ジュリエット】マイア・マッカテリ(オランダ国立バレエ/プリンシパル)
【神父】塩谷 瞬(俳優/石川県出身)
【乳母】鷹栖千香(元NBAバレエ団/ファーストソリスト/石川県出身)
【ベンヴォーリオ】今井智也(谷桃子バレエ団/プリンシパル)
【ティボルト】浅田良和(東京シティ・バレエ団/プリンシパル)
【ティボルトの友人】
清瀧千晴(牧阿佐美バレヱ団/プリンシパル)
池本祥真(東京バレエ団/プリンシパル)
【ロザライン】ジェシカ・マカン(元ピッツバーグ・バレエ・シアター/ソリスト)
【パリス】中野吉章(元ピッツバーグ・バレエ・シアター/プリンシパル)
【マキューシオ】益子 倭(元K-BALLET COMPANY/ソリスト)
【ピーター】小笠原征論(牧阿佐美バレヱ団/ファーストアーティスト)
【キュピレット】高橋斐乃(元アスタナバレエ団/ソリスト)
織山万梨子(牧阿佐美バレヱ団/ファーストソリスト)
渡辺恭子(スターダンサーズ・バレエ団/プリンシパル)
阿部裕恵(元牧阿佐美バレヱ団/ファーストソリスト)
高谷 遼(谷桃子バレエ団/ファーストアーティスト)
冨岡玲美(スターダンサーズ・バレエ団/ソリスト)
林田翔平(スターダンサーズ・バレエ団/プリンシパル)
中沢恵理子(東京バレエ団/ソリスト)
生方隆之介(東京バレエ団/ファーストソリスト)
渡辺栞菜(NBAバレエ団/ファーストソリスト)
新里茉利絵(東京シティ・バレエ団/ソリスト)
吉留 諒(東京シティ・バレエ団/プリンシパル)
渡辺与布(元新国立劇場バレエ団/ソリスト)
三船元維(NBAバレエ団/ファーストソリスト)
鳥海 創(東京バレエ団/ソリスト)
刑部星矢(NBAバレエ団/ファーストソリスト)
平木菜子(東京バレエ団/ソリスト)
石井日奈子(東京シティ・バレエ団/ソリスト)
土橋冬夢(東京シティ・バレエ団/ソリスト)
■演奏
【指揮】稲垣宏樹
【演奏】東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
■スタッフ
振付:ジョバンニ・ディ・パルマ
監督:シュテフィ・シュルツァー
監修:オリバー・マッツ
衣装:シニョリーナ
「ロミオ&ジュリエット」感想
さて実際の舞台ですが、幕が開くと天井から何かが床に落ちてけたたましい音を立てます。機材でも落下したのかと思いましたが、戦いのシーンで使われる剣が落ちてきてこの後のストーリー展開を暗示したような始まりでした。数メートル上の天井から金属の剣を落として床は大丈夫なのか気になりましたが、バレエではなかなか見ない演出なので面白かったです。
ジョバンニ・ディ・パルマ版「ロミオとジュリエット」は空間の使い方が非常に面白いバレエで、天井からの赤いカーテンや白いカーテンを使って仕切りを作り場面転換をしていたので分かりやすかったです。舞台には常に大きな橋のようなセットがあったのですが、そこに階段を付けたり外したりすることで違う場面を演出することもあり、大掛かりなセットがなくてもこれだけ違う場面を表現できるのかと思いました。
振付や演出も面白く、個人的にはロミオとティボルトの戦いが結構本気の戦いだったことに驚きました。ベンヴォーリオやティボルトの友人がかなり本気で2人のソードファイトを止めに入るなど肉弾戦のようにもなっており、またロミオが剣でティボルトの頭を小突くなど結構本格的な戦いだったと思います。
さて、天井から剣が降ってくるという衝撃的な幕開けの後に、ベンヴォーリオの今井智也さん(谷桃子バレエ団プリンシパル)が出てくるのですが、赤と黒ベースの着物調の衣装はよく似合っていましたが時代背景が一瞬分からなりました…😅
衣装はどれも着物調で、なんか外国人が考えた間違った日本のイメージをそのまま体現したような衣装でした。コールドの水色の衣装はハンス・ファン・マネン作品のような綺麗な印象を受けましたが、人によっては下品なコールガールにしか見えない人もいました。ちなみ全員着物調でしたが主演の高橋裕哉さんの衣装だけは真っ白な上下で、袖に透かしも入っていて現代的で格好良かったです。
私は豪華バレエダンサー目当てにチケットを買ったのですが、実は1番印象に残ったのは「塩谷瞬が浮いてない!」ということです。塩谷さんはテレビ朝日の「忍風戦隊ハリケンジャー」や映画「パッチギ」でも主演を務められた俳優で、特撮ものの中でハリケンジャーが1番好きな私はこの配役を見てビックリ!
バレエ経験無い人がバレエを披露するって結構ハードルが高く、例えば「ブラックスワン」のナタリー・ポートマンやIVEのウォニョンなどを見るとプロバレエダンサーとそうでない人の動きの差はハッキリ分かると思います。もちろんナタリーやウォニョンはかなり努力され短期間でそれなりの形まで仕上げてきたのは尊敬すべきことですが、プロバレエダンサーと一緒に踊るとどうしても違いがハッキリ見えてしまうのが仕方がないことです。
そんなわけで塩谷瞬さんもどうなるかと思っていましたが、これがビックリ、全く浮いていないのです。塩谷さんは神父という役柄だったのでバレエダンサーのように激しく踊るというよりは、神父らしい落ち着きと重厚感を表現した日本舞踊的な踊りを披露されていました。役柄と相まってか不思議と舞台に馴染んでおり、塩谷さんに無理やりクラシックバレエを踊らせるのではなく、彼が得意な動きを組み込んで舞台に馴染ませるとは凄いなと思いました。
2幕ではジュリエットのマイア・マッカテリと踊るシーンもありましたが、巧みに動くマイアを塩谷さんがサポートするなど本当にバレエの舞台に馴染んでいました。もちろんご本人が相当特訓されたのだと思いますが、バレエダンサーではない塩谷さんを浮かせないように振付等も考えられたんだろうなと思います。
幼い頃から憧れていたハリケンレッドがまさかのオランダ国立のプリンシパルと踊るというレアなシーンに立ち会えて感動しました🥰
『 ロミオ&ジュリエット 』大千穐楽✨
— 塩谷瞬 - shunshioya - (@SHUNSHIOYA) January 12, 2025
本当に本当にありがとうございました!
愛する仲間たちと✨
最高な舞台ができて幸せです✨✨
まずは仲間と打ち上げます!✨
応援本当にありがとうございました!✨✨
能登半島のみなさんに届けてきます✨
塩谷瞬 - shunshioya -
"Romeo & Juliet" Grand… pic.twitter.com/JRc06XHRRy
マイア・マッカテリはジュリットにしては歳を取っているなと思いましたが、バレエはそれはそれは美しかったです。足のラインが美しいだけでなく、アンデオールが見たことないくらい開いていて驚きました。シュスをしたら客席に見えるのは彼女の爪先の内側、アラベスクしたら軸足はポワントの裏が見えるというような、教科書のようなアンデオールでした。
ロミオ役の髙橋裕哉さんは身長が高くて好青年という印象。現在は実業家として大活躍されていますが、個人的には舞台に立つ髙橋さんももっと見てみたいなと思いました。最後のシーンは美しすぎて感涙。ぜひまたこの2人の踊りを見たいです。
他にも、Kバレエでソリストとして活躍された益子倭さん演じるマキューシオが登場した際は益子さんの体型の綺麗さにビックリ!
補足すると、フリーランスになったバレエダンサーって毎日のレッスンが無くなるからなのか、もしくは注意する先生がいなくなるからなのか90%の確率で肥えます。女性はリフトがあるので体重管理をしっかりしていますが、男性はそこまで制限が無いので基本的に腰回りが太くなる人がほとんどです。益子さんはスラっとしていてかなり厳しく体型管理をされていて、Kバレエ時代と全く変わらぬ美しさでした。
余談ですが、私は山本雅也さんファンの友人に半ば引きずられる形でKバレエの公演を見に行ったことがあるのですが、私が初めて見たKバレエ公演「白鳥の湖」で道化を演じていたのが益子さんでした。彼は当時から技術力が凄くて、友達と一緒に「益子倭」という漢字をどう読むか分からず一生懸命検索したのでよく覚えています。ハツラツと踊る益子さんを見て、当時の舞台を思い出しました。
あとコールドとして街の女性達を演じていた平木菜子さんがめちゃくちゃ面白かったです。1幕の乱闘騒ぎのときに女性陣はみんな怖がって固まってるのに、平木さんだけはティボルト達に何回も喧嘩売ってて、ヴェローナの勝気な姉ちゃんって感じでした。
大公代わりの神父様が出てきた際は、みんな頭を下げて下を向くけど彼女は時折目を開けて神父を何回も見ていて、なんか油断をしないようにしているというのか、むやみやたらに信じきっているのではなく警戒している様子も出していて、リアリティがあって面白かったです。平木菜子さんって踊りも上手だけど、演技も得意な方なのかなと思ったり。また東京バレエ団の公演で彼女の踊りを見れるのが楽しみです。
気になったこと
ものすごく細かいのですが一つだけ気になったことがあり、それは教会のシーンです。
この舞台では結婚式のシーンは教会という想定だったと思うのですが、光が客席から見て左上から差し込んでいました。
実は教会建築というのはルールがあって、基本的に入口が西向きで聖堂の奥が東です。この舞台では塩谷さんが奥に立たれ、手前に主役2人がひざまずいていたので、客席側である手前が西で舞台奥が東という想定でしょう。
何が言いたいかというと、日本もイタリアも北半球なので左側(北側)から日が差すということはあり得ません。晴れた日に教会堂に行けば分かりますが、日差しは基本的に入り口側から向かって右側(南側)から差し込みます。調べたところ昔はエルサレムに向かって建てていた教会もあったらしいですが、教会建築のルールは昔から世界共通です。カトリック教国出身のイタリア人振付家の作品ということもあり、教会に行ったことがある人であれば絶対に違和感を感じる日差しだったのでなんだか驚いてしまいました。
とは言えプログラムを読んだら、ジョバンニ・ディ・パルマはサンパウロ・ダンス・カンパニーに「ロミオとジュリエット」を提供したとあるので、もし今回の公演がその作品の再演であればこの日差しは間違いではないかもしれません。
なぜかというとサンパウロ(ブラジル)は南半球にあるので、太陽は北側、すなわち教会建築のルールに従った建物であれば左側(北側)から日差しが差し込むからです。
ちなみにGoogleマップでサンパウロの教会の向きを調べたら、結構道路側を入り口にするように作られていて、東西南北色々あったのでブラジル人はあまり気にしてないのかも😅
よってこの日差しはたまたまなのか、ブラジル仕様なのか分かりませんが、北半球しか知らない私にはなんとも言えない違和感が残りました。
終わりに
まずこれだけの見応えある公演を企画してくださった主催元に感謝です。とても楽しかったです。そして収益はなんと全額石川県に寄付されるそうです。こちらで引き続き募金も募っているそうなので、皆様ぜひご覧くださいませ。