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【詩】思い込み

思い込みを手放すとき、まるで頭から何かの大きな部品をえいやと取り外すようであった。

自分の周りの世界が恐怖に感じられても、灰色のクソみたいな世界に感じられても、相手を殺して自分が生き残る戦の時代のように感じられても、まるでめがねを外すように頭の大きな部品を取り外すことで、それらは全てめがねを通して見たヴァーチャルな世界であったと知ることができた。(もっとも、現実のような世界だって全てヴァーチャルかもしれないけれど。)

思い込みは、しかし、全く無益で百害あって一利なしの部品というわけではなかった。
ある時期までは確実に自分を、自分の心を守ってきたものであった。
「ああいう場合はAの行動をする」「こういう場合はBと考える」といったパターンによって、よくわからない魑魅魍魎だらけのこの世を何年か、何十年かはやり過ごせたというわけだ。

いわば自分の教訓であった。

教訓は、しかし、いらなくなったらもう川に流してよかった。
頭の大きな部品を取り外して処分業者に持って行ってもらうでもよい。涙という名前の水に溶かして流してしまうでもよい。誰か必要な人に文章という形でお譲りするでもよい。

「自分で身につけた生きるための知恵も、他者から学んだ素晴らしい教えも、いらなくなったら捨てなさい。」

どういう形で手放したとて、何らかの形で誰かの役には立つであろう。
よくわからんがそういうものだ。人間の吐き出した二酸化炭素を植物は必要とするのだ。

頭の大きな部品を取り外すのは、そう大して頑張らなくてもできた。最初にちょっとだけ力を入れればすいーと外れた。
よくよく見てみると、そういう大きめの部品は結構たくさんあった。そしてどれも、別になくてももはや問題なく生きていけそうな教訓ばかりらしかった。

思い込みという大きな部品を随分たくさん外したため、存外に頭の重さが軽やかになった。
空でも飛べそうなほどで、本当に飛んでしまわないように地に足着けて過ごすよう気をつけることとなった。


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