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はじめまして。 創作意欲が溢れて零れた欠片を置いてきます。 寛容な心で読んで頂き、…

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はじめまして。 創作意欲が溢れて零れた欠片を置いてきます。 寛容な心で読んで頂き、 楽しんでいただければ至上の喜びです。 何卒。

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自我非同一(Ⅰ)

先程までの喧騒が嘘のような静寂ーーー 力なく座り込んだ傍らには、動かない個体。 頭の中を整理しようとしても、まとまらない。 とりあえず、呼吸を整えなくては。 ただただ。 どうか夢であって欲しいと、考えのつかない頭の片隅でそう思った。 自分のことを一言で表すと? 就活の時に、聞かれて1番困る質問だった。 「凡庸」 まさに、この言葉がピッタリではあったが、そんな事を面接で言う訳にもいかず、「考動力があります」なんて言って、「行動」という言葉ではなく、「考えて動く力です

    • セレブと女子校生(Ⅴ)

      あのキャバクラの夜から5日が経った日 HRが終わり、いつものように足早に学校を後にし、いつものスーパーで買い物を済ませていた。 そしてその帰り、家の近くにあるケーキ屋さんへと向かった。 今日は母の誕生日だ。 母の好きなイチゴがいっぱい乗ったショートケーキをホールで買ってあげよう。 何となく気が引けて、キャバクラの21万円はそのままに、自分のお小遣いからエステサロンの全身コースのチケットを買い、ケーキと一緒にプレゼントをするんだ。 喜ぶ顔を想像して少し楽しくなった。

      • セレブと女子高生(Ⅳ)

        「え…成瀬さん、凄いじゃない!!初日でいきなり70万のお客さん捕まえるなんて!あのお客さんに気に入られたのね。」 美保さんが帰り、時間が来たので控え室に戻ってきたタイミングで、安斎が話しかけてきた。 「いや…」 正直なところ夜の世界で働いた、という感覚は無かった。 むしろ、私が初めて会った人とこんなに話せるなんて思っていなかった。 ただ、会計の金額はやはり私がしていたのは夜の仕事であるということを忘れさせてはくれなかった。 「もし良かったら、またヘルプに来てくれない

        • セレブと女子高生(Ⅲ)

          セレブが待つというVIPルームは個室だった。 安齋と二人、部屋の前に立つ。 先導していたボーイが扉を開ける。 「失礼します。凛さんと莉亜さんです。よろしくお願いします。」 広いカラオケの部屋のような感じ。 U字型のソファ席に、一人先程のセレブが座っていた。 ファーのコートを纏い、濃い化粧をしているが綺麗な顔立ちがハッキリとわかる。 「失礼します。莉亜です。よろしくお願いします。」 安齋はサラリーマンの時とは違い、丁寧な言葉遣いで席へと進む。 「凛です。よろしくお

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        自我非同一(Ⅰ)

          セレブと女子高生(Ⅱ)

          「莉亜(りあ)ちゃん、まーた美人さんよく連れてきてくれたね。あ、店長の佐々木と言います。今日はよろしくね。」 最初に通された控え室のような場所で、店長を名乗る佐々木という男が挨拶をしてきた。 「…あ、成瀬と言います。よろしくお願いします。」 「莉亜ちゃんの大学の後輩なんだっけ。よろしくね!あ、今日は体験入店扱いにしておくから、気に入ったら相談してね!…んじゃ、とりあえず…セットしよっか。莉亜ちゃん、頼める?」 「はーい」 安齋は、ここでは莉亜という名前で働いているら

          セレブと女子高生(Ⅱ)

          セレブと女子高生(Ⅰ)

          「…ホント煩わしい」 私が手に持っていた進路希望の紙。 一応、地元の進学校に通っていた私は、高校三年生の秋になってもこんな紙を渡してくる学校に少し嫌気が差していた。 私ーー 成瀬には、同世代の女子と比べて圧倒的に異なる点があった。 ある程度物心ついた時から、世の中の事柄にホントに興味、関心がないのだ。 そう言っている方がカッコイイとかではなく、関心を湧き立てる物がひとつも無かった。 同級生の女子がキャーキャー言っているアイドルや俳優、流行っているファッションやドラ

          セレブと女子高生(Ⅰ)

          あとがき

          自我非同一をお読みいただきありがとうございました。 初めて小説を書いたので、表現や書き方で拙い部分が多々あったかと思います。 何卒ご容赦ください。 設定を自分に重ねた部分もありますが、自分自身のアイデンティティーについて聞かれて上手く答えられない事がよくあります。 そこからヒントを得たこの「自我非同一」ですが、現実にはこんな言葉はありません。 自我同一性という言葉があります。 これは、アイデンティティーや自我の芽生えを表すときに使われますが、小説内の渉は自分を抑えてい

          あとがき

          自我非同一(Ⅴ)

          私は就職活動で第1志望の旅行会社に入った。 私自身旅行が好きで、それを仕事にしたいと思ったからだ。 渉とはそこで出会った。2つ上の先輩だった。 最初の印象は、はっきり言って普通の人。 秀でることも無ければ劣ってもいない。 上に行こうとする意欲もあまり感じられない。 私は上昇志向が強く、ものをハッキリ言うタイプの人間だと自覚している。 自分の価値を上げるために努力は欠かさない。 だから、渉とは正直"合わない"と思っていた。 ある時、私は仕事で大きなミスをした。 1年目に

          自我非同一(Ⅴ)

          自我非同一(Ⅳ)

          我が家に待望の命が生まれた。 絢子は体質的に子供が出来にくい体だった。 流産も経験した。 ただ、私も絢子も諦めなかった。 不妊治療を行い、ようやく生まれた尊い命だ。 その命に付けられた『渉』という名は、 川を歩いてわたる。や、ひろくかかわる。と言った意味があるらしい。 困難を乗り越えて進んで欲しい。 努力を積み重ね、さらに広い世界で活躍することへの願いを込めて、名前を付けた。 二人の愛の結実。宝物。最も愛を注ぐ存在。 二人の、特に絢子の努力の末にようやく生まれてきてくれ

          自我非同一(Ⅳ)

          自我非同一(Ⅲ)

          社会人になってから、 人に注目されずに生きていたい、と思うようになった。 人の目が苦手になった。 目が怖い。 誰かがいつも私を見ている気持ちになる。 もっと普通になろう。個性を捨てよう。 そうしたら、本当の私が分からなくなった。 だけどそれでいい。アイデンティティーなんていらない。もっと… そんな時に、2つ下の新入社員の智美に言われた。 「先輩、なんかいっつも辛そう。なんか無理して自分演じてません?」 智美の目が最初は怖かった。こいつは危険だ。 ただ、他の人たちの目とはど

          自我非同一(Ⅲ)

          自我非同一(Ⅱ)

          人より出来るだけ目立たないように生きていこうと思っている。 秀でても、芽を潰されるだけだ。 注目されることも苦手だ。 だから、できるだけ自分を隠して生きていこう。 郵便受けに届いていた1枚のメモ。 文の内容よりも先に"目"の印象が強く、恐怖に囚われる。 周囲を見回す、が道路を行き交う車と駅に向かうのであろうスーツ姿のサラリーマンの姿しか見当たらない。 もう一度、メモに目をやる。 " 〒304-○○○○ 茨城県下妻市○○○○ 👁 " 少し丸文字のような字体で書かれてい

          自我非同一(Ⅱ)