月は何もしてこない。について

「かわいないで」は加納愛子の中編小説だ。
高校、教室の隅。
主人公の千尋は授業中に繰り広げられる同級生の恋バナに聞き耳を立てている。
暑いから太陽を消してほしいやらなんやらと、彼氏に言ったやらなんやら。
決して会話には参加しないが、授業そっちので聞き耳を立てている。
ところ変わってバイト帰り。
大学生のバイトの先輩と二人で夜道を帰る。
何か分からないけどなんとなく良い雰囲気。

このシーンで私の好きな文章が出てくる。
「月は何もしてこない。」
太陽は暑い要因だから、
暑くて溶けちゃう!!私のために太陽消して〜、いや俺には消せないよ〜
のいちゃこらコミュニケーションが成り立つ。
だけど、月は何もしてこない。
月を消しても、暑く寒くもならないから
いちゃこらコミュニケーションに繋がる糸口になり得ない。

なんて自分勝手な月の解釈。月もびっくりしちまうよ。
なんならこの子、その前に月って要らないですよね。とか言ってる。
そんなこと言いながら、教室で聞いた、いちゃこらコニュニケーションを思い出している。月にはそんな会話ができる力はないのに。
月に対して怒っているわけでも落胆しているわけでもない。
ただ淡々と「月は何もしてこない。」と思いながら先輩との会話を続ける。
呼吸の仕方を忘れるくらい高鳴っている何かを感じながら。

たまらなく愛おしくないですか。
この頭の中と、心と、行動が一致していない感じ。
恋と呼ぶにはまだ早い。でもいつもと違う風に感じる君。
その機微を感じる文章。ぜひあなたにも読んでほしいな。

さて私は「月は何もしてこない。」という一文に
なぜこんなに惹かれているのだろうか。
月は好きだ。純粋に綺麗だなと思う。月が綺麗だと嬉しい。
太陽は能動だとしたら月は受動で、
月対私の場合、私が能動的に受け取る必要がある。
別に月は何も発信していないので、何を受け取っているのかは疑問だが、
そこが良いのかもしれない。

月は何もしてこないし、何も訴えかけてこない。
でも私は月を綺麗だと思うし、自分勝手に月を解釈する。

この関係性、この距離感が心地よいかもしれない。
私は”何もしてこない”月に支えられている夜があることに気づいた。



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