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CancerX Story ~曹祐子 編~

CancerXメンバーがリレー方式で綴る「CancerX Story」
第15回はCancerXメンバーの曹祐子です。


私のキャンサーストーリー

「退院後のがん患者さんとそのご家族の栄養&食事サポートがしたい!」
強く意気込み、がん専門病院を退職しました。

その頃に家族で訪れた屋久島縄文杉でのことです。
長時間のトレッキングのなかで、自然、人、家族、そして自分自身と向き合いながら、私自身があらゆる物に支え守られて生きていることを全身で感じ、次第に心が軽くなっていったことを覚えています。
抱えていた不安から解放され、妙な安堵感に包まれる様な感覚に。そして、この先どんな形であっても「誰かを支えるための一人でありたい」「誰かの不安を少しでも軽くしたい」と新たな決意と共に迷いを断ち切りました。
思えばここが私のcancer storyの中間地点です。

2018年8月、決意の時見上げた光


『少し時間を巻き戻し』
がんとの出会いは、管理栄養士になってすぐ、祖母が罹患した大腸がんでした。
私の勤務する病院での診断→入院→手術→療養、在宅へと全ての経過を新米医療者でありながら、家族の立場で経験しました。
側で声をかけるだけ、なにもできませんでした。
その後医療者として経験を重ねます。

新人の頃は糖尿病や高血圧症など生活習慣病を中心に、次第に外科手術後の食事療法などに及びました。その後大学病院では栄養サポートチームでの栄養管理を、がん専門病院へ移動してからは、がん治療のための栄養管理に携わりました。
病院での仕事は充実していましたし、チーム医療を志してきた者として、多職種スタッフとの協働は大きなやりがいを感じられる日々でした。
これらが認められ、がん病態栄養専門管理栄養士を取得します。

2017年7月 第48回日本膵臓学会にて優秀演題賞受賞


病院で勤務する中で、患者さまの苦痛や不安、そして希望や喜びなど様々な思い、時間を共有させていただきました。またご家族とすごした時間も貴重でした。私にとってこれらの経験が今も大切な宝物であり、大きな原動力になっています。
入院中の栄養サポートも重要ですが、退院に向けた指導や、退院後に外来通院する際に面談する、外来栄養指導に熱心に取り組みました。

『先生、この人が食べろ食べろうるさいねん』 
食道がんの手術後、退院して初めての外来に来られた時の事です。隣には笑顔の夫が付き添っておられます。
聞くと、料理は一切やったことがないのだけど、妻の退院をきっかけに買い物、料理、片付けを一手に引き受けているとのこと。退院後、自宅での療養生活が順調な様子がうかがえました。

そして数ヶ月後に再来されました。
おふたりの様子がどことなくギクシャクしているように感じました。
自宅では我慢していたのでしょうか。

夫:「先生、こんなちょっとしか食べへんねん。工夫して作ってるのに…
食べないと体が弱ってしまうやろ?」 と険しい顔をしています。
妻:「わかっているの。でもね‥‥ 」と黙りこんでしまいました。
妻を思っての夫の行動と、感謝しながらもその思いに応えられず、食べたいけど、食べられないというジレンマを感じる妻、共に辛そうな表情でした。

病院勤務当時のスタッフと私

退院して生活を自宅へ移すことで、体調の変化や続く治療、食事や栄養に関する不安を抱える患者さまが多いですが、同様の心配や不安を抱えながらサポートするご家族の存在とその負担の大きさは想像以上でした。
時に両者の思いが交差し、何より心強い理解者のはずが、いつしか苦痛に感じてしまう。お互いがお互いを思いやるが故に起こるこの苦痛やもやもやとした感情が増強するというケースに続けて直面しました。
 
この他にも、家族への感謝の気持ちの反面、思うように食べられず申し訳ないという辛い気持ちを吐露される患者さまや「何を食べさせたらよいのか」「どうしたら食べてくれるのか」など治療に付き添って来院した家族など、様々な言葉や相談が寄せられました。

『サポート体制を整えたくて、新しい環境へ』
入院中の栄養サポート体制は整いつつありますが、在宅療養中の体制はまだまだ乏しく感じています。
入院期間が短縮され、通院治療が継続する方や、胃や大腸などの消化器官の手術を受けた後に、食事の配慮も含めた自宅療養期間が必要な方が多くなっています。
そして全ての患者様に栄養士がサポートをすることは難しく、医療者への相談機会を得ないまま退院し、情報や自己判断を頼りに自宅療養をするという方もいらっしゃるのです。
このように、自宅療養なさる方々へ「私ひとりの力は小さいけれど、積み重ねた経験を多職種との関わりで得た発見を、不安のなかで迷いを抱える方々へ繋いでいきたい」との思いで、今ではがん患者支援団体での食事栄養アドバイザーの活動を続けています。
相談者は退院後間もない方、通院治療中の方やそのご家族、再発を予防したい方などが多く、食事のこと、家族との関わりのこと、情報に関すること、手間のかからない料理のこと、副作用の悩みや苦痛など様々な会話をしています。


がん患者支援センターにて食事相談

病院と違って家庭での食事にはそれぞれの嗜好や習慣、環境が大きく関わります。今では食事の方法や選び方は様々で、何より自由に選ぶことが出来ます。情報が溢れているからこそ、悩みも発生します。情報とどう付き合うべきなのか、良い悪いではなく、嗜好や状態にあわせて自由に選び、手に取り、安心しておいしく味わっていただくためのお手伝いを続けていきたいと願い、サポートしています。

「相談する場所がわからなかった。」
「ここで話せてよかった。」
「もっと必要だと思う。また来てもよいですか?」」
「家族にも友人にも分かってもらえず、困っていた。」
「いろいろやっていると、正解がわからなくなる。本当は答えが欲しい。でも道筋を示してくれるのは有難い。」
今では嬉しい言葉をいただけるようになりました。たまらない瞬間です。
管理栄養士として病院の中と外、異なる立場での栄養サポートを行ってきました。
たくさんの患者さま、サポートをなさる方々の存在に触れ、「医療から少し離れた場所に専門家として栄養士が存在し、気軽に相談できる環境が必要である」「私にできることがそこにある」と再び確信しています。この活動や存在、必要性を広く認知されるための活動を行わなければと焦るこの頃です。
ここが私のCancer Storyの現在地点です。

CancerXに参加したきっかけ


CancerXとの関わりは2020年の一般参加からです。
2018年の中間地点を過ぎ、フリーランスの管理栄養士として歩き始めた頃、病院でのチーム医療スタッフであった看護師が参画していたことから、CancerXの存在を知りました。

その後、その魅力に惹かれ、2022年度昭和大学リカレントカレッジを受講しました。翌2023年度より社員参画しています。

今後の展望


がんをきっかけに食事に悩みを持つ方、そのサポートをなさる方々に、今の自分や今の状況にあわせた『食事』を楽しんでいただくために、「食に関する迷いや不安に寄り添える形あるもの『食』Naviを作りたいと考えています。
そしていつか、皆さんが安心して、気軽に相談できる「医療から少し離れた、食に関する相談場所」を点在させるという更なる大きな夢を胸に、私にできる事とたくさんの集まった力で成し遂げられることを見極めつつ、一つ一つ丁寧に取り組んでいこうと思います。

どんな時、どんな方にも「おいしい」と自然に笑顔が生まれる食卓であって欲しいから。苦痛や心配が緩和されますように、そして心からの笑顔でありますように。


プロフィール

曹 祐子   Yuko Soh

がん病態栄養専門管理栄養士 
兵庫県出身。管理栄養士取得後、国立兵庫中央病院、大阪大学大学院医学系研究科、大阪国際がんセンターでの栄養管理業務を経てフリーランスへ。
現在はHeartfelt Dining代表、大阪国際がんセンター患者交流棟内NPO法人つながりひろば/内科クリニック/兵庫県栄養ケア•ステーションで栄養指導や食事相談業務を行うほか、栄養士養成校講師、レシピ開発、監修、コラム執筆などを行う。病気の有無に関わらず「おいしい!」と自然に笑顔がうまれる食卓作りをテーマに「地域のかかりつけ栄養士」を目指している。


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