受け止めてほしい~映画『ファーストラヴ』より~
歪められ、掴みどころを失い、形を変えてしまった心。
幼少期に受けた精神的な苦痛。
従わないと怒られる。
恐怖から自分を護るため本心を隠す。
長期間そのような状況に置かれ続けるうちに、本人にも自分の本心が分からなくなってしまう。
これは、女子大生による父親刺殺事件を通して、長期間に亘って殺されてきた彼女の心を、少しずつ復活させていく物語。
子供時代から父親にすべてを否定されてきた彼女。
小学生の時、画家で美術教師だった父親の指示の下、自宅で開催されたデッサン会での望まないモデル業。数時間ものデッサンの間、多くの男子学生に凝視され続ける異常な状況下でのアルバイト。
嫌な目に遭っても、親は守ってくれない。周りに助けてくれる大人がいない。周りに合わせるため、仕方なく笑顔を作る。本心とは違う行動。その行動が、周りに誤解を与えてしまう。
本心では嫌なのに、笑顔を浮かべる。本心が心の奥深くに閉じ込められ、隠されている非常に厄介な状態。
なぜそんな時に笑うのか?
表面だけを見ていては何も分からない。不自然な行動には理由がある。
不自然な行動。それこそが、彼女の本心を手繰り寄せ、真実を追求する糸口となる。
あのアルバイトから解放された唯一の手段はリストカット。心の拠り所となっていた行動。
そして、トラウマになっていたデッサン会を再現するかのような就職での面接試験。それが引き金となり、起きてしまった殺人事件。
重石をのせ、覆い隠してきた彼女の心を、臨床心理士・弁護士が解きほぐし、事件に至るまでの真相を紐解いていく。
この事件を通して、登場人物それぞれが抱えているトラウマ、自らの過去を清算し、真実に目を向けていく。
そして娘が精神的な虐待を受けているのを、見て見ぬフリをしてきた女子大生の母親。このような行動を取る母親も、過去に精神的な虐待を受けてきた可能性がある。虐待を受けてきた人は、大人になると、自らまた同じような環境に身を置いてしまうことがある。
トラウマを癒し、虐待の連鎖を断ち切るには、受け止めてくれる人の存在がいかに大切かを問いかけてくる作品だ。