夕日の中で~小説『女人入眼』~
ただ幸せになることを願っていただけなのに。
閉じた心を開かせたことは正しかったのか?
何も出来ないのなら、そっとしておけば良かったか?
寄り添うことしか出来ないなら。
救いたくても、救えぬのなら。
諦めるより、仕方ないなら。
巨大な権力を前にして、なす術はなく、祈ることしか出来ないのなら。
国造りの仕上げをするのは女人。つまり女人入眼。
果たしてその入眼の役を果たすのは…?
これは女の戦。
人の気持ちなど意に介さず、過ちを認めない強さこそが、鎌倉をまとめ、天下を鎮めるという事実。その中枢にいた御台所北条政子。
一方、政の陰で、親の罪業を1人背負い、壊され踏みにじられ、行き場もなく、抱えきれないほどの重い心(気鬱)を抱えた政子の娘の大姫。
表面だけを見ていては分からない、一見、自分勝手に見える大姫の周りへの気遣い。
分かり合えない母娘を取り巻く、歴史の表と裏で生きた数多の人々。
最善を尽くしたつもりが裏目に出る。
逃れられない宿命。
力が及ばないことに、いくら悔いてもきりがない。
それぞれが、痛みを伴う過去を抱え、消えない痛みを抱えて生きていく。
その時代を生きた人たちの息づかい、罪業、苦悩など、登場人物それぞれの視点、裏側から見た歴史小説。
すべての思いと祈りを包みこむかのように、赤く染まった夕日は、いつの世も変わらずに、ゆっくりと美しく、海の彼方に沈んでいく。
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