どうしても言えない
秋は運動会のシーズン。
春に開催する学校もあるが、私の中ではやはり運動会は秋のイメージが強い。
運動会や遠足といえば、思い浮かべるのはお弁当。
お弁当には楽しい思い出が多いが、つらい思い出もある。
それは、うっかり落としてしまうなどして、食べられなくなってしまったお弁当。
台無しにしてしまったお弁当のことは、どうしても母に言えなかった…。
子どもの頃に読んだ作品『ごめんねが いえなくて』。
今でも憶えているのは、主人公の小学生の女の子が、遠足に持って行ったお弁当を台無しにしてしまうシーン。
一緒にお弁当を広げていた男の子のおにぎりと、自分のサンドイッチを交換しようとしたところ、毛虫が現れて悲鳴を上げ、お弁当をひっくり返してしまう。
サンドイッチもおにぎりも砂だらけになってしまい、食べる気がせず、やむなく捨てることに。
女の子はサッとサンドイッチを捨ててしまうが、男の子の方はおにぎりを見つめたまま捨てるのをとまどっている。「せっかくお姉ちゃんが早起きして作ってくれたのにな…」とつぶやく姿を見てハッと胸をつかれる女の子。
『お姉ちゃん? お母さんじゃないの?』と思いながら、心の中で彼に詫びる。
この遠足ではトラブル続きで、この主人公の女の子は、なぜかこの男の子に迷惑をかけてばかりいる。
なかなか言えない「ごめんね。」の一言。
そして帰宅後、お母さんが作ってくれたおにぎりを口にした時、急に台無しにしたお弁当のことを思い出し、小さな胸をチクッと痛める。
やはりお母さんには言えない…。
主人公の女の子の内面をとても分かりやすく描いた作品だった。
自分も幼稚園の時に、一度似たような経験をしているから、その気持ちは手に取るように分かる。
そしてやはり、台無しになったお弁当のことは、どうしても母に言えなかった…。