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外科室~The Surgery Room~

自宅で掘り出し物を見つけました。泉鏡花の短編小説『外科室』の英語版です。

大学時代、比較文学の講義があり、その時に配布されたものです。ここで初めて『外科室』という作品を知りました。それもイギリス人に教わるなんて! 英文学の授業で、日本文学を英語で教わるとは思ってもみませんでした。

検索すればすぐに出てきますが、お話の内容を1部紹介。

胸の病気を患った伯爵夫人が、手術を受ける事に。その執刀医を見て『麻酔は必要ない。』と答える夫人。麻酔なしではとても無理と周囲は説得するも、聞く耳を持たない。麻酔を拒否する理由を問われると『誰にも言えない秘密がある。意識がない間、うわ言で話してしまうかも知れないのが怖い。』との答え。病気は一刻を争う状況のため、夫人の希望通り、執刀医は麻酔なしで手術を始める…
遡ること9年前。ツツジが見頃の5/5、小石川植物園で、偶然すれ違った男女が一瞬で惹かれ合う。しかし、2人は名乗る事なく、それっきりに。その後、胸の病気を患った夫人の手術台に現れた執刀医こそ、まさにあの植物園で出会った彼だった…

この話は、執刀医の友人が、狂言回しとなって、手記を綴った形式となっています。執刀医も、恐らくこの患者が、あの時の夫人だと気づいていたのでは…と思われます。

この講義で観た『外科室』の映画の、2人が一瞬で惹かれ合うシーンと、外科室でのクライマックスのシーンは今でもよく憶えています。主役を演じたのは、大女優の吉永小百合さんです。

今読み返してみると、9年もの間、たった1人の人を、それも名前も知らない、すれ違っただけの人を想い続けていられるものかな?と思いました。誰にでも、そんな人が1人はいると聞いた事があります。問題は出会うか出会わないかだと。

それにしても、かなり苦しい恋愛話でした。『叶わない恋なら、出会わない方が良かったかな?』『いっその事、忘れてしまった方が幸せだったかも…だけど好きになった気持ちまで忘れたくない…』『こんな形で終わる恋愛もあるのかな』と、やるせなくなったり、色んな感情が複雑に絡み合ってしまいました。

一方で、『純愛』『一途』といえば聞こえはいいですが、残された家族や周囲の人たちの事を考えると、はた迷惑で身勝手な恋愛だと冷静に眺める自分もいたりして。もっとも事情を知らせたところで、悲しませるだけでしょう。妻・母として生きるより、女として燃え尽きることを選んだんですね。

さまざまな角度から解釈できるこの厄介な恋愛小説を、大学生の自分がどう捉えていたのか、苦労して作成した英文レポートをコピーしておけば良かったです。そういえば手書きでしたね。

原作は文語体なので、少々読みづらいと思いました。その点では、辞書をひきながら英文で読むのと変わらなかったです。

この講義の担当は、見た目がお堅いイギリス人の中年男性教授でした。その先生は日本語ペラペラでしたが「英語の方が勉強になるでしょ。」と、講義は、質疑応答含めすべて英語でした。時々日本語がポロっと出ましたが…。

最初『ついていけるかな?』と不安でしたが、先生のイギリス英語は聞き取りやすく、この講義は毎回楽しみでした。


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