これまでで1番売れた号
「こんちは〜。おひとつどうですか〜。」
前から気になっていた。
街かどで、ホームレスの人たちが
声を出しながら売っている雑誌
『THE BIG ISSUE』。
売り上げの半分が彼らの収入になり、
それが自立の助けになる、
と何かで読んだことがある。
単に昼間からブラブラし、
呑んだくれているのではなく、
こうして街角で仕事をしているホームレスとは
一体どんな人なのか、
話してみたいと思っていた。
今日たまたま見かけたこの雑誌には、
表紙にあの映画『ボヘミアン・ラプソディ』で
更に知名度を上げたフレディ・マーキュリーが
載っていた。
だからか、なぜか僕の目は吸い寄せられた。
いま目の前で売っているのも、
そこまで不衛生な身なりじゃない感じの
おじさんだ。
陰気さもあまり感じられない。
今日こそ買う日だ。
そして彼らと話す日だ。
なんとなくそう思った。
「すみません、1冊、中身見せてもらっていいですか?」
「いいっすよ、はいどうぞ。この号ね、これまでのこの雑誌で、1番売れた号なんですよ」
「へぇ、そうなんですか?」
「ホラ、映画がね、流行ったから」
「あぁ、映画すごかったみたいですからね。
それだけ、フレディ・マーキュリーの影響力が凄いってことなんでしょうね〜」
「映画がね、流行ったからね」
「…。えぇ、そうですね。。。」
「これがね、1番売れた号なんです」
「…。分かりました。じゃあ1冊ください」
「はいまいど!350円ね」
もとより買うつもりだった。
そしてパラパラ見た雑誌の中身は、
けっこう面白そうだ。
「頑張ってくださいね」
お釣りを受け取る際、彼に声をかけた。
「ありがとね」
ニッと笑った彼には、前歯が3本無かった。
また機会があったら買うね。
※上記は2019年に書いたものです。
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