#14 境界線を漂うユーモア【石田夏穂】 しおり

○雑感
距離感(遠慮気味に多角から嘲笑,急に俯瞰,現代ぽい)
ネット以降の言語感覚(執拗,網羅的)
・連打
・情景描写少なく,言語に重きを置いているから,画像認識が苦手な私が楽しみ易い。
・全体像を捉えないからこその, 単巻漫画的

石田夏穂:1991年埼玉生まれ東工大卒/2021すばる文学賞佳作
◇類似系統:岸本幸子、ミランダジュライ、いすかりゆば、吉田修一(インザパーク)、柴田聡子、仙人掌、ハイツ友の会、ナイチンゲールダンス、ジミーカー、リッキージャベス、前田司郎、沖田修二、コーエン兄弟


◇しおり
我が友,スミス】 
92振り返ってみれば,私の人生には,冬場のビタミンCのように,主体性が足りていなかったのかもしれない。
証左
100初参加者は私含め二人だけ。全く,新入社員の心地である。無意識に,来年は,この場でちょっと先輩面をする自分がいるのかと想像した。
106そして,この日から大会前日まで,私は,内閣総理大臣顔負けの分刻みのスケジュールを生きることになる
四軒のサロンを人知れず掛け持ちし,遣り手の営業マンのように都内を忙しなく移動した。
115ハイパーナイフだと,部位ごとに調節できるし,死ぬ気で減量しないで済むよ
116減量の行き過ぎを指摘された身である。大会当日までは,親が死んでも走らないだろう。
118ピーリング。口の代わりに顔で炭酸水を飲んでいるよう
胸がざわつくと,やるせなくなり,無性に筋トレがしたくなった。何かもう,この顔のまま,今すぐにでも。こういう時は,そうだな,ラット・プルがいい。関東平野を引っ繰り返す勢いで,バーを渾身の力で引き寄せたい。最後の一回は,思い切り反動を使うのも良しとしよう。
121腹斜筋も,野外ライブのアンコールのように,すごい盛り上りだ。横を向くと,三角筋には立派な筋が出来ていた。育てるのが難しいとされる植物の芽を芽にしたような衝撃だった
t井がハイヒールを自転車のようだと励。一度出来れば
125バックダブルハイセップス髪を前に持ってきて背中を見せる。そのためのロングヘア
128ちょっとしたドラマ的展開になったのは,そうして五人が名目上は寛ぎ,父が弟が,何となくテレビをつけた時だった。
弟の奮発したご馳走が目の前の円盤に載ってぐるぐる回る中,頑なに麦茶と小松菜だけを口に運んでいたのだから。弟夫婦からすれば,異様な箸の軌道だったに違いない
母から目を逸らし,私はもう飲まないつもりで,静かに紅茶のカップをソーサーに戻した。
130椅子の背に掛けていた薄手のダウンを羽織った。ちなみに,十月の半ばにしては厚着気味なのは,身体を冷やさないためだ。血流が悪くなると,トレーニングの効率が落ち,回復も遅くなる。何より,私は血管の細い選手だった
133「前回までは動作はぎこちなくても周囲に溶け込んでいた」三回目までは気持ち悪いくらいに観察していたことに気づいた。半ば縋(すが)りつくような眼差しを向けていた
九十分間,私の見つめていたものの大部分は,自分自身だったということになる。私の目は,もはや,縋りつく先を必要としなかった。故に,私の顔からは笑顔が消えたのだ。
135世間とは別の空気を吸いたくて,この風変わりな競技に挑んだ節が,私にはあった。しかし,結局のところ,この競技は,世間の鏡だった
140ここ三ヶ月は,便秘と共に生きていた

ーにつき 馬子にも衣装


黄金比の縁
6すると「ああっ」と叫び声が聞こえ,ゴロゴロの和音が独走になった。振り返ると立往生する中村と散乱する荷物が。段ボールを固定する紐が外れたらしい。
幸い,段ボールの中身がバラ撒かれることはなかった。それを確認すると私は見なかったことにしようとしたが,ここは流石に手を貸した方がよかった。残念ながら,この「窮地」を中村一人の力で打破することはできない。打破と言えど,まずコロのストッパーを下ろし,カートを地面に自立させ,投出された段ボールの秩序を取戻し,正しい紐の縛り方で再固定し,コロのストッパーを上げ,内心では照れながら何事もなかったかのように前進するだけの話だが,この一連を,中村が完遂できるとは思えなかった。
案の定,中村ほあわあわし,誰かが助けに来るのを待っていた。私は慎重にプロジェクター一式を下ろすと不本意ながら地面に跪いた。太田は「ああっ」に振向きもせず,一歩毎に遠ざかった。ー中村は太田とは違い典型的な爽やか採用担当,もとい「会社の顔」といった風情だ。どういう張り切りか先頃歯をいきなりホワイトニングし「私,2週間はコーヒー飲めません」などと言った。崩れた段ボールを前に,そのため歯だけが不自然に白かった。
私も他人の荷崩等無視したかったが,曲がりなりにも我々はチームだから,天竺には三人で到着しなければならない。私は引越屋のように「ザ・絶対に荷崩れしない紐の結び方」を実演し,中村に「来年も採用担当やるならよお見とけよ」と背中でメッセージを発しつつ,どうせ私の手許など見てないのだろうなと思った。じじつ中村は「今時パンフレットとか古いんですよ」とか「紙だと環境負荷も大きいですしね」とかうるさい。私が立上った時,太田の後ろ姿はかなり小さくなっていた。
なに,太田の一等賞には何の意味もない。それを見せないと中には入れない「関係者パス」は,生憎三枚とも私が持っている。私は荷物をしょい直すと一転,のんびりと歩いた。平安貴族をイメージしながら弥生の空気を味わう。鍵を忘れた小学生のように,せいぜい受付の前で待っていてくれ。
94果たせるかな,勤続35年に知らないことはなかった96好奇心は猫を殺すらしい。私は猫じゃないから大丈夫だろう

凛然と



ケチる貴方】生まれてこの方,自分より手の冷たい人間に会ったことがない。握手会を催す立場ではないから,他人の手に触れた機会は子供の頃に集中している。
寒いと訴えることには何か他の訴えにはない甘い響きがあるー自分が主張することじゃないように感じた
20シャワー40℃ストッパー外し最高温度可能
せいぜい人類が食料危機に陥ったとき私が隣の人より3日か一週間長生きするだけだ。それより食糧危機なら電力供給も途絶えるだろうから,私は早々に一人凍え死ぬ
41シーラカンス的な職場だ。(出世遅?)
51平熱35℃未満   前広に 反射区 59高が 応札者 


その周囲58センチ
100私にとり,脂肪吸引には徒に金をかけた「折檻」の意味合いもあった。私は自分を不幸にした元凶たる身体を痛めつけることにより,あたかも復習を果たしたかのような満足を覚
105両親に茶化された
119外見でさしたる損も得もしてこなかった,その人生に嫉妬する。無邪気に「人は内面だ」などとは口が裂けても言えない人間が,この世にはいるのだ



我が手の太陽】 石田夏穂
33けれど,自分は何人もの人と,確かに目が合ったのだ。何人もの通行人と,あそこから睨み合ったのだ。
72このまだ長い溶接棒が一昨日,いっとき暴たのだーその時自分はどう思った?出来事は思い出せるがそれは思い出せない。
129伊東にとっては,溶接線は鉄鋼が固まった結果ではなかったー鉄鋼が冷えた結果。エネルギーを手放すことで,鉄鋼は一番強固な状態になる。それは一体なぜだ。

人工(にんく) 融解池 132ゾッとしない話だった



ミスターチームリーダー】 新潮
筋肉をつけるとは,辛いものが辛くなるということではなかった。そうではなくて,同辛物に,より耐可様になるのだ。どれだけ筋肉をつけたとしても,辛い事自体はさして変わらない

自分の体と言のは,自分の意志で動かせる範囲の事だ。筋肉は自分の意志で動かせるが,志望はその限りでは無。だから太る事は自分を大きくする事とは違て,逆に自分を小さくする事だ.太ると自分の身体に占める,自分の意志の割合は小さくなる

貴職

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