エピローグ 真・邪道勇者 1話分 ※余談付
依頼を果たせば報酬が貰える───それが犯罪であろうとも。
真っ当な人間とやらは報酬も貰わず働くというのだから大したものだ。思うに労働というのは奴隷であって、自身の働きに応じた金額が貰えないものを「仕事」とは呼ぶまい。私が執筆している作品にしろ犯罪にせよ、本来であれば対価とは一定ではなく、個々人によって変動する。
だが、大半の人間は一定にしたがる。そして、大半の場合は払わずに済ませようとする。不思議だ。何の為に金を稼いでいるのだ? 金は使うものであって、貯めて喜ぶものではない。使い果たせるなら、使うべきだ。
明日、生きているとは限らないしな。
特に、私のような逸れ者の場合は。
「よくやったジャック••••••これが報酬だ」
テーブルの上にどさっ!! と音を立てて支払われるこの感覚がたまらない。何故だかこの時だけは全身で音を感じ、札束の感触を目だけではなく肌感覚で味わう。
無論、匂いも同様だ••••••束になった札束の匂いはたまらない。
逆に、読者連中は金を払った試しがない。陽気なこの頃には子供が休みらしいのでもしや「本当は子供なのに、大人のフリで読んでいる」のではと疑っている──────そもそも、いい歳した大人であれば、自分で読んで自分で判断して金を払っておくべきだ。
であれば、やはり子供なのかもしれない。子供読者より金だ。であれば、犯罪行為が増えるのも納得だといえよう。何せ、真っ当にやってもタダで盗まれ、正当化し挙句に忘れられる。
貰うだけ貰って、何もしない。
表面上若い女を立てることの多い私だが、女を立てようが賭博以外で連中が支払う事はない。であれば、隣国の政治家の百二百攫った方が「真っ当な経済活動」だとさえ言えるだろう••••••••••••読者と違って「未払い」だけは無いからな!!
例の狭い部屋の中で、つらつらとそんなことを考えていた。しかし隣の猫耳娘はというと故郷の復讐にしか興味がないらしく、金より情報を、とせっついている。
まだまだ駄目だな。これでは成功すまい。
そう思った私はまあまあ人手として役立った小娘に「とりあえず金を受け取れば、先で役立つことになる。本当に復讐したいならもっと現実的な策を考えろよ」と、本当の事を教えてやった。
ギッ!! と親の仇よりムカつく相手を見るかのように睨んだ後、彼女は自分の分である分け前を片手で鷲掴み強奪───とても依頼金を受け取るとは思えない態度で、官憲から逃げ出すかの如く部屋を出た。
どこであれ、真実は耳に痛いもの。なので、犯罪者も同じという事だ。
••••••その八つ当たりを私に向けるのは勘弁して欲しかったが、とりあえずこれで作品の喧伝費くらいにはなるだろう。言うまでもないが非人間の私にあるのは良い女を抱く事よりも、基本的には作品である。
どこに、どれだけ輪廻転生とやらを繰り返したところで、書いて売る以外など全て瑣末事だ。その為なら殺人の一つ二つ、世界の転覆でも救済でも手段は一つも選ばない。
まあ、報酬の大半は銀行へ振り込まれるので、現時点での金は使うのだが。思うに金を使わない奴に金運など降りてこない。古臭くカビの生えた紙幣を持つ奴なんぞに金の女神が微笑むのか?
無理だと思う。なのでじゃんじゃん投資しろ。
具体的にはおひねりだ。相撲を見ておひねりを投げるなら、物語に感服して投げても良い筈だ••••••狭い価値観で進歩しないから駄目なのだ貴様らは!!
全く、いい歳して恥ずかしくないのか? 真っ当な人間であれば支払う金くらいはあるだろうに──────非人間の私に言われたらお終いだぞ!!
さて、とりあえずはこの金で飲んで食って抱くとしよう。まあ、疲れている時には抱くのは割と遠慮したい。大体この街には物騒な女が多いのだ。
「待て」
頭の中で誰にするか、いや食べて寝るかと考えていたところへ博士の鋭い声が突き刺さった──────聞く者全てが安らがない、実に神経質な声だった。
「それで、例の女のほうはどうだった?」
「何のことかな」
とぼけるな、と端的に彼は詰め寄る。何であれ最低限、必要な事のみを通達する。彼の癖だが、悪癖とも言えた••••••実際、その癖を嫌って離れたり裏切ったりする悪党の数は実に多い。
回りくどいやり口や、計画的かつ政治的犯罪というのは、ただの強盗や放火犯には合わないのだ。私の作品が凡俗の読者に合わないように、犯罪にも合う合わないがある。そして彼は、大半の犯罪者には合わない。
思考が先を行き過ぎるからだ。良く分かる。
「ハイ厶と名乗るあの女は、実際にはこちらで建国するつもりは更々無い。人材だけ売り渡し自由を謳歌するつもりだろう」
そう、あの女はそのつもりだ。私には良く分かる。御大層な組織は「使う」ものであって例えば博士を打倒し組織を乗っ取る気分にはならないのだ。
面倒な上に、性に合わない。単独での技能を活かし、獲物を刈り取り達成を得る。
前に、人食い民族を狩り殺してやった事があるが、あれは中々の獲物だった。部屋に引き込もって計画を練るのは向いていない。
頼まれても御免だ。年中、部屋で計画立案に走るなど、何かの刑罰としか思えない。
「わかっていると思うが、放置するには戦力として大き過ぎる。どうするにせよ、管理者が必要だ」
「そちらで引き取れば良いだろう?」
無論、そのつもりで実行した。これ以上小娘の面倒は御免だ。
カネにならないし疲れる。
だが、予想外の言葉が来た。
「駄目だ。こちらで使うには合わない輩だ。私の計画に起用する事はあるだろうが、普段小娘を拷問する事はあっても面倒を見る施設にはなっていない」
「そりゃそうだが、部外者として雇えば良いだけだろう」
そういう雇われなど幾らでもいる──────特に、毒と飯と薬が盛んな、東の国には幾らでも。
「当初はそのつもりだったが••••••残念だが、政治的影響が大き過ぎる。貴様は良くやってくれたし、彼女も想定以上に協力した。だが協力の幅が大き過ぎて、世間に与える影響が想定を超えている。
組織としては成功したが、何であれ成功し過ぎるのは問題だ。身動きが取れなくなるからな」
成功や勝利に縁が少ない私にはわからん話だ••••••作家として成功し過ぎて、追跡者に狙われるみたいな話だろうか?
私なら、立場的に狩りにして良い相手が自分から来るなど喜び勇んで殺すだろうが。
表面上は、敏腕美人の女流作家が書いた体にすればいいしな。大体が中身など、読者が本当に見ているのか?
それなら尚更救い難い。読んで金も払わないのだから。そんな私の気持ちも無視して博士は端的にこう言った。
「やはり死んだ体で利用する方が、望ましいと判断した──────駄目だ、ジャック。貴様の方で、しばらくは引き受けろ」
••••••••••••••••••彼はこう言うが、拒否した奴は大抵寿命まで長生きしない。
何せ、手を下したのはこの右腕だ。
「••••••本気か? 私に子育てをしろと?」
「厳密には17歳程だ。エルフ民族は人間とは年の数え方が異なる」
人間の情緒がわからないのか、彼はズレてる答えを返した••••••••••••どうしたものか。
犬だけでも出いっぱいなのに、猫も増やして面倒を見る?
地獄だ。シリーズ完結まで書き切った作家にとって、何より大切なのは「静謐な時間」である。
逆に、爆音の鳴る中で、貴様らは何か書けるのか?
無理だ。まあ、売上が上がらなければ放置しても構わないので、いっそ当面は休み期間と称し詐欺で稼ぐに抑えておくか?
真面目に執筆するより、その方が金になる。
部屋を出て、天を仰ぎながら私はそんな思考に陥った。思うに───読者にしろ犯罪にしろ「結果」だけが大切であり、過程とは当然「積み重ねられた結果」そのもの。
見る目の無い奴等だ!! 読者でも神でも仏でも悪魔でも良いが、これだけ積み重ねた私相手に、支払う報酬が獰猛犬か!?
私が一体、何をした?
ちょいとばかり人より犯罪が多く、シリーズ完結まで物語を書き切りタダで配布までした聖者ではないか。隣人を愛せと言うなら作品を、それも何十年も費やした一品を立ち読みしたなら札束くらいは置いて行け!!
光る石ころに万札を払うよりは、よほど有用な使い道だろうよ!!!
本来、それが出来ればいちいち価格など設定する必要すら無いものだ。実際にやれば何が起きたかといえば、タダ読み漁るだけでただの一円も払わない。それで「最近は面白い作品が少ないね」などと、ほざけ読者が!!
そういう意味では、新規加入の女が何をしてどうシャワーを浴びるかという、読者の望みそうな噺は書いてやらん。
女が増えた分「女にしか出来ない」犯罪の幅も増えるのだが、御大層な読者はタダで読むだけで払わない。
ならば知らん。貴様ら100円も払わない奴等に「敬意」なんぞを持ち合わせるのか?
しない。同じ事だ。
なので、私はこう言おう。
いい気味だ、ざまあみろ!!!
余談
犬千代 BからC(目測)
筋肉質に鍛え上げた野生の美貌
荒々しく、女より獣の雌というのが相応しい
割と純真無垢な部分が残っており、人間は嫌うが人間の文化に興味がある。たまに輝かせた目で物欲しそうにそれらを見る。
買ったか? 想像に任せよう。
割と心が弱く、復讐に必死。だが弱みは見せたくないので指摘するとキレる。
毎回キレる。ツッコミ担当。
ナイフは天性の才能があり、苦労して磨いた私の技能は何だったのかとたまに思う。
••••••天才か••••••••••••
本人は元が「お嬢様」だったらしく、所作や人付き合いは物凄い。いなければ毎回問題が起きたので、仕方無く連れていく。
「お前は対人関係を知らねーのか!?」とは本人の弁。
生憎、非人間なので知らんな!!
同じ種族の筈だが、迫害された記憶しかない
••••••••••••おのれ読者め。
未払い程「屈辱的」な迫害は無い!!
貴様ら支払い能力が無いんじゃないか!?
知性は高いが、魔術の素養に関して聞いた事が無いのでそこは知らん。同じ建物に住んでいるが、部屋別なのであまり会わない。
筈だ。違っても構うまい。
最近は生活に慣れて来たのか、雑な格好でやれあれが無いこれはどこだ、前の話はどうなったと細かい話を聞きに来る。
細かい。女と男の差か?
「お前が雑過ぎんだよ」との弁だが、しかし私の今までの活躍を見れば分かる筈だ。
結果、上手く回ればそれで良い!!!
近所の子供の面倒を見ている気分だ、と答えるとキレる。子供扱いもキレる。
••••••••••••そういう部分が子供だろうに
ハイ厶 身長は150前後に見える
サイズはスイカ 髪はサラサラ赤色
我儘に振る舞うが実は賢明。瞳も赤
政治的やりとりに慣れているのか、対人関係に強い犬千代と違い、対人支配に長けているのが違いの1つ。
利害関係が絡むやりとりが得意なのがハイ厶
人間的魅力演出で好かれるのが犬千代
全てに嫌われ、単独で殺し合うなら無敵だが神も仏も個人的に私を嫌ってるんじゃないかという、不当な差別を受けたのが私だ。
見る目の足りない奴等だ••••••••••••
余談だが、神社に参り出ると体調を崩して死にかけた。それも、一度二度ではない。
この間も••••••搬送••••••••••••いや言うまい。
魔術などという、胡散臭い術理に長けてるらしい。ちなみに、私がやり方を聞いたら
「才能無いわね、貴方」
とか言いやがった!!!
才能か!? 知力か!? 私とて幼少時代に殴られ過ぎる前は、良かったんだよ!!!
書物など、読んだだけで記憶出来た••••••••••••どれだけ殴られたんだ、私は。
頭は良いが、本質を見る目だけは私に遠く、及ばない。もう一度言う。
私に!! 遠く!! 及ばない!!!
優れ過ぎるのも考え物、という事だな。
物を知らない読者に教えてやろう。
言い張るだけなら、何であれタダだ!!
さて、政治的関係から肉体関係を持つ事すら多かったらしいが、その辺も犬千代との違いだろう。最も、ハイ厶も根底は同じだが。
人を使う側、というのは得てして真っ当な、普通の人間がするようなやりとりが出来ないもの。普通の生活に焦がれる女とも言える。
私は無論、ロクでも無かった。
••••••••••••幼少期など、殴られて脳がやられ、馬を追っかけながら楽しんだ記憶しかない。
青年期? 奴隷作業だ。無論、代金未払いで
何回死の淵を彷徨ったか、数えてすらいない
嬉しくもない。やはり金が欲しいものだ。
さて、次だ。何でも、3回抱けば確実に奴隷に出来ると、テクニックを豪語するらしい。一方で理系なので、男より理論。情熱よりも経験から来る政治的判断に長けている。
能動的に見せかける「外向け」のやりとりと違い根がインテリなので、普段は部屋に引き籠もって実験に専念するタイプである。
変な薬品?実験に魔術研究だと付き合わされ───ブチ撒けた時は凄かった。
ヒステリー、どころではない。噴火だ。
火山というのが相応しい。社会の裏側で練られた人造火山。得意技も火系だそうだ。
何でも、知らない男に肌を見られることより研究中に邪魔される方が比較出来ぬ程許せないらしい••••••••••••私はブチ撒けただけだが。
目は良いが、研究中は何かを見るのにいるのか眼鏡を掛ける。
頭が良く見えるからか?
タバコも吸うが、マナーは守る。飲酒カフェインとあらゆる禁則物質を楽しむ方。また、派手好きで何であれ初対面は気安い。
今まで政治の為我慢してきたものが、今さら爆発したと言える。
元がお嬢様で悪ぶってる犬千代と違い、元が悪だったが周囲の為に我慢した。文系で情緒を慈しむ犬とは全てが真逆。
心のあるロボット、というのが近い。
男を抱くのも利害関係であって、情緒は一切無く何も感じないらしい。なので、犬千代がある意味羨ましいんだとか。
私はひたすら暴れられれば、そしてそれが金になりさえすれば他に何もいらないタイプだ。言わば「戦い」の形が執筆か作品を売るのか殺し合うかの違いだけだ。
生きている敵は殺す!!
動く敵対物は、叩き壊す!!
運命が邪魔なら、ブチ破って殺し尽くす!!
対して、ハイ厶はその辺り現実的だ。敵だけでは勝てないという思想で「敵を味方にするのが至上」という考えらしい。
••••••••••••••••••••••••私とて、読者に協力させる事が出来ればとタダで配ったりしたのだが、どうも若い女が良いのだろうか?
わからん話だ。
個人としても強いが、基本的に自分一人での戦闘はしない。暗殺向きの犬千代と違って、組織化能力が高いタイプ。
それも、殴り合いより情報に強い。弱点属性だけをひたすら事前に調べ上げ数の利で叩くやり方••••••••••••つまらん戦い方だ。
やはり、斬り合いで良くないか?
生きるか死ぬか、それが愉しみだ。
俯瞰するのが得意で、眼の前の敵はとりあえず殺そうとする私の首根っこを抑える担当。とはいえ、ハイ厶自身も割と交戦はした。
利害が先に出るので、殺しも利益で考える。
こんなところか。執筆意欲なのか連中に強要されているのか、私は知らん。
少なくとも、カネにならなければ続かない事だけは確かだ••••••••••••最も、邪道作家の方は既に完結まで書いたのだが。
GoogleAndroid栞機能付 続編等固定記事参照
おひねり制 誰も読むだけ読んで払わなかったが、一応はそういう体で出した
読むなら払え、払わないなら読むなという話だ
ああ、そういえば語り手自身に関して項目を書かなかったが、それは簡単だ。
売れればそれでいい!! 女子中学生作家、とかの方が売れそうだしな。
中身を誰も見ないというなら、受けそうな表面だけ用意しよう。
どう考えても長身の反社会性力にしか見えなくとも、それはそれとして表面だけを読者が見るなら、表紙に若い女を貼り付ける。
例え、人格を丸ごと用意してでもな••••••金になるか、それだけだ。
「結果」だけだ。過程とは、結果を積み重ねたものなのだから