12月の詩
Do you remember
The 21st night of September?
Love was changin’ the minds of pretenders
While chasin’ the couds away
憶えてる?
9月21日の夜のこと
愛が僕らを変えたんだ
まるで雲を晴らすみたいに
アメリカのファンクミュージック・バンド
Earth, Wind & Fireの『September』
1978年のリリース以来、世界中で愛され続けている名曲です。
もちろん知っているけれど、なぜ今頃になって9月の曲を?と疑問でしょうか。
私がこの曲を取り上げたいと思ったのは、実はこれが12月を舞台にした曲だからです。
弾けるように明るい冒頭から、曲中のストーリーはこんな風に展開します。
Now December
Found the love that we shared in September
Only blue talk and love, remember
The true love we share today
12月になって
9月に手にしたものに気づいた
ただ甘い言葉でじゃれ合っていたはずが
これは本物の愛だったんだ
夏の名残りの華やかさと寂しさの混じる夜。
そんな特別な時を共にしたに過ぎないと思っていたのに、季節が進むと、隠されていた宝物に気がついた、といったところでしょうか。
◇◇◇
5世紀から12世紀まで、英語圏で使用されていた古英語では、〈winter 〉は〈冬〉だけでなく〈年〉という意味も持ちました。
〈winter 〉を〈年〉とする表現は古英語から近現代英語にも受け継がれ、たとえば〈何年も前に〉を表す〈many winters ago 〉といった文章に、その一例が見られます。
本来ならば四季のうちの一つに過ぎない冬。
それが特別な意味を備えていたのは、厳しい冬を越すことと一年を無事に過ごすこと、それらが同一視され"越冬した回数で年や歳を数える"という慣習の発展によるものと言われます。
こんな事実から鑑みても、冬の訪れはすなわち一年の終わりと始まりである、という無意識的な考えにより、冬の声を聞くや私たちは内省的な気分へと傾いてゆくのかもしれません。
◇◇◇
ところが、それがいささか行き過ぎると、気分が
必要以上に暗い方へと落ち込みます。
19世紀フランスの詩人シャルル・ボードレールの、こんな悲壮感に満ちた詩さながらに。
Bientôt nous plongerons dans les froides
ténèbres
Adieu,vive clarté
間もなく私たちは沈むのだ
冷え冷えとした闇の底に
お別れだ、眩しい光よ
読むだけで身震いが起こりそうです。
確かにこれは冬の一側面であり、この季節は一年のうちでも最も暗く、その暗さと寒さが私たちの生命力をも削ぐような気分にさせることは否定できません。
◇◇◇
けれども、ボードレールと同じ時代に生きた英国の作家エミリー・ブロンテは、全く違った目でこの季節を見、それを詩に謳っています。
Fall, leaves, fall; die, flowers, away;
Emily Brontë
Fall, leaves, fall; die, flowers, away;
Lengthen night and shorten day;
Every leaf speaks bliss to me
Fluttering from the autumn tree.
I shall smile when wreaths of snow
Blossom where the rose should grow;
I shall sing when night’s decay
Ushers in a drearier day.
散れ、木の葉よ、散れ。枯れよ、花よ、往け。
エミリー・ブロンテ
散れ 木の葉よ 散れ
枯れよ 花よ 往け
長き夜と短き日
舞い散る葉は
私に至福を語る
雪の冠が薔薇咲く地で花開く時
私は微笑み
力尽きた夜が侘しい昼を招く時
私は歌う
◇◇◇
この静けさと底光りする歓びに満ちた詩の"雪の冠"というフレーズは、私に"不香の花"という麗しい季語を思い起こさせます。
冬にすっかり葉を落とし、裸になった木々に積もる雪。
不香の花はそれを咲き誇る花に見立てた言葉であり、冬枯れの木々を彩る雪の花は、芳香こそ放たずとも、単調な冬の景色を清廉に彩ってくれるのです。
◇◇◇
そして不香の花咲く森の中には、鳥たちの澄んだ歌声が響いています。
I Heard a Bird Sing
Oliver Herford
I heard a bird sing
In the dark of December
A magical thing
And sweet to remember.
“We are nearer to Spring
Than we are in September,”
I heard a bird sing
In the dark of December.
小鳥の歌を聴いていた
オリバー・ハーフォード
小鳥の歌を聴いていた
12月の暗闇で
まるで魔法のような歌
思い出しても心楽しい
「春はこんなに近づいた
9月の頃に比べてみれば」
小鳥の歌を聴いていた
12月の暗闇で
◇◇◇
ボードレールの恐れる冬の闇にも小鳥の歌声は響き渡り、厳しい顔を見せる冬は、一方で他の季節には得難い贈り物を携えてやって来ます。
科学者で神秘論者のジョーン・ボリセンコが、こんな詩的な言葉でささやくように。
季節のリズムは身体のリズムと響き合う…
私たちの夢と内的生活は暗い冬にこそ着実に育まれる…
古い年は眠りにつき、私たちの仕事は終わる
精神的成熟という果実が実り、知恵と許しが刈り取られる
◇◇◇
ですから冬のもたらす恩恵に心を向けて、この月を迎え入れましょう。
もしもそれでもまだ冬の寒さに気が滅入るなら、私の好きな、中国の古いことわざをもう一つの贈り物として受け取っていただきたいと思います。
私たち皆が、暖かさに包まれた季節を過ごせますように。
誰かの優しい言葉は、寒い冬の三ヶ月を暖かくしてくれる。
(全ての英仏語訳 ほたかえりな)