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沈黙の映像は何を語るのか…ドキュメンタリー映画「旅するローマ教皇」

2013年から22年までの間に、37回外遊し、計53か国を訪れたローマ教皇フランシスコ。計800時間の映像アーカイブと、イタリアの巨匠ジャンフランコ・ロージ監督が撮影した映像をつむいで、一貫性をもつドキュメンタリーとして完成させた作品。ロージ監督は、前作「国境の夜想曲」(2020年)で、ISに蹂躙されたイラク、シリアなど中東地域の悲劇を、美しい風景を織り交ぜながら静寂なトーンで描き出した。今作品も、広島訪問の場面など沈黙シーンが多く、前作と共通している。映画は「沈黙を通して何かを語るのが一番難しいメディア」だというロージ氏が、引き続き新たな表現手法に挑んだ意欲的な作品だ。

教皇フランシスコの訪問地

教皇が各地で信徒に語りかける言葉が心に響いてくる。
アフリカ大陸から欧州を目指す難民・移民が絶えないイタリア・ランペドゥーサ島では
「無関心のグローバル化が、泣くという力を奪ったのです」

ブラジルの貧民街ファベーラでは
「連帯の文化とは、人間を競争相手やただの数ではなく、兄弟として見る文化なのです」

長年にわたり、全土を割拠する武装勢力の間で衝突が続いている中央アフリカ共和国では
「キリスト教徒とイスラム教徒は、兄弟。宗教や神の名を借りた蛮行に結束してノーと言おう」

2003年のイラク戦争以降、テロや政治混乱がおさまらないイラクでは
「戦争は狂気です。破壊することが、戦争にとっての発展なのです」

2019年11月に訪れた広島の場面には、原爆犠牲者に黙とうをささげる姿が「沈黙」とともに映し出される。

紛争、災害、暴力、貧困、混乱。世界に横たわる目をそむけたくなるものも多い悲しい現実を、教皇の言葉と目線を通じて描いた作品といえる。

訪問先で、信徒の声に耳を傾けるいくつかのシーンが印象的だ。「聞くことが大切。旅によっては考え抜く。決断はそこから生まれる」と教皇は語った。教皇が見せた沈黙と力強い言葉。それはどちらも、「世界のために何ができるか、すべきか」と苦悩し、前進しようとする宗教者の姿だ。

作品は、10月6日から、Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下、新宿武蔵野館などで始まり、全国で順次上映される。

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