凡人のカフェ開業 ~天才のカフェ経営を真似てはいけない~開業前1-⑤
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2015/6/18 Thu. pm7:00
紗季が『宮畑ありす』に『山下文七』を紹介してもらう少し前
cafe064で『樺山城平』はエスプレッソマシンの前にいた。
ホルダーに挽いた粉を丁寧に馴らしいれてボタンを押すと
蒸気を合図にしてエスプレッソが下のカップへ注がれる。
同時にミルクをスチーマーで温める
コォォォォォォ・・・・ブクブクククク・・
音が低くなったところでスチーマーから外し
スチーマーから蒸気をだして、口周りをさっと拭きとると
落とし終わったエスプレッソにスチームミルク注ぎ始める。
常人の倍はあろうかという
城平のゴツゴツした太く短い指や
ゆったりとした服の上からも見て取れる
がっしりとした体躯や武骨な風貌からは
全く想像できない滑らかさで
シンプルで綺麗なリーフができる。
カフェラテのラテアートである。
何も知らない人が城平の顔だけ見たら
このラテアートを淹れた人と
気づくのは少し難しいかもしれない。
その城平の周りを3人の女性が囲んでいる。
キッチン側、城平の後ろ側から覗き込むように
左肩側から社員スタッフ『西山あかね』
右肩側から現在青山学芸大学2年
アルバイトの『戸田 凛』
客席カウンター側から、
6時からの常連『黒石 千夏』が陣取る。
傍目で見れば城平が3人の美女に
囲まれているようにも見える。
特に千夏は
2年前まで芸能界の第1線で
活躍していた美貌を持つ
そんな3人とも城平のラテアートを
食い入るように見ている。
世間の男性からすれば
なんともうらやましい光景である。
しかしそこの4人には全く関係ないことであった
それほど城平はカフェラテに集中し
特に複雑なデザインやテクニックを
披露しているわけではないのだが
他の3人はその滑らかな動きに魅せられていた。
凛は大きな瞳をさらに
ぱっちりと広げて見入っているし
千夏はカウンターから身を乗り出し
ラテアートを作成している短い時間で
驚く度に体をくねらしたり、
手をわちゃわちゃさせている。
素直に驚いている2人と対照的に
あかねは真剣そのもの。
何回も間近で城平のラテアートを
見ているのにも関わらず
いや、何回も見れば見るほど
その動きへの近づき方がわからなくなる。
小さなことでいいから
城平の動きに近づくきっかけが欲しい。
その現状が『西山あかね』の顔を
引き締めたものにしていた。
『戸田さん B3に』
城平のこのセリフをきっかけに
ラテアート観察タイムが終わる
その間誰も声を発さなかった。
もしこの場面に紗季がいたなら
ラテアートを作成している間に
聞きたいことを頭でまとめて
終わったと同時に
城平を質問攻めにしたことだろう。
フとそんなこと思いあかねは紗季のことを思い出す。
『紗季ちゃんが・・・』
その後続けようとした言葉を
あかねはぐっと飲み込み
別の言葉に言い直す。
『物件探し始めているみたいですよ』
その言葉は誰に対してということではなく、
凛がカフェラテをは運びに行っていない今
千夏か城平かどちらどもなくへ発した感じだった。
千夏が反応してくれるかな
と思っていたが、
『もう、探しているんですね』
と、先に答えたのは城平であった。
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