『二十一世紀に生きる君たちへ』 司馬遼太郎 著
歴史小説で有名な司馬遼太郎が、子供たちへ向けて書いた初めての随筆『二十一世紀に生きる君たちへ』は、小学校6年生の国語の教科書に掲載されました。
教科書に載ったのはわたしが小学生ではなくなって何年も経った後のことで、10年ほど前までこの文章を知らずにいました。
たまたまわたしが営む店にて常連様と雑談中に話題にのぼり、すぐにこの随筆を読んだその時の感動は忘れられません。
それは短くも丁寧な文章で、そのすべてが心打つ言葉の連続ですが、わたしがとくに惹かれたのは、「自然物としての人間は、決して孤立して生きられるようにはつくられてない」から始まる部分です。
決して一人では生きられない人間は、だから助け合って生きていかなくてはならない。
そして助け合うために必要な感情は、「いたわり」であり「他人の痛みを感じること」であり「やさしさ」だと司馬遼太郎は言っています。
ここでハッとさせられたのは、以下の言葉です。
「根と言っても、本能ではない」のです。
歴史を愛し、かつて存在した何億という人生に思いを馳せて人々の生き様を見つめてきた司馬遼太郎が辿り着いた「未来の人々へ伝えたいこと」。
それは、いかに科学や技術が進もうとも、いつの時代であろうとも、生きていくうえで欠かすことができない「人としての心構え」でした。
愚かなわたしはすぐに忘れてしまうので、時々ゆっくりと全文読み返しています。
そうしないと、いつの間にか自分中心な考え方に陥って、「いたわり」も「他人の痛みを感じること」も「やさしさ」も忘れてしまうからです。
自然にも人にも助けられていることを忘れ、傲慢になったり卑屈になったり、いい年をして未熟なわたしの心は忙しい。
「いたわり」や「他人の痛みを感じること」や「やさしさ」は、たしかに、訓練し続けることで得られる大切な感情なのでしょう。
子供たちに向けて書かれた随筆ですが、大人が読んでも十分響きます。
むしろ大人にこそ読んで欲しい一冊。
なんとなく慌ただしい夏から、次の季節へと変わって行くこの時期、ちょっと立ち止まってまた読んでみたくなるこのごろです。