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全中

タイトルの「全中」にピンときたあなたは、中学生のお子さんをお持ちの親御さん、あるいは中学校の部活顧問、もしくは中学生でしょうか。わたしは中学生でも教師でもなく子供もいないのですが、「全中」とは「全国中学生スケート大会」のこと。

毎年この時期に長野市で開催される「スピードスケート」と「フィギュアスケート」の中学生精鋭選手が集まる全国大会です。店の定休日に行われて観覧無料で地元開催。行かない手はありません。今年もお弁当持参で「フィギュアスケート」の方に、丸一日観戦に行ってきました。一人で。

競技開始時間より1時間早く会場に到着したにもかかわらず、入り口には20人ほどの行列。「前回よりも確実に人が多い……」とたじろぎつつ列に並ぶと、わたしの後ろにもすぐに30人ほどの行列が。観覧無料で将来のスター選手の生演技が見られるとはいえ、これほどの人が開場前に並ぶと思っていなかったため、「もしかして選手の関係者も並んでいるのかな」などと考えていると、「中田君が棄権なのよね~」という声が聞こえてきました。
実はわたしも直前に得た情報で、注目していた中田璃士選手の棄権を知りガッカリしていたので、声の主を確認するとすぐ近くに並んでいたオバサマがさかんに話をしていらっしゃいました。

「どの大会も観覧料がかかるようになっちゃって、こういう無料の大会はホント貴重なの。だからもうずっと最初から観に来ているの。羽生君が3連覇してその後宇野君が3連覇。ちょっと前で言うと駿君(佐藤)や佳生君(三浦)が優勝よね。駿君の時なんて本当に素晴らしくって。あ、鍵山君? そうねあの頃はまだそれほどじゃなくて(注:鍵山選手も別の年に優勝しています)。とにかく間近で選手が見られるこの大会は絶対に継続して欲しいの。長野市民にとっては本当にありがたいことなの。世界選手権だって今年は日本でやるから観に行くけれど。え? ああそうなの、チケット取れたの。でも今年はチケット取りやすいのよ。羽生君がいないから。羽生君だけ見たいファンはもう来ないから」

これを聞いたわたしは、自分以上のオタ……いや、フィギュアスケートファンが地元にしかと存在していることに感動を覚え、3、4人ほど後ろの位置から何食わぬ顔をしつつ心の中で「まったくもって同感でございます」と激しく同意。

その後もオバサマは、

「テレビで見るのと生で見るのとはぜんぜん違うの。リンクカバー率(リンクをどのくらい広く使えているか)とか生で見ないとわからないから。イナバウアーとか、テレビ画面と生観戦じゃ伝わり方がぜんぜん違うのよ」などとベテラン生観戦者としての意見をとうとうと語られており、引き続き密かに「ついていきます」と誓うわたし。

やがて開場時間となり施設の中に入場するやいなや、案の定さきほどのオバサマは穏やかそうな出で立ちとは裏腹に猛ダッシュ。それを見て、誓いどおり「彼女の後についていくが吉」と考えたわたしは控えめに後を追います。
おかげさまで今年もジャッジ席真後ろの絶好座席を確保できました。まあ、そこまで走らなくてもこの時点では十分席は空いておりましたが。

全中のいいところは、このように良席で観られることはもちろんですが、何より観ている人の多くが技を熟知していること。
選手が挑んだジャンプの種類などどこにも表示されなくても、今どれだけ難しいことをやったのか、それが失敗しても成功しても瞬時に反応して拍手する観客。そして素晴らしい演技にはスタオベ(すみません、わたしはしませんでしたが。賞賛の意思表示であるため後れを取るとかえって気まずく、ひざ掛けの上でメモを取りつつ観戦している身にとってスタオベは難易度高し)。
全中は、応援する関係者の比率が高いこともあり、純粋にフィギュアスケートという競技を愛している人が観ている感じがとても居心地が良いのです。といっても、わたしの隣の席の女性はほとんど居眠りしてました。それもまたよし。

さて肝心の競技。
もうすべての選手が輝いていて素晴らしかったです。
記録の意味も込めて順位結果に関係なく印象に残った選手を挙げておきます。
やっぱり島田麻央選手は小柄なのに中学生とは思えない貫禄でずば抜けていました。中井亜美選手の姿勢と流れの美しさ、6分間練習で見せた3A-3Tにも感動。わたしの観戦メモには「いいものを見た」との記載が。手足の長い柴山歩選手は、全日本では初々しさを感じていたのに全中だとベテラン感。男子優勝の田内誠悟選手は人気が出そうですね(もう人気なのかもしれませんが)。高橋星名選手はリンクインから雰囲気があり、綺麗な滑りで何より楽しそうに滑っているのが印象的でした。表彰台には届かなかったけれど、花井広人選手もこれからがとても楽しみです。
全選手の競技メモをとりましたがキリが無いのでこのぐらいで。

中学生の演技でもこれほど素晴らしいのですから、世界のトップ選手の演技など生で観たら感激で卒倒するかもしれません。シーズンを締めくくる最高峰、3月のフィギュアスケート世界選手権がとても楽しみです。


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