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菊地成孔さんのライブに行った2014年のあの夜。人生もライブなんだって気づいた。

あたりまえだけれど、ライブって一度きり。

一度きりそこに居合わせた人だけが、楽しめるってことになっていて。

コロナ以前は、行かないとどうにもならない。

見逃したらそれまでよだった。

今は生ライブ配信などもあるけれど。

noteのお題で、

一度は行きたいあの場所

っていうのがあるけれど。

そのお題を見ていたら、逆に時間をさかのぼるけれど

#あのライブは忘れられない

みたいなことを思いついて。

わたしが忘れられなかったのは、菊地成孔さんのライブだ。

サックスを舞台の上にしずかに置くと、こんばんは、と低い声。

突然、せんさいで。って彼のあの声が囁く。

せんさいって? 聞いていたらそれが繊細なのか、先妻なのかわからないでいたら戦災のことだと、わかった。

彼はМCを続ける。

戦災でこれだけが、焼け残っててって言いながら袖のあたりとかに触れる
菊地成孔さんは、

袖の辺りとか焦げちゃってるんだけどって。

ずっと誰とも目を合わせないでいたのに、やっと観客の方を向いてくれて、

おじいちゃんのモーニングを着てきました!

って。

天才だったんでおじいちゃん、ちょっとあやかろうと思って。

そう言いながらスーツの裾あたりを撫でるようにしながら喋る。

わたしは、菊地成孔さんをテレビのインタビュー番組で見て雷に打たれたかのように突然好きになったものだから、ほんとうに音楽的素地もないんだけれど。

一挙手一投足に舞台の上の彼にまなこを預けながら。

指の動きの面白い人だなって思って。

今日、あえて誰も誘わずにひとりっきりで来て、よかったってその時至福のひとときを味わっていた。

サックスバンドネオンパーカッションのすべての音が、混ざり合って
耳に届いてくる。

耳じゃなくて、痛いところついてくるなって感じる時の(文章とかではよくあるけれど)、痛いところに直接響いてくる音色が、その日ライブを見終わった後も残っていた。

はじめて彼の奏でる音を聞いた時、ねっからのファンの方にとってはあたりまえすぎることだろうけれど。

夜の音だと思っていた。

彼は幼い頃から、ずっと不眠症のようで。

朝が来ると朝が来たことが信じられなくて、いまはほんとうのいまなのかと、いぶかしげに感じる子供だったとМCで語っていて。

そこまで筋金入りの夜好きだったのかと、おののいたけれど。

やっぱ好きだった。

よくクラシックコンサートの始まる前のシーンで、それぞれの楽器のパーツをそれぞれの弾き手たちが、チューニングを合わせている時のあの不協和音みたいな音のつらなり。

あれを聞いているとたちまち、不安におそわれることがあるけれど。

人と人との営みって、まさにああいう整合性のなさでもって成り立っているのかもしれないと、そんなことを菊地成孔さんのライブに行って、想像していた。

その時聞いていた、カヒミカリィとの競演

「Crazy He Calls Me」を聞きながら、からだのなかに降り積もっている音をひとつひとつ探るようにこれを書いているけれど。

うまくとりだせなくてもどかしい。

近くにいる人はわかると思うんですけど。
このおじいちゃんのスーツかびくさいんですよ。
かびくさいっていいねって、
ひとりごとのように彼は言って。

それを聞いていたわたしは、かびくさいという言葉がなんとなくわたしの中の、すきなもののひとつとして、昔からあったみたいで、いちいちぴんときて、突然心がゆさぶられた。

アンコールが訪れて。

アンコールってきらい。

あのアンコールだぞっていう空気が、せつなくなる。

そのアンコールで菊地成孔さんが何をしたかというと。

内ポケットかどこかに入れていたコロンをしゅっしゅっと。
彼の身体のまわりに吹きつけながら喋った。

わたしの知っているアンコールとは一味違っていた。

菊地さんの言葉コロンの薫りもたちまち、消えてゆきそうで、その消えてゆきそうなものは、やがてほんとうに消えてしまうけれど。

たとえば、かびくさいっていう染みついた匂いが、かつて消えてしまったものの証みたいな輪郭なのかもしれないなぁと、ぼんやり思っていた。

そして、わたしも大好きだったおじいちゃんの着物の内っ側の匂いを思い出しながら、三半規管がくるうぐらいあっちこっちが酔ってしまいそうな、そんなデカダンなよるよるよるって感じの夜を過ごしていた。

これは昔の日記だけれど。

今なら書けない。

ライブって、一度きりであることを実感しながら。
一度っきりっていうことにだけ賭けることはないけれど。
あのライブに行っていなかったら、って時折思う。

行ってない時間を過ごしてないので比較できないけれど。
あのライブを目撃して、立ち会えたことよかったなって。

そして、彼のあのМCは、おじいさんへの愛に満ちていて。

ある意味、彼がその舞台におじいさんの戦災で焼け残ったスーツを着て歌ってるって、もうファミリツリーをみているみたいで。

そう思うと。

音楽だけじゃない。人生だってライブなんだなって、これを書きながら思って。

人生も一度きりなんだしって、今すごく思っている。

ほんとうにたったそれだけのことだけど。長いつぶやきだったな。

ひとりきままコンテンツ

#聞きながら書いてみた

今日はNHKのあの番組みたいだけれど。やっぱりあの曲にします。

くるりさんの Remember me です。

ではどうぞお聞きくださいませ♬

闇にいる 手探りをする こころってどこ?
触れただけ 思い出してる にじむってなに?


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ゼロの紙 糸で綴る言葉のお店うわの空さんと始めました。
いつも、笑える方向を目指しています! 面白いもの書いてゆきますね😊