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『メリエス 月世界旅行』楽士のつぶやき

いよいよ迫ってまいりました。2024年「第4回カツベン映画祭」。
初回から連続出場させていただいておりますが、なんと!今年も雨予報〜。
これまでのカツベン映画祭の思い出といえば、雨関係の事柄も多いのですが、それも「雨の中、足を運んでくださったご贔屓筋のお客様」「雨の中、手作り運営で荷物運びを手伝ってくれた関係者のみなさま」など、心が温かくなるような素敵な思い出がいっぱいです。今年もそんな思い出が継ぎ足されそうな予感でいっぱいです。ご来場予定のお客様方は、どうぞ、お足元にお気を付けくださいませ。

楽士のつぶやき序文


さて、こちらの「楽士のつぶやき」シリーズでは、上映当日は暗闇で、マイクも設営されていないので、ひとことも言葉を発する機会のない無声映画の音楽生演奏担当者が紡ぎ出す音楽のあれこれについて、細かくマニアックにお届けするものです。

ジョルジュ・メリエス

実は、私は2016年に本作「月世界旅行」にて、「弾き語り」でデビューさせていただきました。その後、何回かマイクを装着して、ストーリーを喋りながらシンセを弾く形式でソロ上映を経験し、今回は6回目の上映ではじめて弁士とともに「演奏」に専念させていただくことになり新たな気持ちでジョルジュ・メリエスに向き合いました。

と、いうのも、私のメリエスレパートリーの中でも、SFのシリーズものともいえる「不可能を通る旅」(太陽にむかう物語)や「極地征服」(極点に向かう冒険)なども経験してきました。
その他にも複数回上映経験のある「音楽狂」など、数分の作品を担当させていただくチャンスに恵まれました。
よろしければ詳しくは、私の作品アーカイブをご参照くださいませ。

メリエスは、手品師でもあったので、初期の作品は特に、マジックとして映画をうまく活用してきたという感じをうけます。
映画「ヒューゴの不思議な発明」2011マーティン・スコセッシ監督作品や、
その原作の小説『ユゴーの不思議な発明』には、メリエスの奇想天外な空想と現実の生活が描かれています。特に小説版は、たくさんの挿絵があり、私の宝物として大切にブックカバーをして手元に置いています。

様々なトリック撮影は、最後の方に、海中をただよう生きている魚たちの姿でもわかりやすいと思います。薄い水槽を用意して、カメラの前に置いているということで、最近、YouTuberがまとめているものも拝見しました。実に面白い発想だと思います。

初見の方にとっては、そもそも月世界に引力とか空気とか、月に大砲でいけるのか?とか、宇宙服は?など、つっこみどころがいっぱいですが、月に住んでいる「セレナイト」という鉱物の名前を持った生き物がいて、最終的には一体を地球に連れて帰って「見世もの」のように檻に入れてしまうあたり…。パリ万博で有色人種たちを「人間動物園」のように展示をしていた時代制も鑑みているようです。

私もロードショーで拝見した映画『メリエスの素晴らしき映画魔術』のYouTubeも、貼っておきますね。

月世界旅行プレイリスト

家具の音楽

「月世界旅行」は1902年の作品なので、同時代のエリック・サティの「家具の音楽」の考え方を取り入れるようにしています。今でいえば、無印良品のBGMは、あまりメロディが記憶に残りませんよね。アイリッシュ音楽ということは感じても、この前お店に来た時と同じ曲なのか?注意を払わなければわからないような、印象の低い感じをあえて狙っている。そんな音楽を指すことばです。
サティには、別に「家具の音楽」という楽曲もありますが、ここでは、「概念」について、取り上げさせていただきました。

後にミニマル・ミュージック になったムーブメントも、サティの周辺のサロンに集まる音楽家たちにはあったようなので、そのようなニュアンスは、本作においては主に「インダストリアル」(工業的)な雰囲気の場面や、セレナイトの登場シーンで感じていただければ幸いです。

西洋式の様式美の音楽

モンテヴェルディ作曲 歌劇『 オルフェオ』より『 トッカータ』
序曲として、ごく短いですが挿入しています。

メリエス作品は、サーカスや、魔術が、バレエやオペラの所作と深く結びついているような所作がたくさんあり、エレガントを感じさせます。

道化師のブランル(Buffon)

ラストシーン、人々が輪になって愉快に踊るシーンでは、ステップが「ダブルステップ」だったので、「ブランル」(フランス語branle)の私がいつも、教えている保育園などのこどもたちと踊っている曲を入れました。バグパイプ奏者の近藤治夫さんとは、毎年、埼玉県の保育園の園庭で盆踊りのようにこの曲を演奏しながら踊っています。

その他のオリジナル曲

私は楽士になった2016年以前から、幼稚園の園長をしながら楽団「ぺとら」  since2007というヨーロッパのトラッド、古楽や、アラブやインドなど世界の民族音楽の小さな楽団を主宰し、民族音楽、古楽器演奏家のメンバーとともに、主にこどもたちや、公共施設のイベントにてレクチャーコンサートを行っています。

ここ最近は、無声映画で使う時代様式にマッチしたモチーフ(著作権の期限が切れた古い時代のもの)との隙間にその都度、自分でそれらしい曲モチーフを作ることが多いのですが、「月世界旅行」は、楽士としてソロになる前に楽団バージョンも何度か上映したり、こどもたちとミュージカルのようなこともしたので、オリジナル曲が数多く残っています。こちらでは、そのタイトルをご紹介させてください。

・東西東西〜冒頭 隊長バーボンファイユが、天文学者などを集めて講堂の講義台にて演説をはじめる箇所

・サーカス序曲〜昔のCM(サントリーローヤル)「剣と女王」にインスパイアされてつくった曲で、もう20年近く演奏しています。

・月についた〜月についた時

・ヴォーカリーズ〜星たちが窓をあけて、口々におしゃべりするミニマルな曲風。

・凱旋パレード〜探検隊期間のパレード曲 オペラ「アイーダ」に最初の1小節が似ています。イタリアの大作曲家ビゼーに「凱旋」という気持ちとエネルギーをいただきました。

拍子とメリエス

本当に久しぶりにメリエス作品に取り組んでみて、改めて感じたことは、
「たぶん、これは音楽をかけながら演奏したんだろうなぁ〜」
という感覚です。
蓄音機は、18世紀半ばから現れたそうなので、おそらく、メリエスの映画撮影時には、何かしらの音楽再生の術はあったと私は予想しています。
メリエスの動きをみていると、2拍子、3拍子、4拍子がきちんと感じられ、その通りに1拍目を強拍としていくと、ちゃんと小節をまたがずに終止することができます。ほんとです。
そして、リタルダンドを感じさせる腕の指揮のような動きを追っていくと、ちゃんとぴったりと終止できるのです。
ほんとです。

私は音大の専攻がリトミックで、今でも教えているので、拍子に敏感なのかもしれませんが、メリエスの作品の中で「音楽狂」では、楽譜もちゃんと3拍子ででくるくらいです。

細切れでしかフィルムが残っていない時など、この限りではありませんが、メリエスのバレエの「プレバラシオン」を感じされる指揮のような所作を発見すると、
「いざ」と、最初の拍をぴったりとあわせたくなります。

ほんとです。



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