見出し画像

女性の加齢性変化に関する知識とセルフケア / 高尾美穂『50歳からのこころとからだ』試し読み

血圧が高い、よく転ぶ、肌のハリがない、髪がパサつく、傷が治りにくい、やせにくい、尿トラブルがある、イライラする、やる気が出ない、コレステロール値が高い…年のせいだとあきらめないで。

NHK「あさイチ」でおなじみの産婦人科医、高尾美穂先生が閉経以降の女性が抱えるお悩みに答えます!女性ホルモンをよく理解して、50歳からも悩み少なく過ごすための一冊。

この記事では2024年5月23日発売の、高尾美穂・著『教えて美穂先生!50歳からのこころとからだ』より「はじめに」と本文の一部分を公開いたします。


はじめに


更年期を終えたあとの年代を、皆さんだったら何と呼びますか?
医学の教科書的には「老年期」と記載されていることが多いかと思います。更年期の荒波をやり過ごした皆さんにとって、老年期、と言われても、きっとピンとこないですよね、そんなに老けてないし。そう思うはず。

更年期、そのあとは老年期、と名前が付けられた頃、日本では平均寿命がそこまで長くなく、生命維持に直結するもっと大きな健康課題が幾つもあったために、閉経を迎える~迎えた前後の世代の女性の健康課題になんて、目を向けられる余裕はまだまだありませんでした。そして、更年期以降、そこまでの年数を生きることもなく寿命を迎えていたからこそ、老年期、というまさに人生終盤というネーミングで呼ばれ、その時期に起こりうる不調について、課題として取り上げられもしなかったわけです。

生活習慣病、および喫煙や飲酒による疾病リスク、その先に起きる心血管疾患、がん、メンタル疾患と、順々に対策方法が確立され、社会でも予防法や生活習慣の見直しが共通認識となって、やっと、女性の健康課題を取りあげることができるようになった今、を迎えました。

女性が、生理に伴う課題から解放され、妊娠、出産、子育てからもようやく解放され、もしかすると親の介護からも解放され、時間とエネルギーを注ぐ先を自由に選べる年代、それがまさに50歳からの人生だと思います。
自分がしたかったことを、自分で選べるときがやっと来た。そんな待ちに待ったタイミングに、からだがまあまあ元気で、こころもまあまあ調子よくいたくないですか?

私たちの人生を決めるのは自分自身であるのと同じように、私たちの調子がいいからだを手に入れるのは、まぎれもなく自分自身です。調子がよい状態を手に入れることを諦めない。そんな女性が増えることを願っています。

50歳からの人生を何と呼ぶか?
私たち自身が自分で決めていいんです。みんなで、それぞれが好きな呼び方をしてみませんか?私だったら何て呼ぶかな。解放期、とかどうかしら。

2024年初夏  高尾美穂


第1章
女性ホルモンを知れば、
閉経以降の注意ポイントがわかる


女性ホルモンについてのおさらい

女性のからだは、女性ホルモンの影響を強く受けています。まずは女性ホルモンについて、おさらいしてみましょう。
女性特有の臓器である卵巣が分泌するホルモンには、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の2種類があり、妊娠・出産や女性らしいからだを作るために働きます。一般に女性ホルモンというと、エストロゲンを指すことが多いです。

10歳ぐらいで卵巣が成熟すると、エストロゲンの分泌量が急増します。ここで生理が始まり、20~30代には分泌量のピークを迎え、40代後半には急激に減少していきます。

エストロゲンには、以下の3種類があります。

エストロン(E1)
脂肪組織や副腎などで局所的に作られて、限定された場所に作用します。閉経後のエストロゲンはこれのみになります。体内の脂肪量が多いことでエストロン量が多くなると、脂肪依存性の乳がんのリスクが高まります。

・ エストラジオール(E2)
卵巣で作られる最も強い作用を持つホルモンで、全身に作用します。閉経後は作られません。エストロゲンというと、この卵巣で作られるエストロゲンを指すことが多いです。

・ エストリオール(E3)
妊娠中だけ作られるエストロゲンで、E1とE2から変換されて作られます。

詳しくは後で紹介しますが、エストロゲンは、排卵、生理を起こして妊娠のための子宮環境を整える以外に、男女問わず、骨、筋肉、血管、皮膚(厚さ・弾力性、コラーゲン、ヒアルロン酸、水分の保持)、肝臓のコレステロールの代謝調節、すい臓のインスリン分泌調節、脳の認知機能など、全身に作用します。

エストロゲンの分泌量がピークを迎えた後に排卵が起こります。排卵は妊娠できるチャンスで、赤ちゃんのために準備したベッドである子宮の内膜を準備します。妊娠しなかったときにそのベッドを手放して排出するのが、生理です。

一方、黄体ホルモンには、子宮を妊娠しやすい状態に整え、妊娠後は妊娠状態を安定して維持する役割などがあります。卵巣の機能が低下してエストロゲンが減少してくる頃には、黄体ホルモンも分泌されなくなります。

その他、女性ホルモン関連では、以下のホルモンがあります。

・ 性腺刺激ホルモン放出ホルモン
下垂体を刺激して、性腺刺激ホルモンの卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)の分泌を促します。
・ 卵胞刺激ホルモン(FSH)
卵巣を刺激してエストロゲンの分泌を促します。
・黄体形成ホルモン(LH)
卵巣を刺激して黄体ホルモンの分泌を促します。
・オキシトシン
分娩や出産後の乳汁の分泌を促します。
・プロラクチン(乳汁分泌ホルモン)
乳汁の産生を促します。

女性ホルモンに守られてきた生活を振り返る

女性の人生は、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌量の変動で区切って見ることができます。

生理が始まる10歳頃から閉経する50歳頃までの前半期が「エストロゲンのある40年」、閉経後の50歳頃から人生を終える90歳頃までの後半期が「エストロゲンのない40年」です。

それでは、生理がくる前からさかのぼって見てみましょう。

前半期以前は「小児期」で、多くの方は次の「思春期」にからだの変化を経験して、初潮を迎えます。男女の、生物学的な形態学上の差異の総称を「性徴」と言いますが、第1次性徴は、パッと見てわかる男の子と女の子の違い。生まれてすぐに外性器を見て、男の子か女の子かを判断します。

第2次性徴では、外性器を見なくても男の子、女の子と言い当てられるくらい、からだつきが変わります。男の子であれば、肩幅が広く、腰幅が狭く、筋肉質になります。女の子であれば、おっぱいが膨らみ、丸みのある脂肪質のからだつきになり、初潮がきます。

初めての生理がくるということは、からだつきの変化を迎え、卵巣が働き始めて、エストロゲンという女性ホルモンを分泌できるようになったという、からだからのサインなのです。

そして、エストロゲンの分泌量が安定し、生理が毎月順調にくる性成熟期には、生理にまつわる悩みが始まります。生理に揺さぶられる生活の始まりです。

生理前に起きる月経前症候群(PMS)、生理痛、妊娠したいと思ってもなかなか妊娠できない、思いがけないタイミングで妊娠……。妊娠、子育てと仕事の両立の問題も、この世代の悩みの一つです。

そして、やっと子どもが独立して仕事も自分でコントロールできるようになってきたかと思ったら、今度は更年期に突入。生理不順になり、更年期の不調、加齢による心身の変化が現れてきます。エストロゲンの減少によって、太りやすく、シワや白髪が目立つようになって、「老い」を実感するようになります。

大体50歳くらいで卵巣は働きを終えます。閉経がそのサインです。つまり、卵巣は10歳ぐらいから50歳ぐらいまでの約40年間しか働かない臓器と言えるわけです。

閉経の前後5年、10年の嵐の期間が「更年期」。更年期を越えると不調も和らいできますので、更年期の後は穏やかな「凪の時期」とも言えます。
ちなみに、男性における精巣は、機能は落ちていくものの、生きている間はずっと働き続ける臓器です。

女性の生殖能力にはタイムリミットがありますが、男性の生殖機能は落ちてもゼロにはならないという違いは、男女の大きな性差です。

閉経後は、エストロゲンの減少により加齢性の変化が顕著になります。骨がもろくなって骨折しやすくなったり、排尿トラブル、認知機能の低下などを感じるようになってきます。

女性は妊娠・出産という生殖の大事な役割を果たすために、生殖が可能な期間はエストロゲンで守られ、その期間があるぶん、様々な病気を経験する年代が男性よりも遅めであるので長生きできるのではないかとも言われています。ただし、エストロゲンがなくなってからの変化がたくさんあるのも性差と言えます。

こうして見ると、女性の人生は苦労ばかりのように見えますが、そんなことはありません。あらかじめエストロゲンの働きを知っておけば、エストロゲンがなくなってきたらどんな不調がおこりうるかがわかってきます。

ということは、落とし穴にはまらないための対策が立てられるのです。大丈夫!きちんとした知識を持って前向きに対策できれば、「悩み少なく」過ごせます。



お読みいただきありがとうございました。
続きはぜひ本書でお楽しみください!

〈目次〉
第1章 女性ホルモンを知れば、閉経以降の注意ポイントがわかる
第2章 更年期から始まる不調
第3章 自律神経の失調状態への対策
第4章 エストロゲンに注目!50歳からの不調
第5章 50歳からの不調への対策
第6章 教えて美穂先生!こころのモヤモヤの晴らしかた

高尾美穂(たかお・みほ)
医学博士・産婦人科専門医。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。イーク表参道副院長。ヨガ指導者。婦人科の診療を通して女性の健康を支え、女性のライフステージ・ライフスタイルに合った治療法を提示し、選択をサポートしている。
NHK「あさイチ」や日本テレビ「真相報道バンキシャ!」などのTV番組への出演や雑誌の連載、SNSでの発信の他、音声配信アプリstand.fmで毎日更新される番組『高尾美穂からのリアルボイス』では、体や心の悩みから人生相談までリスナーの多様な悩みに回答。1300万回再生を超える人気番組となっている。
『いちばん親切な更年期の教科書【閉経完全マニュアル】』(世界文化社)、『心が揺れがちな時代に「私は私」で生きるには』(日経BP)、『大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111』(講談社)など著書多数。

いいなと思ったら応援しよう!