見出し画像

「Spotify 新しいコンテンツ王国の誕生」

Spotifyの創業者の本が出るということで発売を今か今かと待っていた。結論から言うと私にはとても読み応えのある本であったと言える。まず読むべき人は、テクノロジー企業に勤めているエンジニアはもちろん、音楽業界に身をおいているビジネスマン、そして経営者、という順になるのではないかと感じた。

私は音楽業界に身を置いていたことがあり、今は音楽をベースとしたイベントの仕事を行なっている。その中で音楽に関わるWEBサービスも開発しているので少しこの本の感想がマニアックになることをあらかじめお詫びしたい。

私が大学を出て音楽の業界に身を置いた2005年、CDはミリオンヒットこそ出ないものの90万枚のセールスを達成する曲が3作品も出るなど、まだCDのセールスは順調であった。しかしその頃から本国のHMVやTOWER RECORDの倒産などがニュースになっていた。Spotifyの物語もこの2005年に一人の青年、ダニエル・エクのアイディアから動き出す。

画像1

ダニエル・エク氏 (YouTubeより)


2005年の音楽業界と言えば、2001年に発売されたiPodが徐々に進化を始め日本でもiPod miniやiPod nanoなど様々なバリエーションで浸透し始めていた。PCを使ってレンタルで借りたCDをデータにしてこのハードに保管して持ち歩き出す、そんな時代である。iTunes Music Storeが主流となり少しずつCDはこのまま無くなるのではないかと言われ始めていた。

ダウンロードが主流になり始めた頃、同時に様々な音楽がネットで聴けるようになり、それを違法でダウンロードし誰でも音楽が無料で楽しめると感じ始めていた。レコード会社の売上も年々減少し、レコード会社もかなりの数が廃業したり合併したり業界の再編が進んでいた。

画像2


私がプロデュースするミュージシャンもCDのイニシャル(初回生産)の数が年々大きく減少する、そんな頃であった。私もiPodに音楽をストックして聞いていた。音楽業界にいたのでiTunes Music Storeで正規にダウンロードして(笑)さて、この頃からダニエル・エクは全ての音楽をもっと手軽に聞けるサービス作りに着手することになる。

ストリーミングによる音楽の配信サービスが、これからの音楽業界のデファクト・スタンダードになると見抜いたダニエルは、音楽ストリーミングサービスで『音質』『使い勝手』と並んで重要視されるファクター『スピード』について徹底的にこだわった。その細部は本書を読んでもらいたいのだが、次に聞くべき曲を予測しながら、再生している曲と同時にストリーミングを開始させながら次の曲へストレスなく繋ぐサービスを目指した、という点に特に感銘を受けた。私もWEBサービスを制作するにあたって音楽を即座に聞けるように、即座にコンテンツを読めるようにを改めて徹底するよう考えを再認識させられた。

画像3


その後、Spotifyの地位を高めたものはDiscover Weeklyであったという記述があった。確かに私も日々Spotifyを使いながら、心地よい選曲が並ぶDiscover Weeklyの恩恵を受けている。そもそも私がSpotifyを利用し始めたきっかけは、私のDJの師匠が選曲に困っていた私に「Spotifyはレコメンドの機能がすごいので使ってみて」とオススメを受けたのがきっかけであった。Spotifyを無料で1ヶ月使い、良い楽曲と出会うことができ、私のDJのセットリストも充実させることができたため、有料サービスに切り替えることを決意した。それまではApple Musicのサブスクに入っていたのだが、Spotifyに切り替え、Spotifyの使いやすさを実感することとなった。本書でもSpotifyの無料サービスへダニエル・エクはこだわった。

しかし、この無料でサービスを受けるというところから有名ミュージシャンとの確執に至るのである。

カタログを引き下げてくるのはまず、ボブ・ディランだった。そしてあのテイラースウィフトなど。このあたりのやり取りも、この期間の音楽業界の駆け引き、勢力図などが描かれていて非常に面白かった。結論から言うとカタログは戻ってくるのだが、その争いの描写は見ていてドキドキした。しかしこの攻防もSpotifyの会員の増減にはほとんど影響しないのである。すでにSpotifyは、かなり市民権を得たサービスになっていたのだ。一方、ジェイ・Zは自身でプラットフォームを作った。Spotifyに競合として大きな影響を与えた“タイダル”である。この描写は最も難しい経営局面であったのではないかと感じた。

画像4



「ストックホルムの労働者階級で育った僕のような人間は、聴きたい音楽をすべて買う余裕はなかった。」

このような言葉を本書で残した。ビジネスに対し、嗅覚を若い頃から磨き、プログラムを学び華やかなビジネスの世界を目指していた若きダニエル・エク青年の大きな志が「すべての音楽をSpotifyというサービスでポケットに持って歩ける」というところにあったことはとても感慨深いものがあった。

画像5


音楽配信サービスが群雄割拠する時代になった現代において、間違いなく世界最大のサービスへと成長したSpotify。今後は、提携している中国の巨人テンセントとどのような音楽の未来を提案していくのかとても楽しみである。


是非、ご一読を。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?