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Z世代?いいえ、それはゆとり世代です

ここ数年、今どきの若者を指して「Z世代」という言葉が用いられている。だが、日本においてZ世代という区分は間違いだ。何故なら、我々がZ世代と呼称している若者たちの多くは、単なるゆとり世代だからだ。


戦後アメリカとZ世代

Z世代とは

Z世代はアメリカのコンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー(以下McK)が定義したとされる。
この定義では1960〜1970年代に生まれた人々をX世代と呼称した。そしてそれに続く形でY世代(1980〜1995)、Z世代(1996〜2012)と呼んだのが語源だ。

X世代という言葉の起源は、ハンガリー出身の写真家ロバート・キャパのフォトエッセイに由来する。このエッセイのタイトルは「Generation X」となっており、第二次大戦後の若者を写した作品だ。

ロバート・キャパ氏

英語圏では正体不明や未知のものを「X」という記号で表すことがある。
そこから転じて、第二次大戦後の未知の新世代=Generation Xと形容したのだ。そして次第に、マーケティングや人口統計学の用語として広まっていった。

スイスの写真誌「DU」に掲載された際の表紙

ストラウス-ハウ世代理論

アメリカでは「ストラウス-ハウ世代理論」と呼ばれる理論が存在する。
これは米国史や西洋史における人口の世代交代と、国家がおよそ80年周期で危機に直面する定説を理論化したものだ。
この理論では、80年のサイクルをターンニングという社会情勢の転機に応じた、以下の4つのステージで解説している。各ステージの長さは約20年だ。

  1. 高揚
    国家的危機の後に到来するステージである。ここでは社会や組織、制度が強く個人が弱いとされる。そして社会は集団としての目標に自信を持つ。
    つまり、結束の時代だ。しかし、多数派から外れたマイノリティの人々は息苦しさを感じる時代でもある。

  2. 覚醒
    高揚の次に訪れるステージで、社会に対する反発が強まり個人の自由が尊ばれる時代である。社会が成熟を迎えた後、人々は自己を取り戻したいと望むようになる。

  3. 解放
    覚醒よりもさらに個人が重視され、社会や組織、制度が弱まる自己主張の時代だ。高揚とはあらゆる側面で正反対の時代と言える。この時代、社会は分断や分裂を経験する。

  4. 危機
    このステージでは戦争や革命などに代表される破壊が行われる。
    国家は危機に直面し、社会制度はそれに伴い再構築される。この時代、人々は個人ではなく、社会を構成するメンバーとしての自覚を取り戻す。

ウィリアム・ストラウスとニール・ハウの著書「GENERATIONS」

この理論をアメリカの現代史に当てはめると、1929年に始まった世界恐慌から1945年の第二次大戦終結までが危機にあたる。そして戦後、アメリカは世界経済で優位な立場を手にして繁栄を迎えた。
さらに1950年代後半、公民権運動などに代表される黒人分離政策への抗議活動が盛んに行われた。繁栄と旧態然とした制度への批判、まさしく高揚だ。

また、1960年代末から活発化した学生運動(スチューデントパワー)は覚醒の時代を象徴する出来事と言える。そして現在、1990年代から起きた情報化により齎された新たな繁栄、すなわち解放の時代である。SNSで個人が強い力を持つ姿は、まさに解放を象徴している。

ストラウス-ハウ世代理論では、西洋史における近現代までの人々を以下のように分類している。本記事では、第二次大戦前後から遡って紹介する。

G.I.ジェネレーション
G.I.ジェネレーショングレイテストとは別名、第二次大戦世代とも呼ばれる。この世代は1901年〜1924年生まれの人々を指している。世界恐慌を経験し、G.I.(アメリカ兵を意味する俗語)つまり、第二次大戦の主な参加者でもあった。

 パリで日本の降伏を祝うアメリカ兵たち

サイレント・ジェネレーション
1925年〜1945年に生まれた人々を指す世代で、彼らは子供の頃に世界恐慌や第二次大戦を経験している。また、公民権運動や朝鮮戦争、ベトナム戦争、東西冷静勃発など歴史的イベントの目撃者でもある。

サイレントジェネレーション世代のクリント・イーストウッド氏(94)

ベビーブーマー、第13世代
ベビーブーマーは1946年〜1964生まれの人々を指す世代である。
また、1961年〜1981年生まれの後期ベビーブームに相当する人々は第13世代と定義されている[1]。すなわち、McKの定義におけるX世代にあたる。

ベビーブーマー世代のバラク・オバマ氏(63)

ミレニアル世代
ミレニアル世代は1982年〜2004年に生まれた世代であり、彼らはソーシャルメディアの恩恵を一番初めに享受した人々でもある。
McKの定義でのY世代やZ世代にまたがる集団だ。

スマホの普及とSNSの隆盛

ホームランド・ジェネレーション
2005年以降に生まれた世代をホームランド・ジェネレーションと呼ぶ。
この世代は9.11以降のアメリカの対テロ戦略、ホームランドセキュリティ[2]以後に生まれた人々である。彼らは対テロ措置の監視・保護が実施された後の初めての子供世代で、新しい適応世代とも呼称される。
Z世代はこちらにも含まれる。

ワールドトレードセンター

このように、Z世代の語源には戦後アメリカの社会情勢が深く関連している。McKの定義とストラウス-ハウ世代理論は、後者の方がやや俯瞰的に近現代史を研究している点が異なるが、符合する点も多い。
世代論と言えば、マスメディアによる根拠のないレッテル貼りや印象操作と指摘する声もある。確かに現在、言葉が独り歩きして当初の意味が揺らいでいる。だが、本来の意味では社会情勢により変化する人々の生態や習慣を知る上で、有用な概念だったことには留意したい。

戦後日本の世代論

Z世代に覚える違和感

戦後日本では以下に示す世代区分が存在する。
当然だが、これら区分は戦後日本の経済・社会情勢、教育制度に深く結びついて分類されている。

  • 団塊の世代

  • 新人類

  • バブル世代

  • 団塊ジュニア世代

  • 氷河期世代

  • ゆとり世代

そして現在、これらの世代に続く形で、Z世代が含まれようとしている。
だが、これには違和感を覚える。上で述べた通り、団塊〜ゆとり世代までは日本社会の変化により生じた、前世代との差分に着目して分類されてきた。
しかし、Z世代だけは日本社会の変遷により生み出された区分ではなく、単にアメリカから持ち込まれた流行り言葉に過ぎないのだ。

ゆとり世代≒Z世代

ゆとり世代とZ世代[3]は下記の通り多くの点で共通している。
ゆとり世代は1987年〜2004年に生まれ、2002年から2010年に改訂されるまでの学習指導要領「ゆとり教育」を受けた世代が該当する。

  • 生まれ年の前後およそ10年が被っている

  • デジタルネイティブ

  • 集団より個を尊重する

このように、ゆとり世代とZ世代は日本の世代論において、非常に線引きが曖昧だ。例えば現在、1996年の生まれの人は満28歳であり、定義的にはZ世代に該当する。だが、ほとんどの人はZ世代と捉えないだろう。
特に今、Z世代と称されている若者たちからしてみれば、28歳を同世代とは感じないはずだ。何故なら、マスメディアの多くが10代〜25歳までの人々をZ世代と報じているからだ。

個人の感想になるが、今年で30歳を迎えた筆者が高校生の頃、スマホは既に普及していた。2,3年生の頃にはLINEが流行し、旧Twitterも賑わいを見せていた。つまり、今の10代=Z世代とさほど変わらない環境だった。

レディー・ガガがAndroidスマホの宣伝してたよね

確かに、これは現在の10代〜20代前半にしてみれば、古い思い出のように映るかもしれない。しかし、ゆとり世代とZ世代には、それ以前の世代と比較した時のような文化的隔絶や行動様式の変化はないのだ。
違う点と言えば、ツール(主にソフトウェア)の流行り廃りだったりで、0が1になるような変わり映えは存在しない。

流石に高校生の頃、TikTokは無かった…

したがって、日本におけるZ世代とはマスメディアやマーケターが単に若年層を指して使う言葉に過ぎず、世代論により明確に分類される定義ではないことが分かる。
そもそも、日本の世代論とは前述の通り、前世代との差分に着目して分類されてきた。文化や行動様式にあまり差異が見られず、生まれ年も近いZ世代をゆとり世代と分ける意味は非常に乏しい。

結論

ゆとり世代とZ世代はほぼイコールだ。
現在、マスメディア等が語るZ世代像に当てはまる人々の多くは、小中または高等学校のどこかでゆとり教育を受けた世代である。完全な脱ゆとり教育は2013年から施行された。そのため、2006年以降に生まれた若年層は脱ゆとり世代と呼んだ方が適切だろう。

本来、Z世代という概念はストラウス-ハウ世代理論などの定説により、近現代の西洋史を俯瞰した形で、諸説はあるが比較的明確に定義されてきた。
しかし、Z世代という呼称が日本に輸入された段階で本来の意味は失われ、マスメディアやマーケター、コンサルティング業界が単に若者を指す言葉として定着した。
そこで、従来の日本の経済・社会情勢、教育制度により分類される世代区分とは齟齬が生じた。これがZ世代という言葉に覚える違和感の正体である。

自らをZ世代と称している若年層の方々、特に現在の20代は完全なるゆとり世代であり、全くもって新世代ではない

脚注

[1]
13世代の由来はストラウス-ハウ世代論で、アメリカ建国の父の一人であるベンジャミン・フランクリンの時代から数えて13番目の世代にあたるため。
ストラウスとハウの著書「13th gen : abort, retry, ignore, fail?」にて解説されている。
An irreverent, hip look at America's 13th generation of inhabitants, also known as "Generation X."

[2]
アメリカ合衆国国土安全保障省(DHS)は9.11の反省を踏まえ、設立された行政機関。アメリカ国内におけるテロ攻撃の防止、テロリズムに対する脆弱性の軽減、テロ攻撃による損害の最小化、また自然災害等から国土の安全を守る。

[3]
ここで言うZ世代はもっとも一般的な定義であるMcKの1996年~2012年生まれの若者を指す

参考文献

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