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「デュアル!ぱられルンルン物語」王道と異色のラブコメ
今回は「デュアル!ぱられルンルン物語」について語りたい。
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本作はある日突然、平行世界へ飛ばされてしまった主人公の奮闘を描くSFラブコメ作品となっている。
制作はAIC、原作に梶島正樹氏、シリーズ構成には黒田洋介氏が起用されている。勘のいい方ならお気づきだろう、この作品は「天地無用!」シリーズのスピンオフだ。しかし、天地無用!を知らない方でも楽しめる作りとなっているので安心して欲しい。
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悪役の不在と排除されたシリアス
本作最大の特徴はシリアス要素が皆無な点だ。徹底してシリアスを排除した結果、軽妙なコメディとして仕上がっている。また、明確な悪役が存在しない点も特徴だ。
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物語はロボットの幻が見える高校生四加一樹と怪しげな物理学者、真田博士が出会うところから始まる。
一樹は日常的にロボット同士が争う幻を目にしていた。その事を周囲に打ち明けるも、相手にされず妄想と一蹴され思い悩んでいた。
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一樹はある日、学園のマドンナ真田三月から自宅へと招待される。
美人に弱い一樹は誘いを断れず、三月の家に赴いた。到着した一樹を待ち受けていたのは、真田博士からの熱烈な歓迎。実は三月と真田博士は親子だったのだ。
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博士曰く一樹は選ばれた少年らしい。そうこうしている内、一樹は謎の装置へと括り付けられる。博士は平行世界の存在を証明するべく、装置を作り上げ一樹を招いたと言うのだ。だが、装置は未完成であり危険な代物だった。
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三月は装置を作動させようとする博士を止めに入った。
流石にやり過ぎだったと改める博士をよそに、三月は装置のレバーへと腰掛けてしまう。そして予期せず装置が作動し、一樹は平行世界へ転送されてしまった…
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このように、一樹が平行世界へ転送される顛末もコメディとして描かれるのがポイントだ。これは終始一貫、本作がコメディであるという現れに他ならない。また、一樹が転送された平行世界では「地球防衛軍」と「羅螺帝国」という勢力が戦争を行っていた。
22年前、とある工事現場で古代文明の遺跡が発見された。実はこの遺跡を発掘したか、見なかった事にして破壊したかが、その後に世界を分岐させる鍵となっていた。
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一樹が訪れた平行世界は遺跡が発掘されたIFの世界だったのだ。
そこでは羅螺帝国が古代文明の遺跡を独占するべく、世界征服を目論んでいた。そしてその野望を阻止するため、地球防衛軍が結成されていた。
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世界征服や戦争など物騒なキーワードが飛び出したが、先ほども述べた通り本作は終始一貫コメディに徹している。地球防衛軍と羅螺帝国の争いも陣取り合戦形式で、命の奪い合いは発生しない。
さらに、帝国側が侵攻する際は必ず「カミングスーン」と呼ばれる予告で、日時と戦闘区域を指定してから行われる。羅螺帝国が世界征服を望む理由も、遺跡が争いの火種にならないように一括管理するためだ。
つまり、本作には一切の悪役が存在しない。
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通常、善と悪やそれに準じる二項対立関係を軸に物語は進行することが多い。だが、本作はその固定観念を大きく覆している。勧善懲悪でもなければ、善と善が衝突するリアル系にも属さない、良い意味での茶番的ストーリーが本作の異色たる所以なのだ。
王道の中に潜む梶島ワールド
本作の王道部分、そしてラブコメの恋愛要素を担うのは梶島作品恒例のハーレム展開だ。梶島作品の特徴として、素朴な少年の元へ美女たちが押しかけ、ハーレムを構成する点が挙げられる。
デュアル!ぱられルンルン物語も例に漏れず、主人公の一樹は平行世界で数々のヒロインとフラグを立てる。
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梶島作品では一般的なハーレム物と異なり、一人を選んで正妻とするような結末ではなく、一夫多妻的なエンディングを迎えるのが常だ。本作では最終的に主人公の力により、2つの世界が統合される。
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統合され、地球防衛軍と羅螺帝国のどちらも存在せず平和となった世界。
そこで一樹は、並行世界で仲を深めたヒロイン全てと文字通りハーレムを築き上げるのだった。
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このように、王道を往くハーレム展開も本作のウリの一つだ。
誰も悲しまず、安心安全、大団円の100%ハッピーエンドはデュアル!ぱられルンルン物語でしか見られない。
他のエヴァオマージュ作品との差別点
本作はよく新世紀エヴァンゲリオンとの類似性を指摘され、紛い物や劣化コピーと評する声もある。だが、それは的外れだ。
確かに、エヴァからオマージュしたと思しき設定やシーンは多くある。例えば、作中に登場する人型兵器コアロボットはまさしくエヴァのようだ。
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また、コアロボットにはエヴァのシンクロ率にも似た、ライフシンパシィと呼ばれる設定も存在する。兵器と人がシンクロしないと稼働しない点、よく似ている。
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90年代末期や00年代初期、数多のクリエイターがエヴァの流行に触発され、オマージュ的作品を生み出していた。
一例を挙げれば、大張正己版エヴァは「銀装騎攻オーディアン」であるし、
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出渕裕版エヴァは「ラーゼフォン」だ。
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これら多くのオマージュ作品は、元ネタの衒学的な部分を真似ている。
しかし、本作の類似点はあくまで作中のガジェット的要素のみ、つまり上辺だけを寄せているのだ。確かにガワはエヴァそのままだ。
だが、物語の本質はオリジナリティに溢れていて、その点が同時代のオマージュ作品と比較して決定的に違うのだ。
つまり、本作の正体はエヴァのガワを被せ其の実、内容は梶島的伝統を踏襲した全く新しいSFロボットラブコメなのだ。
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退廃的な物語が持て囃された90年代末期に、ここまで明るく快活な作風に挑んだことはある種の偉業かもしれない。一見すると流行りに乗じた類似作に見えるが、オリジナリティ溢れるデュアル!ぱられルンルン物語は名作だ!