【前代未聞の名作?】変身3部作を紹介
今回は他に類を見ない異色の名作「変身3部作」紹介したい。
どんな作品?
ポニーキャニオンにかつて存在した15分アニメ専門レーベルのm.o.eが制作した「超変身∞コスプレイヤー」「ヒットを狙え!」「LOVE♥LOVE?」から構成される3部作。
超変身∞コスプレイヤー
コスプレ好きの女子高生が偶然邪神を復活させてしまい、配下の魔物や邪神を倒すため、コスモポリタンプレイヤー(コス∞プレイヤー)へと変身して戦う物語。実は劇中劇であり、後述する2作品はこの作品の制作にまつわる物語となっている。往年の特撮パロディが散りばめられておりマニア向けである。
この作品単体で視聴すると汚い言葉で評すればクソアニメである。しかし、あえてこのような作りになっていて、それこそが3幕構成の伏線なのである。
オープニング内の登場人物の紹介も劇中劇を強く意識させる演出となっている。上に役名が下に俳優名(キャラクター名)がクレジットされている。
この辺りで勘の良い特撮フリークの方は気づいたかもしれない。
俳優名は特撮ヒロインの名前を組み合わせたものとなっているのだ。
例えば「八神菜摘」という名前は激走戦隊カーレンジャーのイエローレーサー「志乃原 菜摘」とピンクレーサー「八神 洋子」に因んでいる。
「テレビ太陽」という放送局と「宝竹」と呼ばれるプロダクションが制作した”設定”となっている。
特撮パロディに終始した劇中劇のため、内容はかなり荒唐無稽さがある。パロディを成立させるための物語という色合いが強く、これだけ観たら駄作と感じてしまうだろう。
ヒットを狙え!
制作サイドから見た「超変身∞コスプレイヤー」という番組作りの物語である。番組制作にあたっての現場の苦労がコミカルに描かれている。
映像プロダクションに勤める新人「生田美月」は刑事ドラマを制作する仕事に携わりたくて「宝竹」に入社した。
しかし、彼女を待っていてたのは特撮番組「超変身∞コスプレイヤー」のプロデューサーとしての仕事だった。希望した刑事物ではなく特撮番組のプロデューサーとして抜擢されたことに納得がいかないながらも、コスプレイヤーの制作に関わる業務をこなしていた。ある日、どうしても刑事物に携わりたいという思いから先輩プロデューサーである「久留米健治郎」の元へ直談判へ向かう。
久留米の元へ向かうと完成した脚本に目を通しておくように命じられるのだった。美月から話を切り出そうとしたその時、なんと今日から美月がコスプレイヤーの"メイン"プロデューサーになることが告げられる。
久留米は新企画で忙しく他の局員もレギュラー番組にかかりきりで、部長は胃潰瘍で入院。人手不足から突如メインプロデューサーへ不本意ながら昇格してしまったのである。
突然のメインプロデューサー昇格に驚きを隠せない美月に対して、さらに久留米はこう告げる。
「俺たちの仕事はあくまで夢を創る仕事だ、夢を見られる仕事じゃない」
番組制作とは夢を見せる側であって夢見る側ではない、厳しくも本質を突いた久留米の発言によって美月はやる気を取り戻す。
こうして、新人メインプロデューサー生田美月の波乱の番組制作が幕を開けるのであった。
前作の「超変身∞コスプレイヤー」と比べると明るいタッチながらも、番組制作についてリアルに描かれ、さながらドキュメンタリーのように見える。
番組制作の裏側と新人の成長譚という2つのテーマが見事に描写された社会人応援アニメである。
LOVE♥LOVE?
「超変身∞コスプレイヤー」という特撮番組の原作者と出演者の物語である。
堀興学園3年生の「大泉直人」は超変身∞コスプレイヤーの原作者である。同じ学園に通う出演者の「八神菜摘」に思いを寄せていて、そのことから原作者という立場を隠してメイキングビデオのカメラマンを務めているのだ。
しかし、何故かコスプレイヤーの出演者5人から熱烈なアプローチを受けることになり彼のバラ色のカメラマン生活が始まる!
コスプレイヤーの撮影にあたり、役作りのため南の島で合宿が開催されることになった。メイキングビデオを担当する主人公も同行するのだが、出演者たちヒロインの様子がどこかおかしい。メイキングビデオでのアピールとは違う不必要なまでの主人公へのアプローチ、もとい色仕掛けの数々…
合宿が終わった後も主人公に普通ではありえないような役得の数々が舞い込む。思いを寄せる八神とデートをしたと思いきや八神の方からホテルに誘ってきたり、また女湯に間違えて入ってしまった主人公に桂木が裸で二人きり、咎めることをせずに迫ってくるのである。
コスプレイヤーの制作の傍ら、原作者・メイキングビデオのカメラマンを務めながら青春を満喫していた主人公であったが、思いがけないことからヒロインたちの真意を知ることになってしまう。
その日も出演者の一人である城ヶ崎ヒカルから楽屋で押し倒されアプローチを受けていた主人公だったが、奥の部屋から衝撃的な会話を耳にする。
どうやら会話の内容は桂木が八神に対して主人公に付き纏うのを止めるよう言っている。どういう意味か分からず聞いていると八神がすかさず、色目を使っているのは桂木の方だと言い返す。
そこで主人公は気づく、原作者という立場がバレていて、自分は色目を使われていただけだと。今までのヒロインたちの熱いアプローチは純粋な好意ではなく、番組内で出番を増やして貰おうと画策してのことだったのである。
真実に気づいた主人公は「そんなに出番が欲しけりゃ、いくらでもくれてやる!」と原作者という立場を活かして番組内で復讐することを誓うのだった。
原作者である主人公がヒロイン5人から迫られ、ありがちなラッキースケベ展開の連続から怒涛の伏線回収!
コスプレイヤーという番組が何故あんなに破茶滅茶な作品になったのか、それは復讐に燃える原作者のせいだったのである。
特撮パロディ、制作の裏話ときて最後はただのラブコメと思いきやちょっぴりダークな展開。一介の高校生である主人公が原作者という立場を抜きにしたら、芸能人であるヒロインたちからは普通は相手にされないのである。
3幕構成のオチに当たる本作だが、ラブコメの皮を被ったこれもまたリアルな制作秘話なのである。
まとめ・余談
m.o.eが制作したアニメの中でも特に意欲的な作品であり、マニア必見の作品となっている。原案・シリーズ構成に荒川稔久氏など、特撮とゆかりのある人物が携わっており特撮ファンであれば、より一層楽しめる作品なのは間違いなし。荒唐無稽な萌えアニメと思わせて実は劇中劇であり、番組制作の苦労やそこに秘められたドラマを見事に描ききった名作である。
また、近年の「戦闘員、派遣します!」や「戦隊大失格」と言った「戦闘員」「戦隊」といったワードを用いただけのパロディの域にすら達していない出オチ作品と違い、随所に本物の特撮リスペクトを感じる。
後年、「カメラを止めるな!」というヒット映画との類似性が指摘され、古のマニアが一瞬沸いたこともあった。しかし「変身3部作」も劇中劇とその舞台裏を描くという構成の元祖ではないので、比較するのはナンセンスである。
あえて申し上げるとすれば、2018年にもなってこの程度の使い古された手法で話題になる邦画界の下らなさというところか。