
ダダダイアリー、主に映画。2025/2/16ー2/27
2月16日
寺尾紗穂「南洋と私」読了。
「南洋群島は親日的。それは本当だろうか」小さな引っ掛かりから始まる寺尾の旅。サイパン、沖縄、八丈島。青柳貫孝という人物の生涯から、10年に及ぶ丹念なフィールドワークから浮かび上がるサイパン戦の様相。1人1人の私の声を掬い取り1人1人の私とが響き合う入魂のルポ。読み易さと読み応えと静かに残り続ける読後感が素晴らしい一冊。

2月17日
東京日仏学院で開催中の特集上映「フランス映画入門」にて、ジャック・リヴェット監督「アウト・ワン スペクトル」鑑賞。
嘗て13時間版の「アウト・ワン 我に触れるな」を2日かけて観た事はあったが短縮版となる本作は初鑑賞。
何処にでも現れるJPLとお金をせびりに彷徨うジュリエット・ベルト。ビュル・オジェ対ベルナデット・ラフォン。プロメテウスと13人組の暗躍と前衛劇団。70年代の空気感が装填された即興の遊撃。「我に触れるな」の記憶のフッテージを破壊する編集に呆然の4時間半。13時間版「アウト・ワン」をまた観たくなった。


2月19日
昼に歯医者へ。
その後不動産屋へ。現在の居住地が老朽化の為建て替え取り壊しの可能性が出てきたとの事で契約書の再手続き。
今すぐどうこうという話では無かったが、最短で2年後に退出しなければならなくなるかもと思うとちょっとしょんぼりする。
シネマヴェーラ渋谷で開催中の特集上映「脚本家で観るロマンポルノ」にて、
小沼勝監督、佐治乾脚本「犯される」鑑賞。
郊外の一軒家に住む新妻が夫の不始末の所為で一気に悲劇に突き落とされる。暴行、拷問と不快極まりない描写が続くが奈良の底で見えた一筋の光を頼りに掴み取る大逆転なラストで溜飲を下げる「犯される」より「埋められる」な展開のサスペンス。凄いなこれ。

それでまたふらっと無機質カフェのカフェモノクロームへ。
今日は公開中の映画「第五胸椎」とのコラボメニュー。スモアとホワイトチョコとミントカルピスのセット。マットレスに見立てたスモアと胸椎のチョコという中々の力作。粘り着く美味しさだった。

その後は用賀のロックバーエピタフに久々に顔出しハートランドをちびちび飲みながら、持参したThee MARLOES、La Luz、グラハム・ナッシュのCDを流して貰い良い気持ちになって帰宅。

帰宅後、BS「世界サブカルチャー史 欲望の系譜 特別編 戦争と大衆の百年」録画鑑賞。サブカルチャー史に於いて戦争は如何に描かれてきたかという考察による百年の総括。エイゼンシュタインからパトレイバーまで見所満載の内容だったが、最後の最後にカート・アンダーセンがガザについてトンチンカンな発言をして台無し。「アメリカが重要な役割を果たしてきたこれまでの戦争でこれほど情報が切り取られ誤解され間違って伝えられたことはありませんでした」つまりアメリカが虐殺に加担してるとSNSの切り取りによってそう思い込まされているって事。はっ?って思ってるうちに終わった。

2月20日
BS-TBS「西城秀樹 歌声は永遠に 蘇る情熱と汗の全軌跡」録画鑑賞。
2022年制作番組の再放送。全力で駆け抜けた63年の生涯を秘蔵映像で振り返る。とにかく名曲が多過ぎる事と真摯な人柄に改めて感動。「ブロウアップヒデキ」をまた劇場で観たいし、これだけ映像が残ってるのだからそれに続くドキュメンタリー映画を誰か作ってくれないかな。アーティストとして再評価すべき。そしてサブスク早く解禁して欲しい。

数年振りとなる新宿バルト9で3本鑑賞。
パク・セヨン監督「第五胸椎」
憎しみと愛を養分に育ったカビが主人公のダークファンタジー。斬新な視点と美しい映像でアートフォルムとしてカビを扱った作品。途中までカビじゃなくてマットレスのロードムービーかと思ったが展開としてはデヴィッド・ロウリー「ア・ゴースト・ストーリー」を思わせたな。

吉村愛監督「ベルサイユのばら」オスカル、アンドレ、マリー・アントワネットとフェルゼン。4人の愛と友情が絡まる革命の青春。原作に忠実なキャラクターデザインと展開。宝塚的なミュージカルシーン。20年の歳月をダイジェストの様に纏めた往年のファンには総集編的な新しいファンには入門的な作品。出来れば4時間半位で観たかったけど満足。

ソイ・チェン監督「トワイライト・ウォリアーズ決戦!九龍城砦」
想像の斜め上を行くアクションとルイス・クー、サモ・ハンをはじめとする豪華キャストによるナイス過ぎるキャラ。そして圧巻の九龍城砦の緻密な再現。笑いと涙と止まらない滾り。場所が無くなっても魂は消えない。熱き香港人たちの伝説の継承と心意気。香港映画の総決算であり歴代一位であり文化遺産でもある百点満点中2億点の傑作。こんな最高な作品がまだ出てくる香港映画の底力に感激。

2月22日
東京日仏学院エスパス・イマージュにて開催中の「フランス映画入門」で3本鑑賞して1日過ごした。
「アリス・ギイ作品集」
物語映画を最初に作ったアリスの初期作品13本一挙上映。様々なギミックを駆使したジャンル映画の数々。特に「世紀末の外科医」のくだらなさと「マダムの欲望」のクローズアップに感動。もう既に全部揃ってるじゃんて感じだった。
上映後には坂本安美さん講師によるレクチャー開催。アリスのキャリアと背景。各作品の解説と非常に分かりやすく興味深い内容で早速アリスの自伝をネットで購入。


ジュルメーヌ・デュラック監督「微笑むブーデ夫人」
醜悪な夫のモラハラから逃走する為にひたすら自宅で夢想する夫人の諦念。背景を暗くし人物を際立たせ抑制された表情で抑圧された感情を引き出し、内面の視覚化とフランス地方で閉じこもる閉塞感を描く事に成功したフェニズム映画。夫の温度差と断絶のシニカルな視点が素晴らしかった。上映後には菅野優香さんによる講義付き。アリスギイと同様に遅れて評価され紹介されたデュラックの多面性、フェミニスト、批評家、アクティビスト、社会主義者としての多方面な活躍。印象主義のアバンギャルド(ナラティヴアバンギャルド)の定義や心理描写をアクションとして捉えたデュラックの視点など興味深い内容だった。これは是非デュラック特集を開催して貰いたいと思った。


マックス・オフュルス監督「たそがれの女心」嘘つきで思わせぶりで直ぐに失神する美しきダニエル・ダリューの恋と耳飾りの行方。華やかなパリ社交界を舞台にしたエレガントなメロドラマ。バッドエンドともハッピーエンドとも取れる結末がスマートなソフィア・コッポラが撮りそうな作品だった。

2月24日
代官山のライヴハウス晴れたら空に豆まいてにて開催の『デヴィッド・リンチ:瞑想・創造性・平和』上映会へ。
瞑想はドーナツより甘い。超越瞑想(TM瞑想)を広める為に世界各国で講演をしたリンチのドキュメンタリーを鑑賞した後に皆でグループ瞑想を実践して、その後は大谷由美子さんによる作品とTM瞑想の解説、そして最後にAmericoのライブで締めるというてんこ盛りの内容。グループ瞑想はリンチへの黙祷も兼ねてた。
超越瞑想の内容は一見するとカルト宗教のセミナーにも思えるが、瞑想の表層を宗教が利用しているのだなあと感じたし、単にリンチの講演としても楽しめる内容だった。リンチが説明の為に描いたボードをそのままポスターにして飾りたいと思った。
あと「話し合いやデモや歌では平和は達成されない。瞑想でないと…」みたいなリンチの発言は全く同意しかねるし、イスラエルで講演した事もドン引きしたが、ウクライナやロシアも回ってたので、TM瞑想で本気で世界平和を目指してたのだなとは思った。
そうかこれ講演を行った時期は2007年から09年なのか。「インランド・エンパイア」の直後。それを踏まえるとまた見え方が違ってくるな。
会場でPeraker'sのにっちゃんさん、小柳さん、P!さんに遭遇。一緒に瞑想してランチして来た。結果的に逗子のPeraker's LodgeVol.9に向けてのプレイベントみたいになって楽しかった。





樋口泰人「そこから先は別世界」読了。
boidマガジン連載「妄想映画日記」2021-2023の書籍化。友人の死、知人の大病、自分の持病と大病、ヘヴィーな日々なのに食べる事への執着は治らない。朽ち果ててゆく世界と自分を受け入れて、そこからどう折り合いを付けてはみ出して行くか。しょんぼりしながら生きる事の肯定感が漲る素晴らしい一冊。本は読まなくていいがboidマガジンへの登録は推奨して行きたい。

2月27日
昼間から歯医者から不動産屋へという先週と同じ展開。
ル・シネマ渋谷宮下にて、ペドロ・アルモドバル監督「ザ・ルーム・ネクスト・ドア」鑑賞。
新自由主義と極右の台頭を嘆くジョン・タトゥーロや尊厳死を認めない白人刑事の登場など現代の末期感が表出してるが内容的にはジュリアンとティルダに頼り過ぎな薄っぺらな展開だったな。無駄に豪華な美術がペドロらしいけどなんで2人はそんなに金持ちなのかと思ってしまったし、説明的でハキハキと喋る感じは舞台だったら良かったが。もちろん2人の組み合わせは魅力的でそれだけで入り込めたけどもっとなんか出来たろうとか思ってしまった。表層だけが美しい作品。

ユーロスペースにて、筒井武文監督「自由なファンシイ」鑑賞。
日本舞踊から戯曲へ行って日常で混ざり合う手紙。演劇的展開が現実で実践されスラップスティックに遊び倒す。様々なモティーフを散りばめながら全てを映画の方へと引き込んだ痛快な作品。ファンシイさんの佇まいや振る舞いが山中瑤子監督に思えて仕方なかった。これはまた観たい。
