牛のランピースキン病から見えてきたワクチン問題
牛の感染症「ランピースキン病」が国内で初めて確認され、家畜伝染病予防法に基づき、福岡県の発生農場から半径20キロ以内の50農場に対して、牛へのワクチン接種が命令されました。けれども、このワクチンは日本では未承認です。そして注目すべきは、このワクチンを接種した牛に由来する牛肉は、アメリカへの輸出が認められていないということです。
「ランピースキン病」のワクチン
11月に、日本で初めて牛の感染症「ランピースキン病」が確認されました。12月13日時点で、福岡県の18農場で確認。
「牛の致死率は1~5%程度で、治癒後は出荷できる。感染した牛の肉や乳を飲食しても人には感染しない」そうですが、「今年度末までに、約5000頭にワクチン接種を行う方針」と書かれています。
このワクチンに関する 43企画さんの記事にはとても重要なことが書かれているのですが、大手メディアの記事ではそのことには触れられていません。
ものすごく気になったので、かなり時間をかけて関連情報を掘り起こしてみました。ですが、なかなか思うような資料が見つからなかったので、以下は私の推測も含まれます。明らかに間違っていることなどありましたら、ぜひコメントにてご指摘ください。
食の安全に関係してくるので、畜産農家だけでなく私たち消費者も知っておく必要があると思ったので、そのきっかけとしてまとめてみました。もし詳細などわかりましたら、また記事にしたいと思っています。
下記は、43企画さんが紹介していた資料です。
ランピースキン病発生に伴う米国向け牛肉輸出の取扱いについて
農林水産省・厚生労働省 令和6年12月10日
使用するワクチンの製品名は、「Bovilis Lumpyvax-E」(MSD Animal Health社製)。
実際に、下記のようなお知らせが各県で出ています。
長野県畜産広報 より
アメリカでは、このワクチンを接種した牛に由来する牛肉だけでなく、ワクチン接種が実施された都道府県での飼養歴がある牛や、輸送時に接種牛と同乗させた非接種牛もダメということです。感染した牛がダメなのはわかりますが、ワクチンを接種した牛がダメなのはなぜなのでしょうか。
同乗もダメというのは、ワクチンを接種した牛の呼気などからワクチン成分が排出されて、伝播する可能性も考えた対策のように思えます。それも含めて、なぜここまで厳しくするのか知りたかったのですが、アメリカ側が発信しているもので答えとなるような情報を見つけることはできませんでした。
見つからないと逆に燃えるので(笑)、いろいろ掘り起こしてみたのですが、情報が「ない」ということが答えなのかもしれないと思いました。
12月13日に行われた江藤農林水産大臣の記者会見で、アメリカの対応について語られましたが、なぜここまで厳しいのかは明らかにしていません。
熊本でも発生(12月13日時点で2農場)していますが、ワクチン命令は出ていないので、今のところアメリカへの輸出も可能のようです。ということは、やはりワクチンに問題があるということではないでしょうか。
日本での審議結果
2024年2月2日に開催された「第269回動物用医薬品専門調査会」で、「ランピースキン病生ワクチン(Bovilis Lumpyvax-E)を接種した牛に由来する食品の安全性に係る食品健康影響評価について」話し合われたようですが、非公開で行われていました。
今年の2月に開催していたことは知りませんでしたが、今の状況を考えると準備がよすぎるような気もします。
下記のページに議事録は公開されていますが、資料2:(案)動物用医薬品評価書「ランピースキン病生ワクチン(Bovilis Lumpyvax-E)を接種した牛に由来する食品の安全性」は【非公表配布資料】と書かれています。なぜ公表できないのでしょうか。
2024年2月21日付で、この審議結果に関するパブコメを募集していました。パブコメ募集も知りませんでしたが、畜産農家の方たちは意見を言う機会を得たのでしょうか。
下記はパブコメ募集時の資料です。
ランピースキン病生ワクチン(Bovilis Lumpyvax-E)を接種した牛に由来する食品の安全性
資料には、下記のように書かれています。「LSD」は、ランピースキン病のことです。
参照1、2、3、7と書かれているのですが、どれも非公表となっています・・・。
1. SUMMARY OF PRODUCT CHARACTERISTICS(非公表)
2. QALITY DOCUMENTATION(非公表)
3. SAFTY DOCUMENTATION(F)(非公表)
7. SAFETY DOCUMENTATION(A,B)(非公表)
Lumpyvax やBovilis Lumpyvax-E は、アメリカでも使用されていないと読み取れます。つまり、アメリカではこのワクチンが承認されていないからワクチンに関する情報も発信されていなくて、このワクチンを接種した牛に由来する牛肉は輸入しないということなのかなと思いました。
畜産農家の方へは、なぜアメリカがこのような対応なのかの説明はあったのでしょうか。もしご存じの方がいたら、教えていただきたいです。
議事録(3ページ)で気になったのは、添加剤について「添加剤等の含有量を記載しています。こちらはマスキングの対象となっておりますので、御参考情報として記載させていただきました」と書かれている部分です。添加剤等の含有量というのは、安全性に関連した重要な部分だと思いますが、それをマスキング、つまり黒塗りで見せないようにしているのはなぜなのでしょうか。
さらに、下記の部分も気になります。
ここでいう主剤は、「ランピースキン病ウイルスのNeethling株」になると思います。それが残留しているかもしれないけれど、人に対する病原性がないから、確認しなくてもよいという判断だと読み取れます。
もしワクチンを接種して主剤が残留していたら、ワクチン接種をしないで感染した牛の肉と同じことになるのではないでしょうか。それを食べることになるなら、自然に感染した牛の肉と結局同じことで、むしろ添加剤がない方がよいように思うのですが・・・。
上記の資料にも、ランピースキン病は牛乳の生産等に一時的な影響はあるが「人には感染せず、畜産物も食用上安全」と書かれています。そして、「ほとんどの牛は感染しても徐々に回復」するとも書かれています。
ワクチンを接種して主剤のウイルスが残るかもしれないがそれは無視してよくて、感染した牛のウイルスは無視できないというのは、矛盾しているように思います。
「可能性はかなり低いのではないかなと考えられます」という推測だけで、なぜ納得できるのでしょうか。
韓国では、1年ごとに全頭接種を継続していると書かれています。
このようなやり方は、人間のコロナワクチンと同じに思えます。本当に、畜産農家や消費者のための接種なのでしょうか。
もう1点気になったのは、下記の部分です。
今、アジア等で起きている流行について、「ワクチン製剤に混入物があって、それとの遺伝子組換えが起こって少し病原性が出ていることによるものと言われており」と書かれています。このことも、アメリカがワクチンを接種した牛をダメという理由の1つなのかもしれません。
議事録では、「これはランピースキン病の弱毒株の微量の混入のようでございます。そもそもそれが接種時に動物の中で組換えを起こしたような形なのかなというようなことが疑われているようでございます」と続いており、なんだか他人事のようです。
長くなってしまいますが、他にも推察などが多いので、もう少し挙げておきます。
牛の頭数の合計を明記していないような論文を引用し、それについて農林水産省からは明瞭な回答がないなんて、そんなことでよいのでしょうか。
流産の発生率も重要だと思うのですが、「入手できませんでした」で済ませてよいのでしょうか。しかも17年前のデータ。なぜ新しいデータがないのでしょうか。
「休薬期間」とは、医薬品残留の可能性がある畜水産物(肉、卵、牛乳、魚など)が食卓へ運ばれることを防ぐために定められた期間です。「ゼロ」というのは、どう考えればよいのでしょうか。
パブコメの結果も公開されていましたが、なんと2通しか出ていませんでした。
結果 (出された意見)
そして最終的に、このような評価書となったようです。
アメリカの牛へのワクチンに対する考え
アメリカが発信する「Bovilis Lumpyvax-E」に関する情報を調べる中で、非常に興味深い記事(Jun 16, 2023)を見つけました。今後、ランピースキン病予防のワクチンにも関わってくる内容だと思います。
肉用牛へのmRNAワクチン使用と消費者に対する安全性について書かれた記事で、賛成派と反対派、両方の専門家による見解が書かれています。
記事の中で、USCA(米国畜産協会)が発表したリリース(APRIL 19, 2023)の内容に触れています。
「現在、米国では肉牛用のmRNAワクチンは認可されていません。この技術についてはほとんど知られていないため、当団体はタスクフォースを結成し、事実と科学に基づいたこの問題の評価を行う予定です」
獣医師でR-CALF USAの動物衛生委員会委員長であるThornsberry博士は、家畜へのmRNAワクチン接種について懸念を表明。「多くの人がコロナワクチンの副作用や合併症を発症し、死亡している例もあることを指摘し、mRNAワクチンの安全性が明らかになるまでには何年もかけてさらに研究する必要がある」と語っています。
さらに、家畜用ワクチンの安全性テストでは、休薬期間も重要であることが書かれています。
USDA:アメリカ合衆国農務省
牛肉にmRNAワクチンはまだ使用されていないようですが、豚肉にはすでに、豚インフルエンザ予防saRNAワクチン「Sequivity」の使用が認可されています。
「Sequivity」はsaRNAと書かれているのでself-amplifying、つまり自己増殖型(レプリコン)ワクチンなのだと思います。
2018年には、豚用の自己増殖型ワクチンがすでに実用化されていたとは知りませんでした。アメリカでは、どれくらい接種されているのでしょうか。
上記の記事( May 17, 2023 )には、「Sequivityは現在、動物への使用が認可されている唯一のsaRNAワクチンである」と書かれています。ということは、豚の次にレプリコンワクチンが承認されたのは日本人ということになるのでしょうか。
「Sequivity」については、下記の記事(July 24, 2018)に詳しく書かれています。詳しく見る余力がないのですが「5.2 Probability of human exposure」など、気になります。
動物用ワクチン利用の手引き(豚用ワクチン編)(第2版)(第3 豚用ワクチン第2版)(令和6年3月) を見ると、日本では「京都微研 豚インフルエンザワクチン」(14ページ)と「フルシュアER 」(35ページ)が豚インフルエンザ予防として使われているようです。
長くなってしまいましたが、オーストラリアではランピースキン病予防RNAワクチンの研究も進められています。
関心を持たなければ、知らないうちに私たちの食生活にどんどんRNAワクチンが入り込んでくるでしょう。特に、メルク社(MSD社)は、HPVワクチンでもいろいろ問題があるので、家畜用のワクチンにも関心を持つ必要があると思います。