年末特別企画②:2023年 BEST映画トップ3『658㎞ 陽子の旅』『福田村事件』『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
今年は興味深い作品がたくさんありました。スケールが桁違いのハリウッド映画、活気のあるインド映画、魅力的なジャンル映画、大胆だけれど小規模なインディーズ映画………
映画館に行く頻度も昨年以上だと思います。
鑑賞後も心に残り、考えさせられた3作品です。(順不同)
『658㎞ 陽子の旅』
『658㎞ 陽子の旅』
監督:熊切和嘉
出演:菊池凛子
42歳フリーターの独身女性 陽子が、20年以上疎遠になっていた父の訃報を受け、兄とその家族と共に、故郷の青森県弘前市まで車で向かいます。
兄の家族は途中のサービスエリアで子どもが起こしたトラブルに気を取られ、陽子を置き去りにして行ってします。
所持金もなくヒッチハイクで故郷を目指すことにした陽子が道中でさまざまな人たちと出会うロードムービーです。
陽子を乗せた車は福島、宮城と進むので、車窓からは汚染土を収めて積まれた黒いフレコンバッグが延々と続くのが目に入ります。
原発事故からすでに12年いまだ復興半ばの東北の姿、陽子の背景となっている就職氷河期世代、非正規雇用・・。
解決できないものを心に仕舞い込んで、見ぬふりをしてきた彼女が旅に身を投じることで、過去の自分と対峙し、自分自身を見つめ直していく癒しの物語です。
菊地凛子さんの演技力は、予想を大きく超えるものでした。
哀しみや苦しみをにじませつつ陽子が変貌していく姿に圧倒されます。
ラスト近くで、陽子が”少し話しても良いですか・・。”と言い、自らの18歳で上京してからの悔いある人生を長台詞で語るシーンに心が震えます。
菊池凛子さんの渾身の演技が炸裂しています。
『福田村事件』
『福田村事件』
監督:森達也
出演:井浦新
関東大震災直後、集団心理が暴走して“朝鮮人狩り”が行われ、間違われた中国人や日本人も多数虐殺されました。
日本人にとっての歴史的汚点、不都合な史実を描いたドラマ作品です。
日本歴史の暗部を描く映画はこれまでいくつもありますが、商業映画として製作され、かつ商業的に成功したのは、この作品が最初ではないでしょうか。
史実を正確に描いても単純な善悪二元論では商業的な成功は望めません。
出てくるすべての人物に奥行きと厚みが必要です。
世の中には、単純な善人もいないし、単純な悪人もいない。
すべての登場人物が意地の悪いところも弱いところも抱えており、
その一方では勇気や善意も持っています。
そういう人たちが、思いもかけない出来事に遭遇して、思いもかけない役割を果たすという運命の不思議さを感じ観客は感動したのだと思います。
歴史の暗部を掘り起こしながら、それをエンターテインメントに仕立てることのできる作品がこれからも日本で製作されますように。
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
監督:マーティン・スコセッシ
出演:レオナルド・ディカプリオ
私の不勉強で、全く知らないアメリカ史だった。
福田村事件と同じように、歴史的汚点、不都合な史実を描いたドラマ作品です。
先住民の不審死事件を、サスペンスタッチで描いていて、頭の中に早くから真犯人が浮かんでいるのにも関わらず、展開が面白過ぎて3時間26分全然退屈しません。
事件も複数起こり、心情や思惑も様々で、
・アーネストはどこまで分かっていたのか。
・ヘイルが目指したのはただの金儲けなのか。
・モリーは何を思ったのか。
鑑賞後に色々と考えさせられました。理解を深め、考えることで感想が変わっていく作品です。
壮大なオクラホマの自然を目と耳で感じ、虐げられた人々への視点、根深い差別意識に対する批判的な視点を持った作品でもあります。
演出、撮影、衣装、美術、音楽すべてが高次元。
スコセッシ作品にディカプリオとデ・ニーロ。この3人のタッグは映画界におけるドリームチームです。
(text by NARDAM)