【映画】「シルクロード.com 史上最大の闇サイト」感想・レビュー・解説

面白かった。これが「実際に起こったこと」だとは。誰かが脚本を書いたんじゃないかって思うぐらい、「あり得ないだろ」という展開を見せる。

さて、先に書いておくべきことがある。この映画は冒頭で、

【これは、記者による取材と想像によるフィクションの産物である】

という表記が出る。つまり、「実話を基にしたフィクション」というわけだ。このような表記が出る場合、僕はこんな風に解釈する。「裁判資料や本人への取材などから判明したことは可能な限りそのまま使う、しかし、それでも分からない部分は想像で埋める」。もちろん、フィクションとして面白くするために事実を意図的に改変した箇所もあるかもしれないが、少なくとも僕は、「誰が逮捕され、どのような刑が下ったのか」という点は信じていいだろうと思う。

そして、この記事では詳しく触れないが、その「誰が逮捕され、どのような刑が下ったのか」という点だけでも、十分に衝撃的な映画なのだ。


この映画では、「シルクロード」と名付けられた闇サイトがメインで扱われる。「闇のアマゾン」「薬物版イーベイ」などと呼ばれ、取引が違法とされている商品であっても、まったくの匿名のまま、完全に安全にやり取りすることが可能なサイトだ。映画によれば、1日で1億円の売上を叩き出すほどの人気を集め、同時に社会問題となった。

「シルクロード」というサイトの存在は、昔読んだ本に少しだけ出てきた。それは「ビットコイン」の創成期を描くノンフィクションだ。

今でこそ多くの人が「ビットコイン」の名前を知っているだろうし、それがどんな仕組みなのか理解していないとしても、「暗号通貨」と呼ばれるものが世の中にあるということを理解しているだろう。暗号通貨は「ビットコイン」だけではなく様々存在し、それを扱う取引所もでき、資産運用の手段として安全かどうかはともかく、少なくとも「なんだか分からない怪しげなもの」ではなくなっているだろう。

しかし、サトシ・ナカモトという、未だにその正体が明らかになっていない「ビットコイン」の創設者が初めて世に「ビットコイン」を放った時には、それは「なんだか分からないただのデータ」でしかなかった。当然だが、「ビットコイン」を使って購入できるものなど世の中には存在しない。「ビットコイン」は、そんな風に始まったのだ。

そして「ビットコイン」の創成期に、結果として「ビットコイン」を広める役割を担ったのが、この「シルクロード」だったのだ。「シルクロード」が誕生するまで、「ビットコイン」は使いみちのないただのデータだったが、「ビットコインを使ってモノを買うことができる」となれば、「使いたい」「欲しい」と思う人も増え、それによって、なんだか分からないただのデータが信用されるようになっていくのだ。

「シルクロード」の創設者であるロスが「ビットコイン」を取引に使うと決めたのは、「匿名性を維持しながら支払いが可能なツール」だと判断したからだが、「ビットコイン」と「シルクロード」は実は志を同じくしている。

それが、「管理主体の存在しない自由な世界を構築する」というものだ。

映画の中でロスが、恋人に「ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス」という名前を出す場面がある。僕はこの経済学者の名前を知らなかったが、現代自由主義思想に大きな影響を与えた人物だそうだ。福祉国家などの「大きな政府」は介入主義であり、そうではない自由な社会が適切だと主張したらしい。

サトシ・ナカモトが何を考えて「ビットコイン」を生み出したのか、彼が明確に述べたことはないのだろうが、その設計思想から「管理主体なしで通貨を存在させる」ことが目的だろうと考えられたし、「ビットコイン」が生み出された当初は、自由主義(リバタリアニズム)を掲げる人たちから支持され少しずつ広まっていくことになったのだ。

ロスもまた、自由こそが大事だと考える人物だった。そして自らの天才性を、「匿名のままウェブ上で自由にモノを売買できるサイト」の設計と運営に注ぐことになる。彼は、

【僕が理想とする社会と現実世界のギャップにずっと悩んでいた】
【「シルクロード」が持つ価値は計り知れない。自由を取り戻す】

というようなことを言っている(これは、映画の中でロスが実際に口にしたものではなく、ロスの心の声のようなものをナレーションで語っているもの)。

また恋人に対しては、

【恥ずかしいから言いたくないけど、世界を変えたい】

とも言っている。彼の行為は犯罪であり、仮に犯罪でなかったとしても倫理的に許容されるものではない。彼も後々、「シルクロード」を立ち上げたことを悔やむような場面が何度も描かれる。

しかし彼は彼なりに、「理想の世界」を作ろうとした。彼にとって「シルクロード」は単なるビジネスではなく、「革命」なのだと語っていた。

「革命」に「正しいやり方」など存在するのか、僕には分からない。しかし少なくとも、彼は「誤ったやり方」で「革命」を目指してしまったことは確かだろう。

そんな「シルクロード」がいかに立ち上がり、いかに壊滅に至ったのかを、この映画では描き出している。

内容に入ろうと思います。
天才的な頭脳を持つロスは、「世界を変えたい」と願いながら何か実行できているわけでも、その手段も分からずにくすぶっていた。しかしある日、「薬物版アマゾン」の発想を思いつく。国防計画局と海軍が開発した「トーア」と呼ばれる匿名ネットワークと、匿名のまま取引が可能な「ビットコイン」を組み合わせ、誰もがどこでも薬物などの違法な物品を手軽にウェブ上で購入できるサイト「シルクロード」を立ち上げた。当初は利用客も少なかったが、ウェブメディアの記事になったこと、また評価システムを採用し安全にやり取りできるようにしたことなどにより、ユーザーが急増した。僅かな期間でロスは、17ヶ国で5000万ドル規模のサイトを運営することとなり、「シルクロード」のユーザーからは「天才」などと称賛されることとなった。
一方、更生施設からようやく出所した麻薬捜査官のリックは、古巣に戻るや異動を告げられた。先の捜査で問題を起こしたのだが、あと数ヶ月で定年ということもあり、異動させて定年まで大人しくしていろということのようだ。異動先は「サイバー犯罪課」。長年現場捜査官として働き、異動先ではメール1つ送信できないような人間に、サイバー犯罪の取り締まりなどできるはずもない。20代の上司もリックにはっきりと、「ゆっくりしてろ」と告げる。
そんな折り、リックはかつての情報屋から「シルクロード」の存在を知る。薬物をウェブ上で簡単に手に入れられるらしいと知り、捜査も兼ねて自分でも頼んでみると、本当にあっさりと手に入ってしまった。元麻薬捜査官であるリックは、この巨大な密売サイトを独自に追いかけてみることに決めた。
やがてこの「シルクロード」は社会問題化し、FBIが操作することとなった。リックが所属するサイバー犯罪課にも応援要請が来るが、「どうせFBIに手柄を取られる」とトップは渋る。「サイバー犯罪課のバッヂがついてれば誰でもいいから寄越してくれ」と言われて浮かんだのがリックである。
こうしてリックは、名実ともに「シルクロード」の捜査を行うことになったのだが……。
というような話です。

なかなか面白い作品でした。特に後半から「おー、そんな展開になってくんだ」と感じて、そりゃあまた凄い話だな、という感じになる。

個人的には、後半になるにつれてロスが追い詰められていくのが面白いと感じた。この「追い詰められる」は、「司法の手が伸びる」という意味ではなく、「ロス自身が思い悩む」という意味だ。

ロスは彼なりの崇高な理想のために「シルクロード」を立ち上げたのだが、彼が思ってもみなかった展開になり穏やかではいられなくなる。正直僕からすれば、「『シルクロード』みたいなサイトを立ち上げたら、そういう展開にもなるだろうよ」と思うし、そこに本気で動揺しているとすれば、あまりに見込みが甘いというか、先を見通せていないという感じなのだけど、とにかく映画の中でロスは、「『シルクロード』を立ち上げたことは、本当に『革命』として正しかったのか?」と思い悩んでいるような姿を見せる。

「薬物版アマゾン」なんてどう考えても無理筋だし、彼は周りの人間からも散々忠告を受けているのだけど、次第に取り憑かれるようにした「シルクロード」に関わっていくことになるのが興味深い。

まったくの独学で、完全に匿名を維持できるサイトを構築し運営できるだけの能力があるのだから、それをもう少し真っ当なことに使っていれば、本当に世界を変えることができたかもしれないのになぁ、と思うと残念だ。

また映画の中では、リックの家族の話もちょいちょい出てくる。実はこれが物語に結構重要な要素として絡んでくるわけで、どこまで実話なのか不明だが、人間の複雑さみたいなものを感じさせられた。

映画のメインとなる部分は、「パソコンが使えないリックがいかにロスを追い詰めるのか」なのだが、この部分はなかなか興味深い。FBI主導のチームは、ロスのIPアドレスをいかに追跡するかを考えるわけだが、パソコンが使えないリックにはそんなことはできない。しかし、彼は彼なりの手法でロスに迫っていくのだ。「古い刑事」ならではというやり方だと言っていいだろうか。

ただのフィクションとするなら、そこまでスリリングとは言えない作品かもしれないが、これが実際に起こった出来事をベースにしているのだと思うと、凄いなと感じる、そんな映画だった。

この記事が参加している募集

サポートいただけると励みになります!