【映画】「リバー、流れないでよ」感想・レビュー・解説
いやー、ホント、やっぱり世の中に「天才」っているもんだよなぁ、って思った。凄いもんだわ。
だって、「タイムループ」ものですよ。そんな設定、もう、世界中でやり尽くされてるじゃないですか、たぶん。もちろん、いろんな物語が描かれる中で、「なるほど、そういう展開は考えなかったなぁ」という物語も生まれてきてるとは思うんだけど、それにしたってこの『リバー、流れないでよ』は、ちょっと別格な感じがする。
なにせ、「同じ2分間がタイムループする」という設定なのだ。そんな物語、見たこともないし、物語として成立するとも想像できないだろう(少し前に見た、「MONDAYS」っていうタイムループものの映画も斬新極まりなかったけど)。
物語の設定は「以上!」って感じではあるのだが、もう少し書いておこう。
冬の京都・貴船に構える料理旅館「ふじや」は、女将のキミが「とにかくお客様に良い時間を過ごしてもらいましょう」という気概を持って、長い伝統を守り続けている。大雪が予報されている今日も、友人同士だろう男性2人組と、長らく缶詰にされている作家と編集者が泊まっており、つい先程帰りのお客様を送り出して、一段落ついたところだ。キミは、中居のミコトに「部屋の片付けが終わったら休憩して」と告げ、ミコトは少しだけ、別館沿いを流れる川で一息ついてから、番頭と一緒に部屋の片付けを始めた。
番頭と、「サミットの関係なのか、駅で不審物が見つかったらしい」「今度娘の彼氏が家に来るっていうんだよ」と他愛のない話をしていたのだが、しばらくするとミコトは、先程一息ついていた川沿いに立っていた。
「???」
とりあえず、先程の部屋の片付けに向かうことにし、怪訝そうな顔をした番頭と合流して部屋を覗き込むと、やはり先程片付けたはずの食器類がテーブルの上に置かれている。番頭とも、「さっきこの会話しましたよね」と、デジャブとは思えない違和感を語り合う。
するとまたしても川辺に。どうやら、かなり短い時間のループを繰り返しているようだ。お客様からも、「なんだこの雑炊、量が元に戻るんだけど」と言われたりして対応に当たる。
とにかく、理由は不明だが、旅館周辺の時間が2分間ループしているようなのだ。記憶は引き継がれるので、何度もループを繰り返しながら、状況把握と原因究明に努めるのだが……。
という話です。
映画が始まって、ものの5分ぐらい(もっと短いかも)でこのループが展開され始めるので、映画の内容はほぼ「2分間のループの繰り返し」である。とにかく、「すべてが2分前の状況に戻る(ただ、雪が降ったり止んだり積もったりと、世界線がバグったりもする)」「時間は戻るが、記憶はリセットされない」という制約条件があり、その中で物語が展開される。
さて、あなたが物語を作る側だったら、この設定の中でどんな物語を作るだろうか?
これはかなり難しいと思う。すべての展開が、2分経つとリセットされてしまうのだから、長く続く展開は描けない。もちろん、記憶は引き継がれるから、次の2分間に持ち越すこともできるのだが、大人数が関わる状況であればあるほど(たとえば、これからどうするのかという作戦会議など)、「リセットのスタート地点からみんなが集まる」という時間のロスが毎回発生する。その場合、2分間丸々は使えないのだ。
この映画では、登場人物もそれなりの数がいて、それ故、それぞれがそれなりに物語の中で絡む展開を用意する必要がある。だからと言って、観客に大きな負荷は掛けられないから、複雑な人間関係を描くわけにもいかない(どだい、2分間のループでそんなことはできないだろう)。
映画では、どこまで厳密にやっているか不明だが、実際にそれぞれの「2分間」を長回しで取っていて、体感的に大体「2分ぐらいだろう」という物語を繋いで構成している。映画は86分だそうで、ループ以外の部分が仮に6分ぐらいあるとして、80分。計算上、40ループぐらいしていることになるが、まあ40ループぐらいしていてもおかしくはない体感だ。と考えると、「それぞれの2分間を、実際の2分間で撮影できる内容」に調整する必要もあるのだ。
この点に関連して、そもそも撮影のロケーションも相当に重要だ。この映画では、実際に貴船に存在する「ふじや」という旅館で撮影が行われているそうだが、1ループ2分ということは、「徒歩で2分圏内にあらゆる要素が存在するロケーション」を選ばなければそもそも撮影が成り立たない。映画や演劇などでは、役者本人の性格などに寄せてキャラクターを描く「当て書き」というやり方があるが、恐らくこの物語は、「ふじや」という旅館の存在ありきで「当て書き」されているはずだ。
しかし、普通に考えてそんなことできるだろうか? というのも、この映画の場合、脚本を書く前(構想はあってもいいが、細かな脚本を書く前という意味)にロケーションが決まっていなければならない。となると、撮影交渉では、「映画の撮影に使いたいんですけど、まだ脚本は出来ていませんで、というか、ここで撮影できるのであれば、それに合わせた脚本を書きます」みたいな話をすることになるはずだ。そんな撮影交渉、あまり上手く行くような気がしない。
などなど、とにかくざっくり考えてみただけでもメチャクチャハードルが高い。実際には、もっと難点があっただろう(公式HPには、撮影期間中に大寒波に襲われ、一時撮影が中断された、とも書かれていた)。
タイムループの原因とか抜け出し方とかは、「凄く斬新!」というほどではないが、物語をちゃんと誘導し、適切に着地させるという意味では上出来という感じだ。いやー、ホントよく出来てる物語だわ。
上田誠、天才だな。
2分間が繰り返されるという妙が、物語の展開の中で随所に生かされており、だから、いろんな場面で観客から笑い声が上がる。冷静に考えてみると、割とシリアスな状況にいるはずなんだけど、そういうシリアスさも上手いことコメディに仕立てていて良い。それはつまり、「絶妙に現実感が浮遊している」という感じなのだが(まあ、タイムループしている時点で現実感もクソもないが)、しかし「老舗旅館」という舞台設定が、異様なまでの「現実感」を与えてもいて、その「重し」によって、物語全体が決して「軽薄」に見えないというところも絶妙だと思う。この辺りは、とても「森見登美彦的」だなと感じた。
しかも、さっき僕は「2分間のループだから、人間関係を描き出すのは難しい」と書いたけど、この映画にはちゃんと、主軸となる「人間関係」が描かれる。これも上手い。この2人の関係性を描くのに、「現実感が絶妙に浮遊している」という状況設定はとても大事で、普通なら「おいおいお前ら、こんな時になにしとんねん」みたいに言いたくなっちゃうだろう展開が、微笑ましいものに映る。素晴らしい。あまりこの点には触れないことにするが、ネットでちらっとみた感想で、「世の中のカップル全員に観に行ってほしい」ってのがあって、なるほどそうかも、という感じがある。
あと、個人的には、乃木坂46の久保史緒里が出てきてびっくりした。僕の推しは齋藤飛鳥なのだけど、割と久保史緒里も好きで、こんなところでお目にかかれるとは、って感じだった。
というわけで、冒頭の繰り返しになるけど、改めて「世の中には天才っているよなぁ」と思わされる作品だった。いやー、あっぱれですわ。