【映画】「THE MOON」感想・レビュー・解説
韓国映画のこういうド級のエンタメって、やっぱり面白いよなぁ。本作も、まあ面白かった。「エンタメを観て気分を上げて感動したい!」みたいな人には最高の映画だろう。ホント、良く出来てるなぁ。
ちょっと前に観た韓国映画『非常宣言』も同じだったのだけど、本作『THE MOON』も、とにかく「いやいや、そこからどうにかするのはもう無理でしょ?」みたいなことに何度もなる。『非常宣言』は、冒頭から「飛行機内で未知のウイルスによるテロが発生する」という「マジ無理な状況」だったが、本作の場合も「月面からの脱出」というなかなかの不可能さだ。本作では、中盤ぐらいで、「いやもうこれ無理じゃん」みたいな状況になる。でも、そこからどうにかなるし、でもその後も「無理じゃん!」の連続がやってきて、でそれをどうにかするのだ。
しかもその「どうにか仕方」も、素人目には「割とリアリティがあるやり方」に感じられる。専門家の視点からはどう映るのか分からないが、素人的には「なるほど、そういうやり方があり得るか」みたいな展開になるのだ。これが上手い。「そんな対処法、リアリティないでしょ」みたいな感じになるとなかなか入り込めないが、「確かにこれなら行けそうな気がする」みたいなライン上で物語が展開されるので、描かれる人間模様もするっと受け入れられる感じがある。
さて、「リアリティ」という点で先に書いておきたいことが、「宇宙空間で爆発って起こるのか?」ということ。正直、僕の知識では判断できないけど、「燃焼」ってのは酸素がないと起こらない現象のはずだから、宇宙空間では「炎が上がるような爆発」って起こらない気がしてるんだけどどうなんだろう? いや、仮にそうだとしても、「本作では視覚的にわかりやすくするために炎を出している」みたいな演出は全然いいと思うし、その点について「リアリティがない!」みたいなことを言いたいわけではないんだけど、現実的にはどっちが正解なんだろう。宇宙空間でも、爆発って起こるんかなぁ。
というわけで、まずは内容の紹介を。
KASC(韓国航空宇宙センター 実在しない組織)は5年前、「アメリカに次ぐ2番目の月への有人飛行」を実現すべくナレ号を発射したが、発射直後に爆発、3人の乗組員は命を落とした。この事故を契機に、韓国は国際宇宙連合から除名されてしまったのだが、韓国は諦めなかった。月には、地球での使用量の1万年分に相当するヘリウム3が眠っていると推定されており、その地下資源の開発競争の土俵に乗るためにも、月を目指すことにしたのだ。
そして2029年12月、新たに作られたウリ号に3人の宇宙飛行士が乗り込み、再び月を目指すことになった。
しかし、ウリ号が月周回軌道に乗る直前、太陽フレアの活発な活動により太陽風が発生。地球上でも様々な通信障害が発生するほどの規模であり、当然、大気の存在しない宇宙空間にいるウリ号の被害はより大きなものだった。一時は羅老宇宙センターとも通信が途絶し、ウリ号の状況はつかめなくなった。そして通信が再開されるや、最悪の状況が報告された。
宇宙センターからは船外活動の禁止の指示が出ていたにも拘らず、船長ともう1人の乗組員が損傷箇所の修繕のために船外に出ていた。そして燃料漏れによる爆発で命を落としたのである。生き残ったのは、ファン・ソヌただ1人。ウリ号の司令船は、温度調節機能が失われるなど損傷も激しく、「月への着陸」というミッションは続行不能と判断された。長官は、ソヌだけでも救えと指示するが、そこには大きな問題があった。
司令船を作った人物が、既にKASCにいなかったのだ。長官は、2人いるという司令船の制作者を呼び戻せと指示したが、1人は、5年前の事故の責任を取り自殺していた。そしてもう1人が、事故後に退職し、ソベク山の天文台の研究員として生きていたキム・ジェグクだった。
ジェグクはNASAに勤めていたが、5年前、韓国の月探査プロジェクトにどうしてもと請われ帰国していた。そしてナレ号の開発に携わったのだが、結果は失敗、以後宇宙開発には携わっていなかった。
ジェグクは5年のブランクを感じさせない指示で司令船の温度調節機能を回復させた。しかし、ソヌには指示を出した人物が誰なのか分からなかったため、ジェグクにあなたは誰なのかと尋ねた。そこで、ソヌとジェグクの関係が明らかになる。
ソヌの父親はナレ号の開発に携わっていたファン博士であり、事故後に責任を取って自殺した人物だったのだ。ジェグクとソヌは、ファン博士の葬式で顔を合わせていたことがあった。
その後ジェグクは、今もNASAで働く元妻ムニョンと連絡を取り、NASAが管轄している月周回有人拠点ルナー・ゲートウェイにウリ号をドッキングさせてほしいと頼み込んだ。ムニョンは次期長官と目されているディレクターであり権限も大きかったが、しかし、太陽風によりルナー・ゲートウェイも甚大な被害を被ったとして救助を断った。ジェグクは、どうにかして韓国だけの力でソヌの救出をしなければならなくなった。
しかしその後、状況は一変する。ソヌは、先程自分に指示を出していたのが父を救えなかった元FDであることを知り、さらに、命を喪った2名の宇宙飛行士の遺志を継ごうと、ジェグクの指示を無視して月への着陸を実行すると決断したのだ……。
というような話です。
大分長々と内容紹介をしたが、これでもまだまだ序盤である。物語は、ここから怒涛の展開を見せていくと言える。僕が書いた内容紹介だけでも「もう無理じゃない?」というような状況だが、物語はさらに無理な状況へと展開していく。よくもまあこんな不可能な状況に登場人物を追い込んで、どうにか物語を展開させるものだと思う。
さて、冒頭からしばらくは宇宙開発の歴史と宇宙飛行士の来歴をドキュメンタリー的に見せる展開が続くのだが、観ていてなんとなく、「宇宙飛行士が主人公っぽくない」と感じた。どうしてそう感じたのかはよく分からないが、やがてジェグクが登場して、その感覚が当たっていたのだと感じた。もちろん、ソヌにも見せ場はあるが、物語の中心はやはり、ジェグクの方にあると言えるだろう。
本作はとにかく、人間関係の設定がとても良い。実際にはこんな状況が揃うことなどないだろうが、その辺りはフィクションなんだから別にいいだろう。ナレ号の開発に携わった人物の息子が狭き門を潜り抜けてウリ号の宇宙飛行士になり、さらにその窮地を救うのが、父親と因縁のあるジェグクなのだ。さらにそこに、「宇宙開発の後進国である韓国」という設定が加わり、「宇宙に取り残された宇宙飛行士を救助する」というだけではない物語が展開されていくのも面白いポイントである。
「月面で展開される異常事態」「救助のための様々な作戦」「5年前の事故を間に挟んだ人間模様」などが絶妙に絡まり合い、視覚的にも感情的にもグッと来る物語に仕上がっている。ホント、「良く出来てるなぁ」という感じだった。CGとかのことはよく分からないけど、僕は違和感を覚えるところはなかったし、ハリウッド映画にも負けないレベルだったんじゃないかと思う。
さて、本作には「ジェグクと共に天文台で働く女性研究員」が登場する。割とメインどころの役に思えたのだけど、公式HPには載ってなかったから調べたのだけど、ホン・スンヒという若手の女優らしい。最初は、「物語的にどうしても男臭くなってしまうところに華を添える」的な役割かと思ったのだけど(まあそういう意図もあるとは思うけど)、実は結果的に、彼女は割と重要な役割を担うことになるわけで、その展開も面白かったなと思う。どうしても悲壮感が漂いがちな物語において、無邪気な明るさみたいなものが足されている感じも良かったなと思う。なんとなく、浜辺美波に似てるなと感じた。
似てるなと言えば、時々長官の顔が、モグライダーの芝に見えたんだよなぁ。まあどうでもいい話だけど。
しかし本作を観て感じたのは、「本作においては、色んな要因が絡まり合ってギリギリなんとかなったけど、実際に起こったらどうにもならないよな」ということ。本作の場合、特に重要だったのが「ジェグクの元妻がNASAで統括ディレクターを務めている」という事実であり、普通はこんなことはない。だから、実際にこういうことが起こってしまったら、どうするんだろうなぁ、とは思う。
やはり宇宙はまだまだ遠い場所ということだろう。宇宙に行きたいなどとはまったく思っていないけど、技術が進んで、もっと安全に気軽に宇宙に行ける時代が早く来るといいなとは思う。
あと、これもどうでもいい話だけど、韓国語って発音が日本語っぽい単語が結構あるんだなぁと思った。僕が聞いてて似てるなと思ったのは「拍手」とか「手動」って単語で、あと「1,2,3」のカウントも日本語の発音に近い気がした。まあどうでもいいか。
あと、NASAの統括ディレクター役のキム・ヒエが57歳だと知って驚いた。全然そんな年齢に見えない。なんなら30代後半とかでも全然行ける感じがする。ビックリ。
とにかく、視覚的にも感情的にも超ド級に面白いエンタメ作品でした!
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