【映画】「π〈パイ〉 デジタルリマスター」感想・レビュー・解説
面白かったかというと、ちょっとなんとも言えない。ただとにかく変な映画で、どことなく惹き付けられる感じもある。全編に渡って「天才の狂気」が充満する作品であり、そのわけの分からなさに放り込まれる感じは、やはりなかなか特異な体験と言えるように思う。
相変わらず何も知らずに映画を観に行くため、本作が映画『ザ・ホエール』の監督のデビュー作であることも知らなかったし、1998年に制作された映画であることも知らなかった。モノクロの映画だったこともあり、もっと古い作品だとばかり思っていたのだ。
しかも、これも鑑賞後に知ったが、監督はこの映画の制作のために、今で言う「クラウドファンディング」のような仕組みを自ら考案したそうだ。「映画が利益を生んだら150ドル返す」「利益が出なくてもクレジットに載せる」という条件で友人などから100ドル融資してもらったという。そのようにして、6万ドルという低予算で制作され、その年のサンダンス映画祭で最優秀監督賞を受賞したという。
物語は、「天才数学者が、自作のコンピューターで日々株価の予測を行っている」という設定で展開されていく。彼には次のような信念がある。
1.数字は万物の言語である
2.すべての物事は数字に置き換え理解することが出来る
3.定式化すれば、そこに一定の法則を見出すことができる
そしてこの3つの信念を元に、「故にすべての事象は法則を持つ」と考えており、それは株式市場も同じだと信じているのだ。
彼は日々、手の震えを前兆とする強烈な頭痛と闘っており、また、部屋にはいくつもの鍵を掛け、ドアのスコープから人の有無をチェックしてから部屋を出る。とにかく頭痛につながるような「自分を煩わせるものすべて」から遠ざかろうと意識しているのだと思う。
彼の元には日々電話が掛かってきて、女性が待ち合わせをしたいと言ってくる。一方、コーヒーショップで出会った、モーセ五書を研究しているという男は、「ヘブライ語は数であり、モーセ五書は数学的に解明できる」と訳の分からないことを言ってくる。また、彼と同じく円周率πの研究していた師から、研究中に現れた「バグ」の話を聞いたりもする。
そんなある日彼は、いつものようにコンピューターで株価予測をしていたところ、200桁ほどの謎の数字が画面に表示された後で、コンピューターが壊れるという経験をする。ギリギリでその数を印刷しておいた数学者は、しかしその意味が分からず、紙を捨ててしまった。しかしその後、モーセ五書を研究している男から、「216桁の数字に意味があるのだ」という話を聞き……。
とにかく、ストーリーはなんのこっちゃという感じである。映像的には、冒頭でも書いた通り、「天才数学者の狂気」が滲み出ているような雰囲気があり、それはなんとなく音楽からも感じられる。僕はあまり音楽に対する感度が高くないので、他の人が本作に対して称賛しているような「音楽が良い」という感覚がよくわからないが、映画の狂気的な雰囲気にとても合っているようには感じられた。
僕が読んだネット記事によると、この映画の公開に前後するように「円周率π」がポップカルチャーとして認知されるようになり、また、数学に関わる人たちがこの映画を重要な転機だったと語っているという。どの程度影響力があったのか不明だが、確かにそういう影響を与えたと考えても不思議ではないような作品には感じられた。
とにかく、変な映画だった。
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