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月刊文芸誌『文活』 | 生活には物語がみちている。

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2022年7月の記事一覧

バトンを渡すこと

『この度ご縁ありまして』という言葉を使うことが時々あるが、創作においての縁は我ながら恵まれていると感じる。  振り返ってみれば創作活動は小学生の頃から始めていて、人生とは切り離せない業でもある。当時は児童小説のパロディを書いたり家のぬいぐるみを登場人物に学習ノート一冊分物語にしたり、あの時のガッツは素晴らしかった。 その延長戦で大学は創作を学べる学部に進み、今も細々と続いているわけである。 お陰様で周囲も創作活動に理解ある友人ばかりだし、『創作って妄想でしょ』という通りが

メネフネの見える夏

 随分と昔から、祖父には湿気の多い雨の日に死んでもらおうと決めていた。だからこそ、カラッとした晴れの日に息を引き取るのは予想もしていなかったことで、祖父は最後まで自分勝手な人間だったのだと気付かされる他無かった。  久々に聞く蝉の声は、煩いというより懐かしい気持ちが大きい。大阪でも田舎町では蝉が鳴く。祖父が危ないと聞いて東京から帰省した時、鬱々しい気持ちの中には確かに少しだけ安堵が混じっていた。半分は暫く仕事を休めることで、もう半分は、これで祖父を憎まなくても良くなるという

シェアハウス・comma /御原 由宇 編

 くらしの、おとがする。  18:00、起床。ベッドから上体だけを起こし、ベッドサイドに置きっぱなしだった水とプロテインバーを口にする。  この部屋の遮光カーテンは優秀だから、時計以外に時を示すものはない。夏場はもっと遅く起きて、太陽を避ける。冬場は逆に今より早起きしたりもする。もっと北の地域に引っ越せばいいのにといつか言われたけれど、まぁそれはそのうちと言いながら、もう10年は経っただろうか。  この部屋からほとんど出なくても、このシェアハウスの中の動きは、手に取るように

連作小説「栞」 ‐ 4冊目・明日 -

 夜眠る前に、あぁやっと今日一日が終わったと安堵し、朝起きて一番に、あぁまた今日一日が始まったと溜息をつく。47歳、来月には48歳。ようやくまた一つ歳をとれる。今年受けた健康診断はオールA、両親・祖父母とも大きな既往歴なしの長寿家系。あまりにも、先が長い。日本人の平均寿命が長くなればなるほど、申し訳ないけれど私の絶望も増してゆく。断じて「死にたい」訳ではない。けれど「生きねば」と思えるほどの熱い何かはとうに失くしてしまった。何時間でも眠り続けられた10代20代の頃なら睡眠で時