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月刊文芸誌『文活』 | 生活には物語がみちている。

noteの小説家たちで、毎月小説を持ち寄ってつくる文芸誌です。生活のなかの一幕を小説にして、おとどけします。▼価格は390円。コーヒー1杯ぶんの値段でおたのしみいただけます。▼詳…
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2022年2月の記事一覧

【文活2月号ライナーノーツ】竹野まいか「土曜日のパン・オ・ショコラ」

私、劣等感の塊なんです。いきなりこんなことを申し上げると驚かれて、というか引かれてしまうのでいささか勇気がいるのですが。 体育が苦手な子供でした。特に水泳、あいつは駄目だ。まずプールに枯葉とか虫の死骸が浮いているのが無理。そう、虫も全面的に無理です。数学も苦手。集団行動は好きじゃないけどずっと平気なふりをして生きてきました。大人になってからは週5で会社に行くことと洗濯物を畳むのが嫌いだと気付きました。 だけどほどほどに得意なことや好きなものもあります。ほどほどだけど。国語

【文活2月号ライナーノーツ】上田 聡子「あのひとに雨を降らせて」|過去作のリライトについて

みなさん、毎日寒いですがお元気でいらっしゃるでしょうか。 上田聡子です。 2月のライナーノーツを担当させていただくことになりました。 どうぞよろしくお願いいたします。 今回は、過去作のリライトや、過去作にもう一度光を当てることについてお話したいと思います。 今回の「チョコレートな戦い」をテーマにした拙作「あのひとに雨を降らせて」ですが、こちらは六年前の2016年当時にnoteに書いた掌編「チョコレート中毒」を改稿・リライトしたものなのです、実は。 六年前の「チョコレー

あのひとに雨を降らせて

傷口に塩を塗られるとは、まさにこのことか。満面のつくり笑顔を顔にはりつけたまま、私は自分の不運を呪った。正確に言えばこの場合、しょっぱくなくて甘いんだけど。塩じゃなくて、チョコなんだけど。 本日の私といったら、デパート七階に設けられたバレンタイン催事場の販売員として、チョコレートカラーをイメージした薄茶色のエプロンと三角巾(アクセントにピンクのストライプが入った可愛い柄)をつけて、さっきから普段よりもワントーンもツートーンも高い声で客を招いている。 「ベルギーから輸入した

ノベルメディア『文活』のたのしみかた

はじめまして、ノベルメディア『文活』と申します。 『文活』は、人々の生活に物語をとどけるためのノベルメディアです。主な活動として、noteの小説家たちによる、月刊の文芸誌を発刊しています。この記事に気づいてくださったあなたに、ちょっとした自己紹介をさせてくださいませんか?  目次 文活とは どんな作品を出している? 参加している作家は? 文活の受け取り方 SNSアカウント 1. 「文活」とは何かと忙しい毎日のなかで、じっくりページをめくって、物語とふれあうよう

短編小説|土曜日のパン・オ・ショコラ

 その街に、クロワッサンの美味しいパン屋はあるか。  私が部屋を探すときに、これだけは外せない条件だ。  平日は冷凍ご飯と味噌汁、前日の夕飯の残りか目玉焼き。週末はクロワッサンとカフェオレ。それが私の朝食ルーティンである。  そして今日は土曜日。私の目の前には駅前の「ブーランジェリーかもめ」のクロワッサン、200円。近年のパン業界の高級志向とは相反するお手頃価格ながら、表面のパリパリ食感、バターの香りが鼻に抜ける本格派。前回のボーナスでふんぱつして購入したバルミューダのト

シェアハウス・comma 「薙 葵 編」

「台所で使うタオルってどこにある?どこにありますか?」 光をきろきろと反射する真っ白なマグカップを陳列していたら、後ろから勢いよく声をかけられた。少年の鼻の頭が汗で濡れている。子犬みたいだ。早く早くと急かすように足踏みをして、彼はもう一度、台所で使うタオル、と言った。親におつかいを頼まれたのだろう。台所のタオルと一口に言ったって色々なタオルがある。棚の間を通り抜け、ひとまず台所用品コーナーに少年を連れていった。 「これでもこれでもこれでもない」 いいリズムだ。「これでも

【文活2022年2月号】長編シリーズ2本開始|読み切りテーマ「チョコレートな戦い」|リレー小説「シェアハウスcomma」第2話

こんにちは。文活です。 今月号の文活は、長編連載を2本同時スタート! 毎月追うのが楽しみになるような、ボリュームたっぷりの小説をおとどけします! 新シリーズは ・西平麻依さん『噂通り、一丁目一番地』 ・なみきかずしさん『みずうみ』 の2本。 西平麻依さんのシリーズはすでに第一話を無料公開していますので、ぜひ読んでみてください! ほかにもリレー小説企画『シェアハウスcomma』の第二話や、読み切り短編集『チョコレートな戦い』を収録。今月号のゲストには、半径1メートルの

【掌編小説】クリスマス

1.ある遠い国で 外から聞こえてくる、おとなたちのうめき声にも似たざわめきで、アイラは目を覚ましました。 石づくりの質素な小屋。木の板でつくられた土間。ひとつのベッドで一緒に寝ている3歳の妹・シーラは、まだ隣で寝息を立てています。まだ朝は来ていないようです。部屋の中央に吊るされた裸電球だけがただ、ぼんやりと点いていました。 「おかあさん……?」 見当たらない家族を呼びながら、アイラはベッドから降りて、外のざわめきを確かめに、トタンの戸をぎぃと開けます。 ――まぶしい