些細な目
【書評】第四回阿波しらさぎ文学賞受賞作 なかむらあゆみ『空気』 評者:川村のどか
自分にとっては些細なことではないが、取り立てて大騒ぎするほどでもない事柄というのが、人生の中には意外に多くある。劇的なものよりも妙に記憶に残ってしまうそういう事柄が、普段の生活で意識されることは稀であり、ほとんどの時間、忘れたまま過ごすのだが、かといって無意識というほど、深く埋没しているわけでもない。
具体例を挙げれば、なんとなくポジティブなものとして捉えていたモンシロチョウが、実は野菜や花に卵を産みつける害虫だったというような事実を知ったときの衝撃がそれだ。いや、衝撃などと言うと言葉が過ぎるかもしれない。人によっては些事として受け流してしまえるようなことだ。しかし、当人にとっては衝撃と言って差し支えないものだった、そういう事柄が、確かにある。
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