見出し画像

わだかまりを残し、すれ違う父娘/NHK朝ドラ『おむすび』

前期の朝ドラが濃厚だったせいか、最初から「視聴しません」宣言をした人もいて、序盤から前途多難と言われ放題の後期朝ドラ『おむすび』。私はといえば、見逃した回が数話あるが、今も視聴を続けている。

(以下、ドラマの内容を一部含みます)

朝ドラ視聴が習慣になっていること、麻生久美子さんと北村有起哉さんが主人公・米田結(橋本環奈さん)の両親、愛子と聖人を演じていること、現在の舞台が福岡県の糸島であること。この3つが私の主な視聴理由だ。ドラマには俳優の須田邦裕さんをはじめ、福岡や九州ゆかりの人たちが続々と出演。ゴリけんの存在が薄すぎることだけが少し気になるけど(笑)、なじみのある人たちで2000年代初期の福岡を描いている点は楽しませてもらっている。

最初は「ギャルに感情移入できんかもしれん……」と世代ギャップを感じていたが、だんだんハギャレン(博多ギャル連合)の彼女たちがいじらしく思えてきて、糸島フェスティバル当日を迎える頃にはすっかり愛子と同じ気持ちになっていた。家族に心配をかけないようにしてきた結が、ハギャレンのメンバーたちと出会ったことで本来の彼女に戻るのではないか。最近はそんな風に感じていたが、ここへ来て雲行きが怪しくなってきた。泥酔した聖人が、ギャルに対する、というより娘たちに対する本心を語り始めたからだ。

農家の子らしく家の手伝いをして、みんなが望むような子どもでいることが一番なのだと考えていた結。それは幼い頃に経験した阪神淡路大震災と、親友を失った姉・歩の喪失感が影響している。特に大好きだった姉が突然金髪になってギャルへと変貌し、父・聖人とギクシャクした関係になった一件は、家族全体を覆う霧のようなもので今も晴れる気配がない。そんな一家の霧を晴らそうと、結は明るく振るまい、寂しさやつらかったことを誰にも言わずに生きてきたのだ。

真面目な性格の聖人は、家族と理容師の仕事を誇りに生きてきた男。福岡から出てきた自分を受け入れてくれた神戸の人たちには、とても恩義を感じている。だから子どもたちのことを愛子に任せ、震災直後から人助けに走った。「ギャルは不良」とみなし、歩がそうなったのは神戸に残って復興に奔走し、家族の元で暮らさなかった自分のせいだと自身を責め続ける聖人。見当違いをしていると視聴者側は分かっているけれど、当の本人は気づいていない。

聖人は娘の変化に理由が欲しかったのではないだろうか。家族それぞれが震災で傷ついた。だけど傷つき方は人によって異なる。立場も違えば感情のコントロールの仕方も違うのだから。それは、私自身が経験した地震でもよく分かった。それぞれのペースで歩いていくしかないのだ。でも聖人にはそれが難しい。みんな同じ歩幅で、同じ方向に歩いていくのが家族。彼はそう思ったのかもしれないが、無理な話である。

家族、とりわけ娘への愛情は人一倍あるのに、聖人はずっと空回り。そんな父親を、東京出身の北村さんが福岡と神戸のことばを自在に使って演じている。酔って本心をぶちまけるシーンは、彼の独壇場で素晴らしかった。北村さんが演じてきた役では中田みるく先生がお気に入りなんだけど、娘とすれ違う今回の父親役はとてもリアルだ。ちなみに北村さんは東京生まれだが、以前書いた通り祖母は九州出身で、少なからず九州には縁のある人。また父は、現在再放送中の朝ドラ『ちゅらさん』で一風館の住人・島田を演じている俳優の北村和夫さんである。奇しくも、父と息子で同時期に朝ドラ出演中ということになる。

「あのとき、ちゃんと娘と向き合っていれば」という後悔を、聖人はずっと引きずって生きている。そのことばを聞いて、結は再び「いい子」になろうとしている。今こそ歩の出番では? 大人になった歩を演じる仲里依紗ちゃんの見せ場が、ようやくやって来そうじゃないか。

ところで、中学時代の歩を演じているのは高松咲希ちゃんという子で、ドラマ内では虚無感漂う目が印象的。どこかで見たことあるんだが……とずっと思い出せずにいて、ウィキってみたら『おいしい給食season3』に出演している子だった。『季節のない街』では辰也(仲野くん)の妹を演じていたのか。これからが楽しみだ。

***

そんなわけで、徐々に“日常の中の朝ドラ”という感覚を取り戻しつつあり、私は私で視聴を楽しんでいる。願わくは、加山雄三でもなくマジックでもなく、マツケンサンバを熱唱する永吉を観たかったね。そしたらフェスでの優勝間違いなしだったのに。マツケンサンバって、あの頃すでに存在していたんじゃないのかしら。ひみこのスナックで、いつの日か歌ってくれる日を待とう。多幸感溢れる上様のサンバ。ああ、また紅白で聴きたい。一年の締めくくりに最高なんだよ。


いいなと思ったら応援しよう!

ぶんぶんどー
記事を読んでくださり、ありがとうございます。世の中のすき間で生きているので、励みになります! サポートは、ドラマ&映画の感想を書くために使わせていただきます。